第164話 繋いだ手
学園祭が終わり、大成功の打ち上げをしようってことで、生徒会と一―三のクラス全員で駅前のファミレスに来ているんだけど……。
「むうううううううううう! 望月くんヒドイよ!」
ハイ、立花の奴は俺の前の席に座ってご機嫌斜めです。
というのも、結局俺は立花と一緒に学園祭を回れなかったのだ。
だけど、俺にも言い訳をさせてもらいたい。
そもそも、俺は執事喫茶のシフトの空きはほぼ生徒会としての仕事で埋まってたし、あの牧村クニオの馬鹿が絡んできたせいで、“
いや、それ以上に。
「…………………………」
「…………………………」
ハイ、先輩とサンドラが、何故か腕組みをしながらジト目でメッチャ睨んでくるんですけど。
「望月さん、こちらのフライドポテトをどうぞ」
「あ、ありがとうございます……」
そしてそして、何故か氷室先輩はファミレスに来るなり素早い動きで席を陣取り、俺を隣に座らせた。もちろん、俺に拒否権はない。
『んふー! ウマウマなのです!』
氷室先輩から俺を挟んで反対隣に座っている[シン]は、ご機嫌でアイスを頬張っている。チクショウ、お前は幸せでいいな。
まあ、なんでこうなっているかというと……。
◇
「さて……コイツ等も拘束しましたし、後は先輩に伝えて“
「ええ、この二人はやり過ぎましたから」
「な、何故だ! 僕は全てを
などと牧村クニオが
「ウルセエ! オマエ等がしたことは、立派な犯罪だ! 氷室先輩が
俺は吐き捨てるようにそう言うと、氷室先輩の腕を引いて屋上に一つだけあるベンチへと向かった。
「ハア……かき氷も溶けちまったよなあ……」
ベンチの上に置いてある三つおかき氷のカップを眺め、俺は溜息を吐いた。
『あうあうあう! あの二人、許すまじなのです! [シン]のかき氷を返せなのです!』
かき氷に並々ならぬ思いのある[シン]は、俺達以上に激怒している。
……まあ、さすがに可哀想だから、後でまた買ってやるか。
液体と化したメロン味のかき氷のカップを取り、俺は口の中に流し込んだ。
「それはそれで、美味しそうですね」
そんな俺の姿を見て、氷室先輩が唐突にそう言った。
「あははー、普通にかき氷として食べたほうが絶対に美味いですよ?」
「そうですか?」
「ええ、試しに飲んでみま……『はう! [シン]もマスターの真似して飲むのです!』……って、おわっ!?」
飛び込んできた[シン]に突き押され、中腰で体勢が悪かった俺は思わずよろめいてしまい……。
――ふにゅん。
「「っ!?」」
俺は、氷室先輩のその巨大な胸の谷間に、顔をうずめてしまった!?
「うああああ!? すすす、すいません!?」
氷室先輩から慌てて離れると、俺はその場で土下座した。
もちろん、謝罪とそれを圧倒的に上回る感謝を込めて。
いや、だって氷室先輩は桐崎先輩よりも凄いんだぞ! 破壊力バツグンなんだぞ!
「……いえ、不可抗力ですので」
俺はソーッと氷室先輩の表情を
「ですが……これは望月さんから、ぜひお返ししていただかないといけませんね?」
「はい……」
◇
ということで、今の俺は氷室先輩に逆らえないのだ。
いやだって、氷室先輩ときたら、隣に座るのを遠慮するような反応を見せた瞬間、『
そして、俺は気づく。
あのハプニングによって氷室先輩との恋愛フラグが立ち、氷室先輩ルートに入ってしまったことを。
……こうなったら氷室先輩には悪いけど、今後の氷室先輩関連イベのフラグは全てへし折らせてもらうことにしよう。
「そ、それで、あの牧村クニオと女子生徒はどうなりそうですか?」
俺はもうこの空気に耐え切れなくなり、せめて雰囲気を変えようと先輩に話題を振った。
「ん? ああ……当然ながら彼等は退学、そしてあの施設で更生プログラムを受けることになるだろうな」
「そうですか……」
アイツの発言からも、悠木と同じ状態にあったとは思うが……うん、何とも思わない。大人しくして、悔い改めればいいのだ。
「ホント、最低だよ! ボクがその場にいたら、絶対にただじゃ済まさないのに!」
立花よ、お前の気持ちは嬉しいが、氷室先輩がトラウマ植え付けるほどの苦しみを与えたから。見てた俺もトラウマ植え付けられたから。
「マア、話はそれくらいにして、純粋に打ち上げを楽しむわヨ」
プラーミャよく言った! ただのヤンデレシスコンだと思ってたけど、今はお前だけが頼りだ! ……って、アレ?
俺は窓越しに見える一人の男の影が目に留まる。
「なあ……アイツ、どうする……?」
「……気づかないフリをするんですのヨ」
サンドラの一言で、俺達は羨ましそうな表情でストーカーのようにファミレスの中を
「む……氷室くん、少し望月くんとくっつき過ぎではないか……?」
「そうですか? そんなことはないですよね、望月さん?」
「へ? え、えーと……」
「モウ! ヨーヘイ、コッチに来なさイ!」
「あー! ボクだって望月くんと一緒に座りたいのに! サンドラさんズルイ!」
『んふふー! アイスを追加! 追加なのです!』
とまあ、俺達のいる席は無法地帯と化したため、いくつもアイスを食べてご機嫌の[シン]を除き、全く楽しめませんでした。
◇
「全く君は……」
「あ、あはは……」
打ち上げも終わり、俺は呆れた表情を浮かべる先輩と一緒に帰路についている。
そういえば、別れ際にサンドラが『二人目は氷室先輩なんですのネ……』などとブツブツ言ってたな。あれ、一体何だったんだろう。
「と、ところで、本当に氷室くんと何もなかったのだろうな?」
「な、何もないです! 何もないですから!」
先輩の執拗な質問に、俺は手をわたわたさせながら否定する。
だけど、すいません……本当は、目一杯ふかふかを堪能しました……。
「……本音を言えば、やはり君と氷室くんの仲睦まじい姿を見ると、その……嫉妬、してしまうな……」
そう言うと、先輩は少し口を尖らせて
先輩……。
「す、すまない……今の言葉は忘れ……っ!?」
先輩が何かを言おうとする前に、俺は勇気を出して先輩の左手をギュ、と握る。
「……俺の一番は、いつだって先輩、ですから……」
そう告げると、俺は恥ずかしくなってしまい、つい顔を背けてしまった。
だけど、この想いだけは変わらない。
先輩に救われたあの日から……これから先も、ずっと……。
「……うん」
先輩は頬を真っ赤に染めながらコクリ、と頷き、俺の右手を強く握り返してくれた。
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