第三章 “主人公”立花アオイ
第80話 転校生
「む……望月くん、そちらの
いつもの十字路。先輩が来る時間に何とか間に合った俺を見て、桐崎先輩は一瞬ぱあ、と笑顔を見せる。
だけど、隣にいるコイツ……“立花アオイ”を見てすぐに顔をこわばらせた。
最初は、『ガイスト×レブナント』というゲームの仕様上、準ラスボスとして主人公を警戒したのかと思ったけど、どうやらコイツを女の子と勘違いしたみたいだ。
「あ、あははー……いえ、コッチは“立花アオイ”といって、学園への転校生ですよ。そ、それで……」
俺はチラリ、と立花に目配せして、自己紹介するように促した。
「……今日転校してきた、“立花アオイ”です。一応、
立花は頬をプクー、と膨らませながら、不機嫌そうに自己紹介をした。女の子と勘違いされたのが、相当気に入らなかったらしい。
「そ、そうか、それは勘違いしてすまなかった。私は“桐崎サクヤ”、学園の二年生で、生徒会長を務めている」
少し申し訳なさそうな表情を浮かべながら、先輩は右手を差し出した。
「あ、はい……よろしくお願いします」
立花も先輩の手を握り返すと、ジッと先輩の顔を見た。
ん……? これって、まだ間違えられたことを怒っているのか、それとも、先輩の可愛さに見惚れたりしたのか? 後者だったら、理解はするが絶対に許さないけど。
「む……すっかり嫌われてしまったな……」
そう言うと、先輩はしょんぼりした表情を浮かべた。
こういうところ、本当に可愛い。
「あ、あはは! まだ会ったばかりなんですし、嫌われたも何もないですよ! な、なあ!」
そう言ってフォローすると、俺は立花に目配せする。
もちろん、なんて答えるか分かってるよな?
「……そうですね。まだ
おうふ……思いのほか立花に生まれた心の溝は深かったみたいだ。
「と、とにかく! 遅れるわけにもいきませんから、急ぎましょう!」
「あ……う、うむ、そうだな」
「そうだね!」
オイ、立花よ。一応俺も初対面なんだぞ? なんで俺の時はそんな嬉しそうに返事するんだよ……。
俺は軽く溜息を吐くと、二人と一緒に足早に学園へと向かった。
◇
「ヨーヘイ! おはようですワ!」
「おう、おはよう」
教室に入るなり、サンドラが笑顔で
「フフ……ところで、今日は昼までで終わりですけド、その後は
「んー、そうだなー……」
「ソ、ソノ、もしよければ、どこか遊びニ……」
――キーンコーン。
「お、HRの時間だ。それで、何だっけ?」
「……あ、後にしますワ……」
ちょうどサンドラが何かを言おうとしたところで朝のチャイムが鳴ってしまい、サンドラは肩を落としながら自分の席へと戻って行った。何というか、ちょっと可哀想。
「よーし、みんな席に着けよー」
扉を開け、担任の“
この葛西先生、顔は下手な
何といっても、俺があの一-二の担任……“伊藤アスカ”の嫌がらせで初心者用の
「よし、全員席に着いたな。じゃあ二人共、入って来ていいぞ」
先生は扉へと振り返ると声を掛けた。
ん? 二人……って、何の話だ?
扉が開き、その二人が教室に入った、その瞬間。
「「ハアアアアアアアアアアアアアアア!?」」
俺とサンドラは、同時に立ち上がって驚きの声を上げた。
だって。
「あ! 望月くん!」
「フフ……十一日ぶりネ」
その二人ってのは、主人公である立花と、サンドラの妹、“プラーミャ”だったのだから。
いや、チョット待て!? 立花は一-二に転校するはずなんだぞ!? それがなんで俺と同じクラスに来てるんだよ!?
「ん? 二人は知り合い……って、少なくともレイフテンベルクスカヤは姉妹だから当然か。とにかく、二人共自己紹介をしてくれ」
そう言うと、先生は妙に納得した表情で二人に自己紹介を
「は、はい……! ボ、ボクは“立花アオイ”って言います! その、使役する
で、まずは立花から自己紹介を始めるけど……あ、舌噛んだ。まあ、俺も自己紹介で舌噛んだから、何も言えないなあ……。
「プラーミャ=レイフテンベルクスカヤでス。使役する《ガイスト》は、[イリヤー]でス」
一方のプラーミャはというと、ニコリともせずに淡々と最低限の自己紹介だけした。まあ、コイツはサンドラ以外興味ないもんなー……って、コッチ見て睨むな。
「じゃあみんな、二人と仲良くするように。ええと、それで二人の席は望月の隣とその隣だ」
「っ!?」
先生の言葉を聞いた瞬間、パッと隣を見ると……確かに誰も座ってない席が二つ、ちゃんとあったよ……ていうか、気づけよ俺。
「えへへー、これからよろしくね!」
早速隣の席に着いた立花アオイは、嬉しそうにはにかんだ。その仕草は、完全に女子のソレだな。
「……(ギロリ!)」
「いや、プラーミャはなんでそんなに俺を睨むんだよ!?」
さすがに耐え切れなくなった俺は、思わずプラーミャに向かって叫んだ。
いや、マジで勘弁してください。
ハア……
これから俺に降りかかるであろう不幸の数々を考え、俺は思わず頭を抱えた。
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