第168話 欲しがる私に、くれたあなた④
■氷室カズラ視点
それが彼…… “望月ヨーヘイ”さんだった。
どうやら二人は生徒会に入りたいとのことだし、私は二つ返事で生徒会に入ってもらうよう、桐崎さんに進言した。
学園祭を控え、猫の手を借りたいほど忙しいということもさることながら、あの桐崎サクヤがそこまで興味を持った、望月さんを知りたいと思ったのがその理由だ。
それからというもの、生徒会の業務はスムーズに進行した。
サンドラさんはとても優秀で、生徒会の事務作業をこの短い期間でそつなくこなせるようになった。
望月さんもそうだ。彼は私や桐崎さんが苦手とする関係各所との調整や交渉を上手くまとめ、そのおかげで滞っていた部分が一気に進んだ。
それだけじゃない。気づけば、彼はいつも周りに心を配り、時には手伝い、時には励まし、本当に桐崎さんやサンドラさん、そして私を支えてくれた。
これだけでも、望月さんが素晴らしい人だということが分かる。
この時には、一学期の時に感じていた嫉妬は霧散し、私自身も、彼を気にいっていた。
そんな折、生徒会室にあの牧村クニオが突然やって来た。
しかも、生徒会の旧メンバーを中心とした二十名の署名とともに。
どうやら、牧村クニオの目的は現生徒会のリコールだった。
学園祭を一週間後に控える中、この突然のリコール要求は嫌がらせに他ならない。
私は怒りをにじませて皮肉を言うものの、こんなことが事態の解決になるはずもない。
すると、望月さんとサンドラさんが生徒会室を出て行き、しばらくしてからたくさんの生徒を引き連れてきた。
どうやら、彼等のクラスメイト達のようで、しかも、生徒会の仕事に協力してくれるとのことだ。
……本当に、彼は私には……いえ、桐崎さんすら持ち合わせていない、人望といったものがあるんだろう。
やはり、私なんかとは違う……んでしょうね……。
私は誰にも気づかれないように、キュ、と胸襟を握りしめた。
苦しそうにしていた、望月さんに気づこうともせずに。
それからは、望月さんのクラスメイト達の協力もあって急ピッチで進んだ。
このままのペースなら、無事、信任投票の準備も学園祭も、両方間に合いそうだ。
そのことに安堵しつつ迎えた土曜日。
まさか、家の前で望月さんと出会うことになるとは思わなかった。しかも、うちの弟を背負いながら。
聞いたところ、弟のタカシが望月さんと出合い頭にぶつかってしまい、足をくじいてしまったようだ。多分、タカシがよそ見をしていたんだろう。
私はお礼とお詫びを兼ねて、望月さんを家の中へと招き入れる。
お茶とお菓子を持って彼の待つ部屋に入ると……なんと、ミャー太が望月さんに懐いているではないですか。
その時、私は激しい嫉妬を覚えましたとも、ええ。
まあ、そんな嫉妬も彼の
だって、召喚もしていないのに
ひょっとしたらそういったスキルがあるのかと思い、望月さんにステータスを見せてもらうと、私は声を失った。
ガイストリーダーの画面には、見たこともないようなステータスが表示されていた。特に『敏捷』に至っては、“SSS”となっており、まさに規格外であることを証明していた。
……結局、彼女は
今まで必死で努力を重ねても、遥か先にある背中を追いかけても、彼女が見ているのは、彼女に匹敵する才能の持ち主だけ。
私は、やっぱり彼女にとって路傍の石以下でしかなかったのだ。
そう思った瞬間、私の中で何かが崩れ落ちた。
もう……どうなってもいい、と。
◇
「クフ……やあ、待ってたよ」
「…………………………」
月曜日の放課後、私は校舎裏で牧村クニオに会いに来ていた。
というのも、この男から連絡を受けたのだ。「明日の信任投票のことで、協力して欲しいことがある」、と。
「……それで、
「クフ、簡単だよ。明日の信任投票で、不信任になるようにちょっと細工をして欲しいだけさ。もちろん、相応のお礼はさせてもらうとも」
やはり、クズはクズ、ですね。
「……理由を尋ねても?」
「クハ! 簡単だよ! 僕は、あの桐崎サクヤに痛い目に遭わせたいのと、あの男……望月ヨーヘイを生徒会から追い出したいからだよ!」
口の端を吊り上げ、牧村クニオが下品に語る。
だけど、桐崎さんはともかく、どうして望月さんが?
彼と牧村クニオの間に、何かあるんだろうか……って、そんなこと、私にはどうでもいいこと、ですね……。
「クフ、それで君は、どんな見返りが欲しい?」
「見返り、ですか……」
……本当は、見返りなんてどうでもいいですが、せっかくですので
「でしたら、生徒会長の椅子を」
「クハ! 言うねえ! いいとも! 僕の後任は君にするよ!」
「ありがとうございます。それで、私は何をすればいいんですか?」
そう尋ねると、牧村クニオは一層口の端を吊り上げた。
「クフ、明日の信任投票の開票、まだ誰が行うのか決まってないのだろう?」
「ええ、それが?」
「……クフフ。だから、明日は君が開票を行うようにするんだ。そうすれば、票の操作なんて簡単だろう?」
……ああ、そういうことか。
この私に、票を改ざんして不信任になるように操作をしろ、と。
「……そうですね」
私は半ば投げやりに返事した。
「クフ、君が履行でよかったよ。ああ、もちろん次の生徒会長には君を指名するから、安心したまえ」
「ありがとう、ございます……」
「クハハ! だけど君、ここまでしてあの桐崎サクヤから生徒会長の座を奪いたいのかい? 僕を追い出した時は、そこまで彼女を嫌っているとは思わなかったけど?」
「……余計なお世話ですよ。ですが……これで、
「クフ、これは失敬」
吐き捨てるようにそう言ってから気づく。
ああ……私はまだ、彼女に見て欲しいのだ、と。
彼女が私を見ることなんて、無いというのに。
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