第355話 精霊の宝物
『はうー! あのアイスケーキ、最高だったのですー!』
サクヤさんとも別れて家に帰ってきてからも、[シン]はずっとあのルフランのアイスケーキの余韻に浸っていた。
ま、まあ、こんなに喜んでくれて何よりだ。
『はうはう! マスターにこんなにしてもらえる
いや、アイスケーキくらいで大袈裟な……。
だけど、そこまで喜んでもらえたなら、用意しておいた甲斐があったな。
『ところでマスター、藤姉さまは手編みのマフラーだとして、アレク姉さまやミャーさん、カズ姉さま達はどんなプレゼントだったのです?』
どうやら[シン]は、プレゼントが何なのか気になるらしい。
「じゃあ、一緒に見てみるか?」
『ハイなのです!』
ということで、俺はボックス型のリュックから綺麗にラッピングされたプレゼントの数々を取り出す。
「ええと……まずは土御門さんから……」
俺はラッピングを開けると、中から細長い木箱が……。
「……何というか、高そうな匂いがプンプンするんだけど……」
で、おそるおそる木箱の蓋を開けてみると、中に入っていたのは扇だった。
「おおー! ひょっとして、土御門さんが使ってるやつと同じものかな?」
だ、だけど、作りといいつやといい、絶対に高いんだろうなあ……。
「ま、まあ、これは大切に取っておこう……んで、次は悠木かー」
うん、悠木はどんなものをくれたのかなー……って。
「これは……本革のブックカバーだなあ」
コレ、意外と高いんだよなあ。
アイツ、結構無理したんじゃないだろうか……。
「次だ次! サンドラ!」
サンドラのプレゼントのラッピングを開けると……。
「お、おおう……まさかの懐中時計……」
それも、アンティークな感じの絶対に高いヤツ……。
「は、はう……アレク姉さま、色々と重いのです……」
「言うな……」
さ、さすがにこれは、肌身離さず持っていないとサンドラが怒りそうだなあ……。
「次! カズラさん!」
包装を開けて出てきたものは……うん、眼鏡ケースと眼鏡だった。
「俺、左右共、視力は一.五あるんだけど……」
さ、さすがに眼鏡をかける機会はないよなー……。
「あとは……アオイとプラーミャかー……」
てことで、二人同時に開いてみると。
「アオイはゲームのコントローラーに、プラーミャは……ぬいぐるみ……」
それも、確かアイツが家族だと言い張った、“メリー”とかいう名前の。
『わあい! このぬいぐるみ、可愛いのです! 可愛いのです!』
「そ、そうだな……」
ま、万が一このぬいぐるみに何かあったら……俺、絶対に燃やされる……。
「だけど、さあ……」
うん、アオイとプラーミャはともかく、他のみんながくれたプレゼント……実は、彼女達の好感度アップのクリスマスプレゼントだったりする。
要は、俺がもらったものと同じものをヒロイン達にプレゼントすると、好感度がメッチャ上がるという、ヒロイン攻略の上で欠かせないものばかり。
「……みんな、ネット通販で買ったのかなあ……」
俺は床に並べたプレゼントを眺めながら、首を傾げる。
すると。
『はう……そういえば、[シン]はマスターにあげられるものが何もないのです……たくさん……たくさん感謝しているですのに……』
そう言って、[シン]は落ち込んでしまった。
……全く、しょうがない奴だなあ。
『はう!?』
「そんなことねーよ。俺はいつだって、[シン]に色々な、
『はう……マスター……』
ガシガシと[シン]の頭を撫でながらそう言うけど、それでも[シン]は納得できないのか、
んー……でも、
俺は机の引き出しにしまってあったものを取り出すと。
「ほら、[シン]」
『はう……? これは何なのです……?』
「そりゃあもちろん、クリスマスプレゼントだよ」
そう……みんなのネックレスを買う時に物色しておいて、後でネット通販で買っておいたのだ。
ちょうどあの雑貨屋がネット販売をしていたっていうのが大きかったな。
さすがに、プレゼントを[シン]の目の前で買うのも気が引けるからなあ。
「まあまあ、開けてみろよ」
『はう』
[シン]は丁寧に、丁寧にラッピングを開けると。
『はう……! これ……!』
「お、おう……一応、髪留めなんだけどな……」
元々、[シン]は髪留めをしているわけだし、だったらいいんじゃないかってことでこれを選んでみたんだけど……や、やっぱりモノはモノでも食いモノ(ただしアイス)が良かったか……?
『はう……[シン]は……[シン]は、幸せすぎるのです……!』
「わっと!」
[シン]が涙をぽろぽろと
プレゼントの髪飾りを、大切に握りしめながら。
「はは……俺達は来年のクリスマスを無事に迎えて、そっから先も一緒に楽しく過ごすんだ。こんなくらいで幸せだなんて言ってどうするんだよ」
『はう! はう! マスター! マスタアアアアア!』
「そんなことよりも、せっかくだから[シン]が髪飾りをつけたところを見たいんだけど?」
『はうはう! だ、だったらマスターにつけてほしいのです!』
ぐしぐしと俺の胸に顔をこすりつけながら、[シン]はプレゼントの髪飾りを手渡してきた。
「おう! んじゃ、じっとしてろよ」
俺は元々ある[シン]の髪飾りのすぐ上に、髪飾りをつけてやると。
『に、似合うですか……?』
「おう! バッチリ!」
おずおずと尋ねる[シン]に向かって、ニカッと笑いながらサムズアップした。
『はう……[シン]は、今日を……この幸せな日を、絶対に忘れないのです……』
「はは……だったら俺は、これ以上お前を幸せにして、その幸せな一日を上書きしてやるよ」
そう言うと、俺は世界一大切な、この小さな相棒を優しく抱きしめた。
◇
『はうはう! 寝坊してしまったのです! [シン]を置いてけぼりにするマスターはヒドイのです!』
次の日の朝、俺はリビングで朝ご飯を食べていると、[シン]がプンスカ怒りながら慌てて下りてきた。
いや、ちゃんと自分で起きろよ。
「うふふ、[シン]ちゃんおはよう」
『はう! おはようございますなのです!』
母さんが朝の挨拶をすると、[シン』が背筋をピン、と伸ばして最敬礼のポーズをした。
すると。
「あらあら[シン]ちゃん、その髪飾りはどうしたの?」
『あ……えへへー……[シン]の宝物なのです……』
左手でそっと髪飾りに触れると、[シン]はそう言って嬉しそうにはにかんだ。
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