第167話 欲しがる私に、くれたあなた③

■氷室カズラ視点


 学園に入学してから半年以上が過ぎ、[スノーホワイト]のレベルは五十五になっていた。


 だけど、彼女はそんな私の希望をいともたやすく打ち壊してしまった。

 彼女の精霊ガイストはクラスチェンジを果たし、もはやこの学園の誰よりも強くなってしまったのだ。


 そんな彼女の、クラスチェンジ後の精霊ガイストを見た時は愕然とした。

 精霊ガイストが放つ、圧倒的強者のプレッシャーで。

 精霊ガイストの、その凛とした美しさで。


「……結局、私では彼女に勝てない、んですね……」


 いや、勝てないどころじゃない。

 彼女からすれば、私という存在なんて、路傍の石以下だろう。


 こんな、私なんか……。


 それでも、私は努力をやめることができなかった。

 やめてしまったら、私という存在が消えてしまいそうだったから。


 三学期になり、彼女と、何故か私まで生徒会長……牧村クニオに生徒会に勧誘された。

 正直、私には家事と弟妹きょうだいの世話、それにレベル上げがあるから断ろうと考えていた。

 だけど、生徒会に入れば、彼女……桐崎サクヤがいる。


 同じ生徒会なら、こんな私でも、彼女の中で路傍の石より上に認識してもらえるかもしれない。

 結局、そんな淡い期待を抱いてしまい、彼女と一緒に生徒会に入ってしまった。


 するとどうだろう。生徒会長の牧村クニオは、生徒会を私物化し、自身の気に入った女子生徒だけを生徒会のメンバーとして加えていたのだ。

 その中には、私の精霊ガイストを馬鹿にした、佐久間さんの姿も。


 反吐がでた。


 私も他の生徒会メンバーと同様、牧村クニオに気に入られた・・・・・・ということなのだから。


 すると。


「氷室くん……私達の手で、この生徒会を変えないか?」

「っ!?」


 彼女にそう切り出され、私は思わず息を飲んだ。

 だって、まさか彼女が私の名前を知っていただなんて……って、今はそういう話ではない。


「……どうして、この私に声を掛けたんですか?」

「決まっている。君が、この生徒会に……生徒会長に、明確に嫌悪感を示しているからだ」


 確かに彼女の言う通り、私はこの生徒会に嫌悪感を抱いている。

 だけど……それが何故、彼女に分かったんだろう。あの連中にも、気づかれていないというのに。


「……そんなの、どうして分かるんですか?」

「簡単だ。君のその瞳が、彼等を明確に拒絶していたからな」


 意外だった。

 彼女が……あの桐崎サクヤが、こんなに私のことを見ていただなんて。


 気がつけば、私は首を縦に振っていた。


 それから私達は、牧村クニオと他のメンバーによる不正の証拠を集め、糾弾した。


「貴様等はこの学園の生徒会に相応しくない! 即刻立ち去れ!」


 全ての証拠を突き付けられ、牧村クニオとその他のメンバーは悔しそうに唇を噛みながら、生徒会室を出て行った。


「ふう……私達二人だけになってしまったが、これからもよろしく頼む」


 そう言って、彼女は右手を差し出し、ニコリ、と微笑んだ。


 嬉しかった。

 彼女の中で、私は認められたのだと……路傍の石などよりも上なのだと、そう思ったから。


「はい……よろしくお願いします、会長・・


 気づけば、私は自然と彼女の右手を取り、握手をしていた。


 ◇


 その後、私の生活はさらに忙しくなり、日々の家事や弟妹きょうだいの世話、精霊ガイストのレベル上げに加えて、生徒会の業務まで加わってしまったのだから。


 特に、生徒会に関しては牧村クニオや佐久間さん達旧生徒会メンバーが、追放された腹いせに私達の悪い噂を流したことで、学園史上、生徒から最も嫌われる生徒会となってしまった。


 でも、そんな扱いや忙しい毎日も嫌いじゃなかった。

 だって……学園の誰から疎まれても、認められなくても、少なくとも彼女はこの私を認めてくれたのだから。


 そして春を迎え、二年生に進級すると……彼女は生徒会室にあまり来なくなってしまった。

 少し調べてみると、彼女は新入生の男の子にご執心のようだった。


 嫉妬に似た感情を抱えながらも、私は与えられた役割を淡々とこなし続ける。


 すると今度は、ルーシ帝国からの留学生がそこに加わり、彼女は二人の指導に明け暮れているではないか。

 生徒会の仕事を放りだして……私の存在を、まるで無視して。


 とはいえ、一学期に生徒会が行う仕事なんてほとんどないし、彼女だって全く来ないというわけでもなく、週に一、二度は顔を出してはいる。


 でも……彼女の真紅の瞳に、この私は映っていない。


 陰鬱いんうつとした気持ちを抱えながら、私は夏休みを過ごし、二学期が始まってしばらくした時のこと。


 私はいつものように誰もいない生徒会室に向かうと、扉の前に二人の生徒がたたずんでいた。どうやら生徒会に用があるみたいだ。


「……来客だなんて、珍しいこともあるんですね」


 学園中から嫌われている生徒会だ。当然、訪れる生徒もいない。

 なのに、二人は今まさに扉をノックしようとしていた。


 私は二人の背後に近づく。


「失礼ですが、どのようなご用件ですか?」


 ノックし終わったタイミングで声を掛けると、二人は驚いた表情を見せながら振り向いた。

 女子生徒のほうは容姿が東方人ではなく、明らかに外国人だった。ということは、彼女がルーシ帝国からの留学生、ということだろうか。


 では、その隣の男の子が、彼女の……。


 生徒会室から出てきた彼女との会話からも、やはりこの彼がくだんの人物でまちがいないようだ。


 それが彼…… “望月ヨーヘイ”さんだった。

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