第356話 絆の強さ

「お待ちしてましたワ!」


 クリスマスパーティーから一夜明けた次の日の朝。

 俺はサンドラとプラーミャが住むマンションに、二人を迎えにやって来た。


「えーと……悪い、ちょっと早く来すぎ、だよなあ……」


 ウーン……いつもの感覚で、約束の時間の一時間以上前に来てしまったんだよなあ。というか、サンドラ達の家に行くんだから、早めに出る必要ないのに。


「フフ、大丈夫ですわヨ? それに、ホラ」


 クスリ、と笑ったサンドラが、リビングへを振り返ると。


「ヨーヘイ、遅イ!」


 既に準備を終えていたプラーミャが腕組みしながら出てきて、早速お怒りのご様子だった。

 だけど、一時間以上前に来た俺が遅いんなら、一体何時間前に来るのが正解なんだろうか……。


「マアマア、ヨーヘイも許してあげてくださいまシ。プラーミャったら、今日は朝六時からソワソワしてましたのヨ?」

「チョ!? サンドラ!?」


 サンドラに暴露され、プラーミャは顔を真っ赤にしながらわたわたする。

 そうかそうか、そんなに待ち遠しかったのか。遠足に行く前の子どもみたいだな。


「はは、別に今日行くところは逃げたりしないから」

「ッ! そ、そういうことじゃなくテ……モウ!」


 俺は少しからかい気味にそう告げると、プラーミャが口を尖らせてプイ、と顔を背けてしまった。


「マ、マアマア……ヨーヘイがこういう男の子だって、アナタも知ってるでショ?」

「…………………………フン」


 サンドラが苦笑しながらたしなめ、プラーミャが鼻を鳴らした。

 イヤイヤ、別に俺はあまりからかったりはしないほうだと思うんだけど。


 まあ、だけど。


「プラーミャ、その服、超似合ってる」


 いまだに機嫌が直らないプラーミャに対し、そう言ってサムズアップした。

 実際、お出かけ用のプラーミャはなかなかのもので、赤のニットワンピースに黒のタイツというコーデだった。

 一方、サンドラもプラーミャと色違いでモスグリーンのワンピース、白タイツという出で立ちで、その妖精のような容姿とも相まって……うん、良き。


 すると。


「モウ! ……ヨーヘイの、バカ」


 そう言って口元を緩めるプラーミャの姿を見ると、サンドラと双子なんだなあ、としみじみ思う。

 だって、反応が全く同じだし。


「フフ……では、少し早いですけど行きますわヨ」

「ソ、ソウネ」


 サンドラが微笑み……いや、いつもより少し口の端を吊り上げ気味にわらうと、プラーミャが若干顔を引きつらせながら返事した。

 で、二人はコートを羽織り、“ウリャンカ”と呼ばれるルーシ特有の帽子を被る。


「んじゃ、行こうか」


 俺達はサンドラ達のマンションを出て、学園へと向かった。


 ◇


「ふふ……来たな」

「おはようございます」


 学園に着くと、校門の前にサクヤさんとカズラさんが既に来ていた。

 だけど二人共、まだ約束の時間までかなりあるんですけど?


「だが、立花くん達が来るまでにはまだ時間が……「おーい! ヨーヘイくん! みんな!」」


 時計を見てサクヤさんが何かを告げようとした時、アオイが笑顔で手を振りながら駆け寄ってきた。


「えへへ、おはよ!」

「おう、おはよう。ところで、加隈は?」

「もう! ボクを加隈くんとセットにしないでよ!」


 どうやら俺の尋ね方がお気に召さなかったようで、アオイはプンスカと怒り出した。

 でも、最近はアオイと加隈は一緒にいる機会が多いし、何より加隈はセットで呼ばれたいと思うぞ?


