第272話 いざ! 氷室邸へ!
「ハア……ハア……す、すまない、待たせてしまった」
「フエエエエ! 遅れてしまいましたワ!」
ということで、氷室先輩にご自宅に誘われ、駅前で一緒に行く先輩とサンドラを待っていると、今日に限って珍しく遅れた(といっても、待ち合わせの時間より三十分速いけど)二人が、同時に息を切らしてやって来た。
「い、いや、まだ全然早いから大丈夫、ですけど……」
俺は二人を見た瞬間、思わずしどろもどろになる。
いやだって二人の今日のコーデ、メッチャ気合いが入ってるんだけど!?
先輩に関しては胸元が開いて強調されたインナーにモスグリーンのカーディガンを羽織り、黒色ロングのフレアスカート、足元は珍しくルージュのパンプスを履いていた。
そ、それに、ひょっとして薄っすらとメイクしてる……?
サンドラも同様に、以前デートで着てきた時と趣向を変えて、ゴスのないただのロリータファッションで攻めてきてやがる……。
なのに、タイツだけいつもの白とは反対の黒にしてアクセントをつけ、まるで異世界から迷い込んだ妖精といっても過言じゃない……。
……ひょっとして、俺と二人で遊びに行ったりした時よりもオシャレしてるんじゃなかろうか。
「うむ! では行こうか!」
「エエ!」
そして、先輩とサンドラがフンス! と意気込むと、氷室先輩の家へと向かって歩き出す。
その姿はまるで、これから最終決戦に挑む勇者の行進のようだった。いや、遊びに行くだけですよね?
俺はえもいわれぬ不安感に襲われつつも、とにかく二人の後を追った。
◇
「ここか……!」
氷室先輩の家を見上げながら、先輩がポツリ、と呟く。
ですけど、先輩も一度来たことありますよね?
「フフ……腕が鳴りますワ」
そう言うと、サンドラが不敵に笑う。
いや、腕を鳴らす機会は皆無だろ。
「と、とにかく、インターホンを押しますね……」
俺はそんな二人の様子にいたたまれなくなり、状況を打破するためにそそくさとインターホンを押した。
すると。
「あ! 兄ちゃん!」
「お、少年!」
玄関から少年……タカシが飛び出してきて、俺達はハイタッチを交わす。
『はうはう! [シン]も来たのです!』
「「わー! [シン]ちゃん、いらっしゃい!」」
[シン]は[シン]で、少年から一歩遅れてやって来たニコちゃんミコちゃんと、手を繋ぎながらはしゃいでいた。
そして。
「ふふ、お待ちしていました。
氷室先輩が無表情で玄関から出てくると、なぜか俺にだけ挨拶を交わした。
そんな氷室先輩を見て、俺は色んな意味で言葉を失う。
いや、だって、氷室先輩は自分のお
なのに氷室先輩のそのコーデときたら、青のストライプのブラウスに黒のテーパードパンツ、アクセントのサスペンダーがその豊満な胸とそれに似つかわしくないスレンダーなスタイルを強調していた。
それに……先輩に続いて氷室先輩まで、唇に薄っすらとルージュをひいてるし……。
どこかにお出かけするつもりですか?
「ふふ……ああ、今日は招待してくれてありがとう」
「エエ……コチラ、お土産ですワ」
氷室先輩に無視された格好となった先輩とサンドラが、ズイ、と俺と氷室先輩の間に立つと、口の端を吊り上げて
「ふふ……
氷室先輩も負けじと、あのメイザース学園との交流戦で向こうの生徒会副会長を
ヒイイイイ!? なんでこんなに険悪なんだよ!? どうすんだよコレ!?
「な、なあなあ兄ちゃん……兄ちゃんが連れてきた友達って、うちの姉ちゃんと仲悪いの……?」
「い、いやー? そそ、そんなことはないけど?」
不安そうな表情で尋ねてくる少年に、俺は顔を引きつらせながら答えた。
そ、そろそろ少年達も怖がってるから、その辺で仲良くしてもいいんじゃないですかね? ね!
『プークスクス! 予想通りの結果なのです! これはこの後も楽しみなので……え、えへへー、べ、別に楽しんでなんかいないのです……』
この様子にほくそ笑んでいた[シン]だったけど、いつの間にか勝手に召喚されていた[関聖帝君]、[ペルーン]、[ポリアフ]に囲まれ、[シン]はその小さな身体をさらに縮ませた。
だけど。
「おお! やっぱりお姉ちゃん達も
「「すごーい!」」
先輩とサンドラが無意識に召喚した
「あ、あう、そ、そうか?」
「フフ……強そうでショ?」
照れる先輩と微笑みを浮かべるサンドラ。
少年、ニコちゃんミコちゃん、ナイスだ!
「ふふ……いつまでも玄関の前にいても仕方ありませんので、
氷室先輩も暗い笑みをやめていつもの無表情に戻ると、俺達を家の中へと案内する。
と、とりあえず場が丸く収まって良かった。
そう思っていた俺だけど……あ、先輩もサンドラも氷室先輩も、こめかみをピクピクとさせてる……。
結局は、少年達の手前、無理やり抑えたってだけかあ……。
『はう……マスター、今日は血の雨が降るかもなのです……』
「言うな……」
俺の隣に来てポツリ、とささやいた[シン]に、俺は両手で顔を覆いながらその一言だけを呟いた。
ハア……胃が痛くて仕方ない……。
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