第376話 限定イベント

「ふふ……やはりルフランのランチは格別だな」


 学園を出てルフランに来た俺達は、早速ランチプレートを頼んで舌鼓を売っている。

 特にサクヤさんに至っては、今日の日替わりプレートがスペアリブとあってご満悦の様子。何よりである。


「それにしてモ、あの一年生本当にムカツクわネ」


 未だに怒りが冷めやらないプラーミャは、怒りに任せてスペアリブをナイフで骨ごと小間切れにしていた。食べ物は大事にしろよな。


「モグ……だが、さすがにおれは少々やり過ぎではないのか? たとえ中原王国の姫君とはいえ、平等をうたうアレイスター学園としてこれを許すのはどうなのだ?」


 パンをかじりながら、至極もっともなことを言うのは中条。もしこの場に『ガイスト×レブナント』のユーザーがいたら、そのあまりのギャップに卒倒するに違いないだろうな。

 というか、俺も既に『攻略サイト』が眉唾なんじゃないかと思えなくもないし。


『はう! うまうまなのです! やはりアイスはルフランがナンバーワンなのです!』


 ハア……[シン]は悩みがなさそうでいいよなあ……。

 まあ、戦略パートは俺で戦闘パートは精霊【ガイスト】が担うんだから当たり前なんだけど。


「とにかく、この件については私からもう一度お父……学園長にかけ合おう。それとプラーミャは家でサンドラに彼女の様子などを詳しく聞いておいてくれ」

「ハア……メンドクサイわネ……」

「ふふ、そう言うな。一番大変なのはサンドラ達なのだぞ?」


 溜息を吐いて露骨に嫌な顔をしたプラーミャに、先輩は苦笑する。


「クク……それで望月ヨーヘイ、これからどうする? 例の“ぱらいそ”領域エリアその先・・・でも目指してみるか?」


 くつくつと笑いながら中条が尋ねた。

 まあ、俺達の精霊ガイストのレベルも全員が九十五に到達しており、もうすぐカンストしそうになっているし、何より“ぱらいそ”領域エリアの第三階層での推奨レベルは九十。もう俺達の実力なら攻略可能だ。


「それもいいが、実は他に行きたい領域エリアがあるんだ」


 そう答えると、三人が興味深そうに俺を見つめた。


「それで……その領域エリアとは?」

「はい……それは、“梁山泊りょうざんぱく領域エリアと呼ばれるところです」

「「「“梁山泊”領域エリア!?」


 驚きの声を上げる三人に、俺はゆっくりと頷く。


「た、確かに梁山泊は、[シン]……いや、[神行太保]のルーツともなっている舞台ではあるが……」

「ええ……俺は、学園の図書室で偶然にも・・・・その領域エリアについて発見することができました」

「じゃ、じゃア、その“梁山泊”領域エリアというのは、学園の中にあるのネ?」

「ああ」


 そう……“梁山泊”領域エリアこそ、[シン]のために用意された場所。

 あの『攻略サイト』によれば、当初はイベント会場での特典コードの配布とされていたのだが、他の精霊ガイストには様々なイベントがあるのに対し、[神行太保]にはなかったからということで、後日アップデートされたとのことだ。


 そして、“梁山泊”領域エリアを踏破したら、[シン]は最強のスキルを手に入れることができるんだ。


「……“梁山泊”領域エリアの攻略は、ハッキリ言ってしまえば俺と[シン]のためだけの領域エリアだから、みんなにとって恩恵は精々そこそこの・・・・・アイテムを入手できるくらいだ。だから、みんながその領域エリアに行く必要はないと思ってる」


 元々、“梁山泊”領域エリアについては俺と[シン]だけで攻略するつもりをしていた。

 なんのメリットもないのにみんなをつき合わせるのは申し訳ないし、な。


 なので、俺はこの[シン]の限定イベをソロで攻略できるように、レベルを九十以上まであらかじめ上げておいたんだ。

 これなら、たとえ俺達だけだって攻略は……「ふむ、面白い」……って?


「サ、サクヤさん?」

「ふふ……そんな領域エリアがあるのなら、是非行ってみたいな。それに、君と[シン]が更なる強さを手に入れる瞬間にも立ち会いたい」

「ハア……ま、今度『機動魔法少女』のコラボカフェに付き合ってよネ」

「クク……我が友は、更なる高みを目指すか。面白い!」


 三人のその言葉に、優しさに、俺の胸がかあ、と熱くなる。


「はは……本当に、みんなときたら……!」

「ふふ、何を言う。君はそれ以上に私達に与えてくれたのだ。当然だとも」

「べ、別に、ヤーはそんなことないけド……」

「クク……望月ヨーヘイは自分を過小評価するところが欠点だな」


 俺を優しく見つめながら、それぞれ違った反応を見せる三人。


『はう……やっぱりマスターは[シン]のマスターなのです。それこそ、どんな主人公よりも主人公してるのです』

「[シン]……」


 にぱー、と笑う[シン]の頭を優しく撫でる。


「はは……よっし!」


 俺は気合いを入れるため、両頬をパシン、と叩いた。


「だったら早く昼食を済ませて、“梁山泊”領域エリアに行こう!」

「ふふ、ああ!」

「マ、仕方ないわネ」

「クク……!」

『はうはうはう! [シン]最強伝説の一ページが、また塗り替えられるのです!』


 そうして俺達は食事を済ませ、また学園へと向かった。

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