幕間
第165話 欲しがる私に、くれたあなた①
■氷室カズラ視点
私は、いつだって何も持っていなかった。
共働きの両親に代わり、四人
弟や妹は可愛いし、私達のために一生懸命に働いてくれているお父さんとお母さんには感謝しかない。
家事なんて、私にとって何一つ嫌だと思ったこともない。
学校が終わると、私は買い物を済ませてから弟と妹を保育園に迎えに行って、晩ご飯の準備をして、三人のお世話をする。
そんな毎日の生活が、まるで私が世界に必要とされているようで、誇らしかった。
だから……それが原因で友達ができなくても、つらくなんてない。
中学一年生の夏、弟と妹をプールに連れて行った時、私に転機が訪れた。
その時、偶然にもクラスメイト数人と遭遇したんだけど。
「ええと……確か、同じクラスだよね?」
そのうちの一人が、苦笑しながら尋ねてきた。
他のクラスメイト達も、その後ろでひそひそと会話をしている。
私は無言で頷くと、そんなクラスメイト達から弟と妹を連れて離れた。
……別に、私のことなんか知ってもらう必要なんてない。私は、
そう、言い聞かせて。
ひとしきりプールで遊ばせた後、弟と妹を連れて夕飯の食材を買いにスーパーへと向かう。
その途中、一人の女の子を見かけた。
その女の子は、私と同じ中学生くらいで、ウェーブのかかった赤い髪、真紅の瞳に赤い唇、それらが透き通るような白い肌に映えて、整った顔立ちと相まって、まるで人形のように綺麗だった。
何よりも、私が目を引いたのは、その女の子の凛としたたたずまいだった。
オーラがあるとでもいうのだろうか。通行人は、まるで女の子を避けるように歩き、みんながみんな、そんな彼女に釘付けになっていた。もちろん、この私も。
……クラスメイトにすら名前を憶えてもらえない、そんな存在感のない私とは大違いだった。
「……三人共、早く行きましょう」
これ以上、彼女を見るのがつらくなり、私は急いでその場を離れた。
だって、私は家事や
私の存在意義を、全部否定されてしまったから。
買い物を済ませて家に帰ってからも、彼女のことが頭から離れない。
まるでまとわりつくように、こびりつくように残り続け、私の心を
結局は、オマエのはただの言い訳で、本当に輝いていればみんなが見てくれるのだ、と。
全ての家事が終わり、布団の中で頭を抱えながらうずくまっていた、その時……私の前に、一人の妖精が現れた。
それは、黒色の髪とあの女の子に負けないほど白い肌にドレスを身にまとい、ニコリ、と微笑みながら優雅にカーテシーをした。
一瞬呆けてしまったけど、布団から飛び起き、その妖精をまじまじと眺める。
そして、この時にやっと気づいた。
この妖精は、私の
私はそれが嬉しくて、思わず
だって、こんなに小さな妖精を抱きしめてしまったら、壊れてしまうんじゃないかと思って。
とにかく、私はこのことを知ってもらいたくて、部屋を出ると慌ててリビングに向かう。
「お父さん、お母さん! 私……
すると、お父さんもお母さんも、ものすごく喜んでくれた。
私の
私は、あの女の子と同じ……ううん、それ以上に特別だったんだ!
それから、私は正式に
その時に学校がガイストリーダーという機械で
「ふふ……よろしくね、[スノーホワイト]」
そう言って微笑むと、[スノーホワイト]もカーテシーをしながら微笑み返してくれた。
この時の私は、自然に笑顔になれていたと思う。
教室に入ると、クラスメイト達がたくさん群がってきて、褒めてくれたり、羨ましがられたり、今まで見たことのない反応だった。
とはいえ、私もどう話していいのか分からず、結局は思うように会話もままならないままでいると、クラスメイト達はすぐに私から離れた。
要は、もう興味がなくなったんだろう。
でもいい。
それに、私には家事と
それだけで、私の心は満たされた。
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