第13話 先輩の大喝
――ピピピ。
「んう……スマホは……」
俺は布団をかぶったまま、手探りでスマホを探すと……お、あった。
スマホの画面を見やり、アラームの停止ボタンをタップした。
「ふわあ……朝、かあ……」
俺は軽く伸びをして
「ウーン……なんか気まずいなあ……」
リビングに向かう中、俺はそんなことを呟く。
いやだって、昨日あんなことがあったのに、ねえ……。
しかも、俺が母さんの思いを勘違いして、勝手に壁みたいなの作ってたのに、いきなり態度変えるっているのもなあ……。
「お、おはよう……」
とりあえず、俺はリビングに入るなり挨拶する。
まずは、ここから始めてみよう。
「おはよう」
すると母さんは、昨日までとは違い、遠慮することなく朝の挨拶をしてくれた。
多分、母さん的には一番気になっていた俺へのヘイトの事実を知っちゃったからだろうなあ。
で、俺はいつものように席に着くと。
「いただきます」
手を合わせ、用意されている朝食を口にする。
でも……今日は、本当に久しぶりに美味しいと思った。
「ごちそうさま」
俺は朝食を全て平らげて洗面台へと向かうと、歯磨きと洗顔をして身支度を整える。
そして。
「行ってきます」
俺は一年振りに、両親に向けてそう告げると。
「行ってらっしゃい」
母さんが、返事をしてくれた。
◇
学園に到着し、教室に入ると。
「お! 今日もゴブリン登場だ!」
「ハア……本当に目障り」
加隈がふざけながらそんなことをのたまい、悠木が俺の席を横切りながらそんなことを呟く。
というか何なの? 毎朝のコレ、オマエ等のルーティーンなの?
「おはようございます」
「「「「「おはようございます!」」」」」
木崎さんの登場に、クラスの男子が一斉に元気に挨拶する。もちろん、この俺も。
もはやこのクラスでの木崎さん人気は留まるところを知らない。そのうちこの学園を席巻するかも……って、その前に桐崎先輩という強大な壁が立ちはだかってたわ。
「! ……(ニコリ)」
うおおおお! 今日もコッチ見て微笑んだ!
うん、これで今日の一日が素晴らしいものになることは確定だな。
――キーンコーン。
お、チャイムだ。
するとクラスメイト達は、自分の席に着いた。
けど。
「オイオイ! 昨日に続いて今日も先生遅刻かよ!」
ハイハイ、加隈うるさい。
オマエも昨日と同じだから。もう誰にもウケてないから。気づけ。
――ガラ。
アレ? 伊藤先生じゃない……。
「えー、伊藤先生は急病のため、しばらく学園を休むことになりました。それまでの間、学年主任のこの私が兼任することになったので、よろしく」
「「「「「えー!?」」」」」
「静かに!」
あれー……ひょっとして、昨日の一件で先生のメンタルがやられたんだろうか……。
だとしたら……うん、別に何とも思わない。むしろ、もう戻ってこなくてもいいくらい。
主人公だって、別にヒロインが一人いなくなったところで困らないだろうし。
「では、HRを始めるぞ」
ま、これでほんの少しは、この教室も居心地がよくなったらいいけど……うん、無理だな。
◇
「失礼、望月くんはいるか?」
昼休みになった途端、桐崎先輩がうちのクラスを尋ねて来た!?
「おーいゴブリン、お呼びだぞー」
「「「「「アハハハハハハハハハ」」」」」
加隈のふざけた呼び声に、クラスの連中が一斉に笑う。
ハア……俺は別にもう気にしてないけど、先輩を巻き込む訳……「今言った者、そこに直れ!」……うおっ!? 先輩が怒った!?
「貴様! 名前は!」
「へ!? あ、あの……“加隈ユーイチ”っす……」
「では加隈くんに聞こう。今の言葉はどういう意味だ?」
先輩にすごまれ、加隈が視線を泳がせながらしどろもどろになる。
「早く答えないか!」
「ハ、ハイ! アイツの
「ほう? なら加隈くんの
「ウ、ウス! [トリックスター]っす!」
加隈はオドオドしながらも、少し得意げに自分の
それこそ、俺の[ゴブ美]なんかよりはるかにカッコイイと思ってるんだろう。奇遇だな、俺もだ。
だけど。
「フン、実力も伴っていないのに大層な名前だな」
「っ!?」
先輩は口の端を吊り上げ、鼻を鳴らして
多分、俺が馬鹿にされたから、その意趣返しをしてくれているんだろう。
でも……そんな態度、先輩らしくないですよ。
「全く……実力が伴わない奴ほど吠えるとはよく言った……「せ、先輩! 俺に用なんですよね!」……む、あ、ああ……」
先輩と加隈の間に割って入ると、先輩が少し戸惑った。
「で、でしたらここじゃなくて、別の場所に行きましょう! そうしましょう!」
「あ、う、うむ……」
俺は先輩の手を引き、一緒に教室を出る。
すると先輩は教室を出る直前で、クルリ、と
「いいか、よく聞け! この私の大切な後輩である彼を……“望月ヨーヘイ”を侮辱してみろ! 青龍偃月刀の錆にしてくれる!」
「「「「「っ!?」」」」」
先輩の一喝に、クラス全員が息を飲んだ。
「ふふ……さあ、行こうか」
先輩は俺へと向き直ると、微笑みながら俺の背中をポン、と叩いた。
「! はい!」
俺は先輩の後に続き、教室を離れた。
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