第81話 わだかまり?
――キーンコーン。
朝のHRが終わり、一時間目の授業が始まるまでの僅かな時間を縫って、ものすごい形相をしたサンドラがプラーミャの席へとやって来た。
「プラーミャ! これは一体どういうことですノ!」
「アラ、だから言ったじゃなイ。『バッチリ支援してあげるから待ってテ』っテ」
「そ、そうですけド!」
プラーミャはしてやったりと言わんばかりに口の端を持ち合げ、一方のサンドラはなおも詰め寄っている。でも、これはプラーミャの確信犯っぽいし、サンドラの奴、完全にしてやられたな……。
「ね、ねえ望月くん、その……その二人って、すごく似てるんだけど……」
「ん? ああ、サンドラとプラーミャは双子の姉妹なんだよ」
「へえー」
二人を見て目を丸くしながら尋ねる立花にそう説明してやると、立花は納得したように頷いた。
といっても、その胸に関しては、双子であるにもかかわらず絶対に埋めることができない圧倒的な差があるけどな。
「ヨーヘイ! のんきにしてないで、アナタもプラーミャに何か言ってくださいまシ!」
「ああっと……ま、よろしくな」
「ヨーヘイ!?」
いや、サンドラは何をそんなにこだわってるのか知らないけど、これから学園を卒業するまで一緒に過ごすんだし、社交辞令的に挨拶するのは当然だろ。
それにプラーミャはもう、サンドラとの間にあったわだかまりもなくなったわけだし、これからはサンドラのことを支えてやって欲しいしな。
とはいえ。
「…………………………フン」
せっかく挨拶してやってるっていうのに、その態度はいかがなものかと思うがな。
「それより、午後から二人を
そう言って、チラリ、と立花とプラーミャを見やる。
というのも、HRの時に先生に頼まれてしまったのだ。『望月とレイフテンベルクスカヤは、転校生の二人を午後にでも
まあ、それだけ先生が俺達を信頼してくれてる証拠だから、もちろん引き受けたんだけどな。
「フン!
「コラ! プラーミャ!」
鼻を鳴らしてプイ、と顔を背けるプラーミャを、サンドラがたしなめた。
というか、そもそもプラーミャは『サンドラ一人で充分』なんじゃなくて、『サンドラだけにして欲しい』の間違いだろうが。
「え、えへへ……ボ、ボクも望月くんだけのほうが、いいかなあ……?」
そう言って、はにかみながら立花が俺を見る。
その仕草、女子なら嬉しいけど残念ながらお前は男だ。悪いが俺には響かない……と思う。
「ま、まあ、チョット昼休みにでも、先輩にも一緒に同行してもらえないか聞いてみようぜ。俺とサンドラも既に“グラハム塔”
「まあ、そうですわネ……」
俺の言葉に、サンドラが同意する。
何といっても、俺達二人は先輩の弟子みたいなものだからな。
「……ねえ望月くん、その……先輩、って?」
「ああホラ、朝一緒に登校したあの桐崎先輩だよ。あの人は、この学園でも最強だからな!」
少し不安そうに尋ねる立花に、俺は何故か自慢げに説明した。ま、まあ、先輩は俺の憧れなんだから仕方ない。
「……ボクは、別に桐崎先輩がいなくてもいい」
すると立花の奴、
「オイオイ……ひょっとして、まだ朝のこと根に持ってんのか?」
「べ、別にそういうわけじゃ……」
「ヨーヘイ、朝の件って?」
「お、おお、実は……」
俺はサンドラの傍に行って、今朝のことについて耳打ちした。
いや、さすがに先輩が立花のことを女の子と間違えましたー、なんてこと、声を大きくして言うような話じゃないし、立花だっていい気分じゃないだろうしな。
「マ、マア、確かニ……」
そしてサンドラも、チラリ、と立花を見て妙に納得した表情を浮かべた。
それくらい、立花は美少女っていっても差し支えないくらい可愛いからなあ。男だけど。
「とにかく、昼休みに先輩に相談しようぜ」
「エエ、そうですわネ」
「「…………………………」」
俺とサンドラは頷き合うが、納得がいかない立花とプラーミャは、頬をプクー、と膨らませていた。
◇
「ふむ……そうだな、私で良ければ同行しよう」
「! ありがとうございます! ……授業をサボることになりますけど、大丈夫ですか?」
快諾してくれた先輩に対し、頼んだ側の俺がなんて質問してんだって話だけど、もし迷惑が掛かるならやめておいたほうがいいしな……。
「ふふ、もちろんだとも。そもそも、一年生の
「それなら良かったです!」
よし! これで午後も、先輩と一緒にいられるぞ! ……って。
「? どうした、立花?」
「う、ううん、別に何でもないよ……」
そう言って、苦笑する立花。
だけど、やっぱりわだかまりがあるみたいで、先輩が一緒に来ることに対していい気分じゃないんだろうな。
「で、では話も終わったことだし、その……」
先輩は、俺のAセットのランチプレートをチラリ、と見た。
食べたいんですね? 分かります。
俺は無言で、ス、とプレートを差し出す。
「っ! い、いいのか……?」
「もちろん」
「す、すまない!」
そして今日も、先輩は俺のランチを頬張ってご満悦である。
……何だか、先輩を餌付けしてるみたいだなあ……。
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