第96話 引っ越しの手伝い

 ――ピピピ。


「んうー……」


 結城と面会し、先輩と一緒に“アトランティス”領域エリアへと入った次の日の日曜日。

 俺はまぶたをこすりながら、さっきからけたたましくアラームを鳴らすスマホを必死で探している。

 というか、なんでスマホが見つからねーんだよ。


『うー……! ウルサイのです! [シン]はまだ寝てるのです!』


 などと不機嫌に叫ぶ[シン]。いや、起きろよ。

 などとツッコミをしていると……うあー、スマホの野郎、よりによってベッドと壁の隙間に落ちてやがる……。


「おい、[シン]。ベッド動かすからチョット降りてくれ」

『むー……仕方ないのです……』


 [シン]は渋々といった様子でベッドから出ると、ジト目で俺を睨みやがった。というか俺はお前のマスターだぞ? もうちょっと、こう……うん、まあいいや。


 ということで、俺はベッドを動かしてスマホを取ると、アラーム停止のアイコンをタップした。


『さあて……[シン]はもう一寝入りするのです……』

「コラコラ、起きろ」

『えー……今日は日曜日なのに、なんでこんなに早起きなのです?』


 [シン]の奴は不満たらたらで尋ねるけど、コイツ……もう忘れてやがる。


「オイオイ、今日はプラーミャの引っ越しの手伝いをする日だろ」

『あー、ミャーさんの』


 って、[シン]はプラーミャのことを“ミャーさん”って呼んでるのか? というか[シン]のネーミングセンスって一体……。


「ま、まあいいや。俺は先にリビングに行ってるぞ」

『あ! [シン]も一緒に行くのです!』


 結局は[シン]と一緒にリビングに入ると。


「あら、おはよう」

「おはよー」

『お母様! おはようございますなのです!』


 とまあ、俺の時とは打って変わり、[シン]はビシッと直立不動で挨拶をした。俺の時と、この態度の違いは何だよ。


「ハア……まあいいや、いただきます」


 俺は用意してくれた朝食を口に含む。うん、今日も美味い。


『んふふー、ウマウマなのです!』


 で、[シン]は朝からアイスを食べてゴキゲンである。主食アイスっていうのもどうかと思うけどな。


「ごちそうさま」


 食事を終え、洗面台に向かって歯磨きと洗顔をして身支度を整えて……。


「いってきます」

「いってらっしゃい」


 俺は家を出て先輩の待つ駅前へと向かった。


 すると。


「む」

「あ!」

 なんと、ちょうど駅に向かっている最中の先輩とバッタリ逢った。今日はツイてるぞ!


「先輩、おはようございます!」

「ふふ、おはよう」


 今日の先輩のコーデは、引っ越し作業を意識してか、Tシャツにデニムのホットパンツ、スニーカー、いつもは下ろしているワインレッドの髪をポニーテールにするなど、動きやすさを重視していた。こういったラフな格好の先輩も最高に可愛い。


「と、ところで、この時間だと、ササ、サンドラの家に行くには、その……少々早いな……?」


 などと、少し挙動不審になりながら、先輩はそんなことを言った。

 もちろん、俺は先輩の言いたいことは理解しておりますとも。


「あはは、そうですね。せっかくですし、このまま駅前に行ってカフェにでも入りましょうあ」

「! う、うむ!」


 俺がそう提案すると、先輩はぱあ、と最高の笑顔を見せてくれた。うわあ……たまらないなあ……。


 ということで、ちょうど開店直後だったルフランで一時間ほど先輩と雑談をしながら時間を潰すと、今度こそ俺達はサンドラの家へと向かった。


 ――ピンポーン。


『ア! ヨーヘイ! 今開けるから待ってテ!』


 インターホン越しにサンドラの笑顔が現れると、マンション入口の自動ドアが開いた。

 で、俺と先輩はエレベーターに乗り込んでサンドラの部屋がある最上階へと向かう。


「ヨーヘイ! 先輩! お待ちしてましたワ!」

「遅イ!」


 心底嬉しそうな表情を浮かべるサンドラとは対照的に、俺を見るなり怒鳴りつけるプラーミャ。双子なのにこの対応の違い……。


「さ、早速ヨーヘイにお願いしたいことがありますノ!」

「わ!? ちょ!?」


 俺はサンドラに引きずられるように部屋の中に入ると、連れてこられたのは……大量の荷物や家具、そしてぬいぐるみで埋め尽くされた部屋だった。うん、何だよこの有様は。


「な、なあ……コレ、全部プラーミャの荷物、なのか……?」

「ソウヨ、文句あル?」


 俺の問い掛けに、腰に手を当てて何故か偉そうに答えるプラーミャ。いや、お前はもうちょっと手伝いに来た俺に対する遠慮はないのかよ。


「だ、だけどさあ……既に部屋を埋め尽くしてる時点で、どうやっても綺麗に収まる未来が想像できないんだけど……」

「ア、アハハー……」


 俺がげんなりしながらそう告げると、サンドラは乾いた笑みを浮かべた。


「エ、エート……一応、荷物の一部はワタクシのものもありますので、な、何とかなると思いますワ……」

「お、おう……そうか……」


 ま、まあ、こんなところで悩んでてもしょうがない。


 とにかく、俺達はまずは荷ほどきを開始した。

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