第二章 “雷帝”サンドラと“英雄”プラーミャ

第34話 サンドラからの果たし合い

『ガイスト×レブナント』


 このゲームは、一年生の二学期に“国立アレイスター学園”に転校してきた主人公が、仲間達と共に悩み、葛藤し、乗り越えていきながら成長し、この学園……いや、世界の謎に挑むジュブナイル学園ファンタジーRPGである。


「……ってことは、もう穴が開くほど『まとめサイト』見てるから分かってるんだけど……」


 そう呟きながら、俺は思わずうなだれる。

 そして俺はそのゲームに登場するクソザコモブっていう位置付けで、主人公が転校早々、これでもかとばかりにザコムーブをかましてアッサリ倒される……まあ、お決まりのヤラレキャラだ。


 桐崎先輩や『まとめサイト』の力を借り、おかげで[ゴブ美]から[神行太保]……[シン]にクラスチェンジして、むしろ俺達は最強クラスの能力を手に入れはした。


 だからもう、俺はクソザコモブと馬鹿にされることもないし、ゲームみたいに主人公にアッサリやられるなんてこともないはず。

 ということで、俺を馬鹿にした連中を見返すって目的は果たしたわけだけど……。


「……ここがゲームの世界なら、先輩は……」


 そう、俺の尊敬する先輩が、俺が二年生の時のクリスマスイブ、主人公に倒され、そして……死んでしまう、ということだ……。


「まあ、そんなことさせるつもりはないけどな」


 [シン]を手に入れたあの日、俺は心に誓ったんだ。

 俺のクソみたいなフラグをへし折った今、先輩の破滅フラグもバッキバキにへし折ってやると。


 そのためには。


「ウーン……とにかく、ゲームの物語が始まるのは二学期からだし、それまでに“ぱらいそ”領域エリアみたいに、二周目からしか入れないあの・・領域エリアを攻略しておいたほうがいいだろうなあ……」


 『まとめサイト』によれば、真のラスボスを倒すために用意された五つの領域エリア。この領域エリアを攻略すれば、真のラスボス戦が有利になる。


 というか、真のラスボスのステータス見たけど、シャレにならん。

 なにせ、物理攻撃を除く【全属性無効】スキル持ってやがるんだから、手に負えない。

 とはいえ、物理特化型でないと勝負にならないのかといえばそうでもなく、例えば[シン]の【方術】や[関聖帝君]の【一刀両断】【千里行】なんかは、物理や各属性とはまた別のカテゴリー、いわゆる『特殊スキル』に当たる。


 なので、その『特殊スキル』を多く持つキャラが有利ってわけだ。

 そして、皮肉なことにその『特殊スキル』を最も多く手に入れることができるのが、主人公だ。


「まあ……とにかく五つの領域エリアのうち最優先で攻略すべきなのは、“アルカトラズ”領域エリアだろうなあ……」


 うん、先輩のことを思うなら、この領域エリアは絶対に攻略しないといけない。

 残り四つの領域エリアも攻略したいが、それは来年のクリスマス前まででも充分に間に合う。

 まずは……物語の始まる二学期までに攻略を終えておかないと。


 でも。


「くああ……夏休みは、全部先輩との領域エリア攻略に充てることになりそうだ……!」


 いや、もちろん先輩とずっと一緒にいられるわけだから、俺は最高に嬉しいよ?

 だけど……せっかく夏休みなんだから、その……先輩と遊びに行ったりしたいし?

 なにせ入学してからこれまで、ひたすら[シン(ゴブ美)]を強くするためだけに時間の全てを費やしてたからなあ……って、ええい! こうなったら速攻で“アルカトラズ”領域エリアを攻略して、先輩と遊び倒してやる!


「……よっし!」


 俺は気合いを入れるために両頬をパシン、と叩くと、席を立ち上がろうとして。


「……それで、お前はまだいるのかよ……」


 目の前にいる同じクラスの女子でメインヒロインの一人、“アレクサンドラ=レイフテンベルクスカヤ”……通称“サンドラ”が仁王立ちしながら俺をジッと睨みつけていた。


 彼女はルーシ帝国からやってきた留学生で、輝くような金髪をツインサイドテールにまとめ、アクアマリンの瞳とルーシ人らしく妖精のように整った顔立ち、肌も先輩に負けないくらい透き通るような白さだ。

 ただ……残念なことに、彼女は背もチンチクリンで、それに比例して絶壁なのだ。今後成長する可能性を一切見いだせないほどに。まあ、当然需要もあるし、俺も嫌いじゃない……すいません、好き寄りの好きです。


「もちろんですワ! ワタクシと勝負するんですのヨ!」


 で、彼女は独特のイントネーションで俺に絡んでくるんだけど……正直、俺が一週間前にこの“一-三”にクラスを変わってからずっとだ。

 理由? 知らん。


「ハア……で、お前はなんで毎朝こうやって俺に勝負だの言い出すの?」

「エ……!? そ、それハ……ひ、秘密ですワ!」


 とまあ、こんな感じではぐらかやがる。

 ……いや、これと似た展開、主人公が二年生になった始業式の日のイベントであったなあ。


 などと考えるが、そもそもまだ物語すら始まってないし、俺は主人公じゃないし、それはないな、うん。


「大体、勝負って何するんだよ。精霊ガイストでの喧嘩は禁止されてるだろ」

「モチロン、そんなことは分かってますわヨ! そうではなくて、“グラハム塔”領域エリアの攻略進行度だったり、テストの結果だったり、総合的にですワ!」


 おおう……確かにそれなら、互角の戦いになりそうだ。

 何より、領域エリアに関しては『まとめサイト』もある分、俺が圧倒的に有利だが、学力に関して、俺は勝つ自信がない。


 いや、それよりもこの提案……。


「……ひょっとして」

「? なんですノ?」

「……いや、いい」


 俺の呟きを拾った彼女……サンドラが問い掛けてきたが、俺はかぶりを振ってあいまいに返事した。


 これ……やっぱり、サンドラ用のイベントに突入しちまってるじゃんよ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る