「あとは加隈さんと中条さんだけですが、まだ待ち合わせ時間まで三十分以上ありますから、このままここにいて風邪を引いてもいけませんので、とりあえず校舎の中にでも入って待っていますか?」

「うむ……そうだな」


 カズラさんの言葉に、サクヤさんが首肯しゅこうする。

 もちろん俺も賛成だけど、だったら時間通りに来ればよかったんじゃないかとも思う。早く来てる俺が言うのもなんだけど。


「あ、じゃあ俺が中条に『校舎にいる』ってメッセージを送っておくから、アオイも加隈に連絡しといてくれるか?」

「もー! だからボクは加隈くんの保護者じゃないよ!」


 いや、俺もそこまで言ってないけど……。


 まあ、アオイはブツブツ言いながらも、加隈にメッセージを送る。

 おっと、俺も中条に連絡しておかないと。


 で、生徒会室に来て雑談をすること三十分。

 加隈と中条も合流し、俺達は初心者用の領域エリアの扉の前にやって来た。


「あれ? ここって……」

「そうだ。そして、この中に今日の目的の場所がある」


 不思議そうな表情を浮かべるアオイを促し、俺達は扉をくぐって中に入る。

 その行先はもちろん、“ぱらいそ”領域エリア


 先日の賀茂との戦いで、みんなは俺なんかを信頼して、一緒に全力で戦ってくれた。支えてくれた。

 だから……俺も、みんなに応えたかったんだ。


 このことをサクヤさんとサンドラに相談したら、二人は二つ返事で賛同してくれた。

 やはり二人も、この前の戦いで俺達の戦力の底上げが必要だと感じたらしい。


 それと。


『ふふ……それに、私達だけは・・・・・、君から特別な絆を貰っているから、な……』

『エエ……そうですワ』


 そう言って、二人が左手薬指をそっと触れたのが今も印象に残ってる。

 そして、そんな印象に負けないくらいの幸福感も。


「コ、コレ……」

「すごい、ですね……」


 プラーミャ、カズラさん、アオイ、中条、加隈がそれぞれ感嘆の声を漏らす。


「はは……この第一階層は雰囲気こそ“ぱらいそ”だけど、実際はかなり凶悪だからな?」

「う、うん……」


 俺の言葉にアオイが首をすくめるが、お化け屋敷じゃあるまいし、そんなアトラクションじみたものはないから安心しろ。


 だけど。


「……土御門さんも、一緒に来れたらよかったんだけどな(ポツリ)」


 そう……土御門さんは『土御門家』の後継者としての襲名披露の関係で、クリスマスパーティーのあと、早々に実家に帰っているのだ。

 とはいえ、正月三が日が明ければすぐに戻ってくると言っていたし、その時にあらためて連れてこよう。


「サア! コッチですワ!」


 勝手知ったるサンドラが、みんなを先導する。


 そして。


「「「「「っ!?」」」」」


 俺、サクヤさん、サンドラを除く五人が、通路で待ち構えるクイーン・オブ・フロストを見て息を飲んだ。


「……確かに、今まで出会った幽鬼レブナントとは比べものにならないですね」


 [ポリアフ]の【オブザーバトリー】で解析したカズラさんが、緊張した様子でそう告げる。


「はは。ですけどアレは、俺達のですから。[シン]」

『ハイなのです! それー!』


 [シン]は一気に飛び出し、クイーン・オブ・フロストに肉薄すると。


『【縛】』

『ッ!?』


 クイーン・オブ・フロストは呪符によって拘束され、ただのオブジェに成り下がる。


「さあ、あとはみんなで倒すだけですよ」

「クク……確かに貴様の言う通り、この幽鬼レブナントは我等の、だな」


 五人は一斉に攻撃を仕掛け、クイーン・オブ・フロストは瞬く間に幽子とマテリアルにその姿を変えた。


「成程……こうやっテ、高レベルの幽鬼レブナントを倒して鍛えるのネ……」

「といっても俺達の実力じゃ、まだ第二階層が限界だけどな。そして、俺達は延々とこの作業を繰り返すだけだ」

「フフ……だけド、強くなれるんでショ?」

「ああ……それは、この俺が保証する」


 クスクスと笑うプラーミャに、俺は力強く頷いた。


 その後も、俺達は順調に“ぱらいそ”領域エリアに巣食う幽鬼レブナントを倒し続け。


「あは! やった! レベルが上がったよ!」

「俺もだ!」


 五人がガイストリーダーを眺めながら、嬉しそうにはしゃぐ。

 はは……クラスチェンジしたらなかなかレベルアップしないからな。喜びもひとしおだろう。


「フフ……これでワタクシ達も、もっともっと強くなりますわネ」

「そうだな……私達の強さは、個々の強さじゃない。の強さなのだから」

「サンドラ……サクヤさん……」


 隣で微笑む二人に、俺は口元を緩めながら強く頷いた。

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