第169話 欲しがる私に、くれたあなた⑤

■氷室カズラ視点


 そして迎えた信任投票。

 ……結果は、不正の発覚により無効。


 当然、私と牧村クニオ、そして旧生徒会メンバーは、学園祭が終われば学園から処分を受けることになる。


 私は生徒会室から立ち去り、学園を出ようとすると。


「氷室先輩!」


 振り返ると、望月さんとサンドラさん、そして……桐崎さんがいた。


「俺、気になって仕方ないんですよ。氷室先輩は、こんな真似をしたんですか? 生徒会が嫌いなんですか?」


 彼は、真面目な普段とは打って変わり、何故かふざけた態度を取っていた。

 あんな姿、この私に一度も見せたことがないのに。


「別に……生徒会やあなた達が嫌いなわけでは、ありません」


 生徒会のメンバーでなくなれば、彼にとって私なんてその程度の価値しかないんだろう。

 そんな彼の態度が気に入らなかった私は、吐き捨てるようにそう言い放った。


「へえー。んじゃ、昨日アイツが言ったみたいに、生徒会長になりたかったから、ですか?」

「…………………………」


 彼の問い掛けに、私は一切答えない。答えるつもりはない。

 私の気持ちなんて、何一つ理解していないくせに……。


「まあ……氷室先輩が生徒会長になったところで、絶対に桐崎先輩みたいにはなれませんけどね」

「っ!」

「大体、こんな卑怯な手を使って桐崎先輩を生徒会長から引きずり降ろしたところで、誰が氷室先輩についてくるっていうんですか? 強さだって、桐崎先輩よりも劣るっていうのに」


 望月さんのその言葉を聞いた瞬間……私の視界が黒く染まった。


 ◇


『……氷室くん! 氷室くん!』

「え……あ、はい」


 スマホの向こう側で呼びかける桐崎さんの声で、私はようやく我に返った。

 ですが……ふふ、あの時の望月さんは、わざと私を煽って、そして、桐崎さんとお互い本音で話し合える機会を作ろうとしてくれてたんですね。

 今は、望月さんの想いがハッキリと分かります。


『む……氷室くん、今、望月くんのことを考えていただろう……』

「いけませんか?」

『むむむむむ!? い、いけなくはないが……』


 不機嫌そうに尋ねる桐崎さんにそう返すと、彼女は唸りながら口ごもってしまった。

 あの・・桐崎さんも、望月さんのことになるとこうも変わってしまうんですね。


 ……私は、彼女の背中を真っ直ぐに追い掛けているようで、本当は何も見えてなかったんですね……。


『それで……も、望月くんと、その、な、何もなかったのだよな? そうだな? な!』


 さて……なんて答えましょうか。

 こんなに焦る桐崎さんをからかいたくなる一方で、私は望月さんに対して誠実でありたいとも思っている。


 だって、望月さんはずっと、私達を気遣って、私達のことを想って行動してくれていたんですから……。


 だから。


「……実は、少しハプニングがあって、望月さんが私の胸に顔をうずめてしまいました」

『ななななななななな!?』


 桐崎さんの絶叫が響き、私は思わずスマホを耳から離す。


『それはどういうことだ!? なんでそんなことになるんだ!?』

「あれは本当に不可抗力だったので、仕方ありません。私にも、もちろん彼にも非はありませんよ」

『むううううううううううう!』


 ……まあ、[シン]さんには非がありましたが。


「では、単刀直入にお聞きしますが、桐崎さんは望月さんと付き合っているんですか?」

『あう!? ななな、何を言ってるんだ!? わ、私が、その、もも、望月くんと付き合ってるなどと……!?』


 あ……これはまだ・・付き合ってませんね。


「ふふ……安心しました」

『ああ、安心だと!? それはどういう意味なのだ!?』

「もちろん、言葉通りの意味です」

『あうあうあう!?』


 今は、望月さんの想いは桐崎さんにあるかもしれない。

 でも……まだ私にも、チャンスはあるみたいです。


 私だって、素敵な男の子と恋をしたい。

 それこそ、望月さんのような優しくて、ひたむきで、素敵な男の子と。


「桐崎さん」

『あう!? な、なんだ!?』

「私……絶対に譲る気はありませんから」

『あうあうあうあうあうあうあうあうあう!?』


 桐崎さんに宣戦布告をすると、私は通話終了のボタンをタップした。


「ふう……」


 深く息を吐き、天井を見上げる。


 望月さん……。

 桐崎さんを盲目的に見ることしかできなかった私に、前に進む機会をくれた人。

 弱く、何もなかった私を、可能性のその先へ連れて行ってくれた人。


「[ポリアフ]」


 私は[ポリアフ]を召喚すると、彼女は私の肩に座り、頬ずりした。


「ねえ……私、大好きな人がいるの」

『…………………………』

「だから……一緒に強くなって、その人を支えるのを、手伝ってくれる?」

『! (コクコク!)』

「ふふ……ありがとう」


 望月さん……今度は私が、あなたを支えてみせます。


 そして。


「必ず、あなたを振り向かせてみせますから」


 笑顔の彼を思い浮かべ、そう、堅く誓った。

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