第27話 どこまでも一緒に

「「しゃべったあああああああああ!?」」

『?』


 俺と先輩の絶叫が、この“ぱらいそ”領域エリアに響き渡った。

 だけど……なんで[ゴブ美]はキョトンとしてるんだよ!? 驚くところだろ!


「せせせ、先輩! 精霊ガイストがしゃべるなんて、そんなことってあるんですか!?」

「いいい、いや!? 私も聞いたことがないぞ!?」

「ででで、ですよね!?」


 俺と桐崎先輩はチラリ、と[ゴブ美]を見やる。

 ……うん、意味が分からん。


「な、なあ[ゴブ美]……どうして、しゃべれるんだ……?」

『ウーン……[シン]にもよく分からないのです……』

「[シン]!? ……って、ひょっとして[神行太保しんこうたいほう]だから[シン]ってことか?」

『はいなのです!』


 [神行太保]……もとい[シン]は、ピシッと右手を高々と上げた。

 うん、元気があってよろしい……って、そうじゃなくて!


「も、望月くん……とりあえず、ガイストリーダーで精霊ガイストのステータスを確認してみたらどうだ?」

「そ、そうですね……」


 先輩の提案に頷き、俺はガイストリーダーを取り出して画面を見る。


 —————————————————————

 名前 :シン(神行太保)

 属性 :神仙(♀)

 LV :51

 力  :C

 魔力 :S+

 耐久 :D

 敏捷 :SSS

 知力 :S

 運  :B+

 スキル:【方術】【神行法】【全属性耐性】

【状態異常無効】【物理弱点】【繁殖】

 —————————————————————


「な、なんだこのステータスは!? いくらクラスチェンジをしたとはいえ、ここまで上昇するものなのか!?」

「あ、あはは……」


 先輩は驚愕し、俺は乾いた笑みを浮かべる。


 いや、というかステータスの上限は“SS”じゃなかったっけ……なのに、『敏捷』が“SSS”になってるし……。

 あの『まとめサイト』でも、確かに“SS”だったのになあ……。


「これは、私の[関聖帝君]と互角……いや、それ以上かもしれない……」

「ま、まさか! そもそも[シン]は物理が弱点ですよ? 完全に相性最悪・・・・じゃないですか!」

「っ!? う、うむ……」


 先輩のつぶやきを否定すると、何故か先輩は悲しそうにうつむいてしまった……ど、どうして!?


『マスター……今の言葉はないのです……』

「[シン]!?」


 そして[シン]にまでダメ出しされる始末。

 今の俺の発言にどこが悪い要素が……って、[シン]!?


『いいですか? きり姉さまはマスターが不用意に言った、『相性最悪』という言葉に心を痛めているのです。ですので、今すぐフォロー入れるのです!』


 ふよふよと浮かびながら[シン]が俺にそう耳打ちした。

 な、なるほど……た、確かに先輩は勘違いしてしまったのかもな。

 とりあえず、[シン]のアドバイス通りにフォローを入れておこう。


「せ、先輩! 俺が言った『相性最悪』っていうのは、あくまで先輩と戦った場合のことですからね! そ、それに、俺の[シン]は術者タイプですから、むしろ一緒に戦うなら物理攻撃主体の先輩の[関聖帝君]とは相性バツグンですから!」


 俺は先輩に向かって、少し大げさにそう告げた。

 ど、どうだ……?


「っ! う、うむ! そうだな! 確かに君と私が戦うなんてあり得ないし、一緒ならばお互いを補い合いながら戦うことができるからな!」


 俺の言葉に気を良くしたのか、先輩は打って変わってぱあ、と最高の笑顔を見せてくれた。

 よ、よかったー……というか[シン]、ナイスだ!


 俺は[シン]に向かってコッソリとサムズアップすると、[シン]も笑顔で親指を突き立てた。


「ふふ……そうだ、あの幽鬼レブナントが話の途中で襲ってきてしまったため言いそびれていたが……」


 先輩が少し恥ずかしそうというか、照れくさそうというか、モジモジしながら上目遣いでおずおずと声を掛けてきた。

 いつも凛としている先輩にしては珍しい反応だけど……可愛い。とにかく可愛い。いや、最高に可愛い。


「ええと……何でしょうか?」

「そ、その……もし君が良ければ、これからもエ、領域エリアの攻略に一緒に付き合ってもいいだろうか……」


 いつもの勢いはどこへ行ったのか、最後は消え入るような声で俺にそう言った。

 ああもう! この先輩はもう! 何というか、その、可愛すぎるぞコノヤロウ!


「も、もちろんじゃないですか! むしろ、俺からお願いします! 俺はもっと強くなりたい! 先輩と一緒にどこまでも!」

「あう!? どこまでも!?」

「はい!」


 そうだとも。先輩はこんな俺をずっと信じてくれて、助けてくれて、励ましてくれて……俺は、先輩に何も返せていない。

 だから、今度は俺が恩返しを……って、違うな。俺がこの先輩と一緒にいたいんだ。


 この……素晴らしい“桐崎サクヤ”って女性ひとと一緒に。


『うわー……マスターは無自覚にすごいこと言うのです……』


 ん? [シン]が呆れた表情で俺を見てる……。


 そして。


「? 先輩?」

「あ、あうあうあうあうあうあうあうあうあう……」


 先輩はその真っ赤な顔を両手でおおい隠し、しゃがみこんでしまった……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る