第375話 主人公に一目惚れ?

「あはは、じゃあヨーヘイくんも、ボク達と一緒に林さんのお世話を……「イヤなのじゃ!」」


 立花が俺達を引きこもうとした瞬間、林ヒョウカは明確に俺達を拒絶した。


「えっと、ど、どうしてかな……?」

「わらわは、あくまでもこのメンバーがいいのじゃ! 何より、あの男は三白眼で目つきが悪いのじゃ!」

「ええー……」


 ビシッ! と指を突き付けられ、俺は思わず声を漏らす。

 いや、目つきが悪いからダメって、どんな理由だよ……。


「む……それは聞き捨てならない……「それにそこの赤髪女! あやつも怖そうだからダメじゃ!」……こ、怖そう……私が……」


 おおう……思いのほか、サクヤさんが心にダメージを負ってしまった……。


「そのストーカーをしそうな男も、ましてや生意気そうなちびっ子のくせに胸だけは無駄に育ってるあやつも、まとめてイヤなのじゃ!」

「ナニヨ! ヤーだってアナタみたいな中途半端な『のじゃ』属性、お呼びじゃないのヨ!」

「お、落ち着けプラーミャ!?」


 今にもつかみ掛かりそうな勢いのプラーミャを、俺とサンドラが必死でなだめる。

 チクショウ……そういや『攻略サイト』でも、林ヒョウカは男兄弟しかいない中、一人だけ女の子だったから国王陛下に溺愛されて、超ワガママな設定なのを忘れてた……。


 オマケに。


「ヨーヘイくん達にそんなこと言っちゃダメだよ? ボクの大切な友達なんだから」

「仕方ないのじゃ……アオイに感謝するのじゃな」


 ……主人公のアオイに対してはメッチャ言うことを聞くし。

 まあこれは、ひとえに林ヒョウカが主人公……というかアオイの奴に一目惚れしたからなんだけど。


「とにかく! わらわにこやつ等の供は要らぬ! どこへなりと行くがよい!」


 もう用はないとばかりに、林ヒョウカが職員室の扉を指差した。

 いや、そんなこと言われてもなあ……。


「ゴ、ゴメンねヨーヘイくん……」

「きょ、今日のところはヨーヘイ達は先に帰っていてくださいまシ……」

「……後ほどメッセージを送ります」


 とまあ、林キョウカ以外のみんなが申し訳なさそうにそう言うので、俺達は渋々職員室を出ることにした。


「ふむ……どういうことか、お父……学園長に聞いてみる」


 そう言うと、サクヤさんはスマホを取り出して電話を掛けた。


「もしもし、お父様ですか? はい……実は新入生の林ヒョウカのことでお話が……はい……はい……ええ!? で、ですが、それでは学園の秩序が……は、はい……」


 うん、どうやらあまり思わしくない答えが返ってきたみたいだな……。


「ふう……」

「どうでした……?」


 通話を切って一息吐いた先輩に、俺はおずおずと尋ねる。


「うむ……今回の件については、東方国政府だけでなく中原王国からも国賓として扱うようにとの通達があったとのことだ。なので、この学園でも彼女の世話をする生徒をピックアップしたらしいのだが……」

「それが、サンドラやアオイ達だった、ってことですか?」

「ああ……」


 ふむ……やっぱりこれは、林キョウカのイベに突入していることは間違いなさそうだ。

 何より、このイベの特徴として主人公とその仲間が林キョウカに指定されて面倒を見る羽目になるところから始まる。


 とはいえ。


「ウーン……その前にアオイに一目惚れするきっかけとなるフラグ、絶対に立ってないと思うんだけどなあ……」


 そう……この林キョウカのイベを始めるためには、一年生の三学期の時に、留学に当たってこの学園に視察に来ていた林キョウカと主人公……つまりアオイが接触していないといけない。

 そして、そのイベントが起こる日が三月三日の午後。


 あいにく、その日は俺達全員で“バベル”領域エリアの攻略をしていて、放課後になるなり真っ直ぐに領域エリアに向かっていた。

 日中も、アオイは一度たりとも俺の傍から離れたことがなかったし、学園の中庭での偶然の出逢い・・・・・・は起こっていないはずだ。


「……ますます分からん」


 ひょっとしたら短い休み時間の間にフラグが立ったのかもしれないし、俺も絶対にそうだと言い切れないんだけど……どうにも納得ができない。


「モウ! こんなところにいてたら気分が悪いワ! サッサとルフランにでも行くわヨ!」


 あの林ヒョウカの態度が気に入らないプラーミャが、ぷりぷりと怒りながら俺の腕を引っ張った。


「うむ……ここで考えていても仕方がない。それに、さすがにお腹も空いてきたからな」

「ですねー……」


 結局、林ヒョウカの件については後からサンドラ達に話を聞くことにし、俺達はルフランへと向かった。

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