第3話 笑い者

「……君達は君達自身の精霊ガイストと共に、この学園生活を実りある素晴らしいものになることを祈念して、私の挨拶といたします」


 この学園のトップである“桐崎きりさきライドウ”学園長の式辞が終わり、来賓の祝辞(ここは割愛)へと続くんだけど。


 学園長はイケオジである。繰り返す、学園長はイケオジである。大切なことなので二回言ってみた。

 ……まあ、今はそれは置いといて。


 それよりも、来賓の祝辞もいつの間にか終わったことだし、俺は壇上に上がった生徒会長に注目しよう。


 彼女の名前は“桐崎サクヤ”。

 その名字から分かる通り、学園長の一人娘だ。


 そして……物語のラスト直前で主人公の前に立ちはだかる、俺と同じ・・・・ボスキャラだ。

 とはいえ、俺はクソザコモブ設定であるのに対して、彼女はラスボス直前に立ちはだかる最強キャラっていう位置付けらしいけど。


 そして、このゲームに登場する女性陣の中で、唯一主人公の仲間にならないキャラだ。

 先生も人妻も、主人公の仲間(もとい彼女)になるというのに。


 まだ俺も『まとめサイト』を全て読んでないから分からないけど、ひょっとしたら彼女にも何か理由があるのかもしれないな。


「ていうか主要の女性キャラ、全員可愛いなあ」


 俺は生徒会長のその凛とした姿を眺めながら、そんな感想を思い浮かべていると。


「「「…………………………」」」


 ……周りにいる女子数人が、無言で俺を睨みつけていた。なんで?


「……以上で、お祝いの言葉といたします」


 あ、生徒会長の祝辞が終わった。


 で、当然一年の代表が答辞を述べるんだけど……うん、男だし放っておこう。


「以上を持ちまして、アレイスター学園の入学式を閉会いたします」


 無事入学式も終わり、俺達は拍手の中退場する。

 で、そのまま教室へと移動して各自席に着いた。


「では、改めまして。私は一-二の担任の“伊藤アスカ”です。『国語』と『精霊ガイストの理論と実践』について教えます。みんな、よろしくね」

「「「「「よろしくお願いします!」」」」」


 先生の自己紹介を受け、俺達も一斉に挨拶を返す。


「それじゃ、出席番号順に一人ずつ自己紹介してもらおうかな。あ、そうそう、自分の精霊ガイストについても、召喚しながら簡単に教えてね」

「はい! 俺は……」


 そうして、クラスメイト達の自己紹介が始まった。

 だけど……みんなの精霊ガイスト、スゲーカッコイイか可愛いんだけど。


 ……俺のはゴブリンだしなあ。


「ハイハイ! 俺は“加隈ユーイチ”! 精霊ガイストは[トリックスター]でっす! みんなヨロシク!」


 とまあ、軽いノリで自己紹介をした主人公の友人キャラ。

 だが、さすがに主要キャラだけあって、使役する精霊ガイストは全体的に能力が高くて、かなり強力なんだよなあ……俺の[ゴブ美]と違って。


「うふふ……“木崎セシル”と申します。精霊ガイストは[グルヴェイグ]です。どうぞよろしくお願いします」


 恭しく一礼するメインヒロインの一人。

 当然男子生徒はそんな彼女の容姿に釘付けになる。あ、もちろん俺も。

 そんな彼女の精霊ガイストは、『まとめサイト』によると聖属性と光属性のスキル……つまり、回復系に特化していると書いてあった。


 その後も自己紹介が続き、次はいよいよ俺の番。

 ま、まあみんなの精霊ガイストもすごいけど、俺の[ゴブ美]だって……!


 そして。


「お、俺はその、“望月ヨーヘイ”です! 精霊ガイストは[ゴブ美]でしゅ!?」


 チクショウ、舌噛んだ。

 そ、それよりも……みんな、何でシーンとしてるんだ?


「プ」

「ププ」

「「「「「ワハハハハハハハハハハハハハハ!」」」」」


 クラスメイトの一人が吹き出すと、それにつられてみんなが一斉に爆笑した。

 え? え? 俺が舌噛んだの、そんなに面白かったのか?


「な、何だよその精霊ガイストは! まんまゴブリンじゃねーか!」

「しかも聞いた? 名前、[ゴブ美]だって! ウケル!」

「この圧倒的雑魚感、ある意味すごいよねー!」

「「「「「ワハハハハハハハハハハハハハハ!」」」」」


 ……みんなは、俺の[ゴブ美]がそこまで面白いらしい。


「……[ゴブ美]、戻れ」

『…………………………』


 肩を落とした[ゴブ美]は、俺の指示通りその場から消えた。


「いやー、あのゴブリンのおかげで、次の自己紹介メッチャ気が楽なんだけど!」


 その後も、クラスメイト達の自己紹介は続く。

 そんな中、俺は俯いたままジッと机を見つめていた。


「はい。それじゃ自己紹介も終わったところで、今度はみなさんにこちらを支給します」


 そう言うと、先生はスマホを俺達にかざした。


「先生! スマホなら私達持ってますよ?」

「フッフッフ、これはスマホじゃありません。この小型端末は“ガイストリーダー”といって、みなさんの学園での活動記録や 精霊ガイストのステータスが確認できる特別仕様なのです!」

「「「「「おおおおお!」」」」」


 クラスメイト達の歓声が上がる。

 確かに、精霊ガイストのステータスが見れるっていうのはすごい。


「では、出席番号順に取りに来てください」


 先生の元へ順番に行き、そのスマホを受け取る。


「全員受け取りましたね。では、私の指示に従ってガイストリーダーを操作してください」


 俺達は先生の言う通りに端末を操作すると、ステータス表みたいなものが表示された。

 といっても、まだ何も記載されてないけど。


「では次に、精霊ガイストを召喚してガイストリーダーの画面に触れさせてステータス判定をしてください」


 また[ゴブ美]を召喚するのか……少し、嫌だな……。

 端末を握りしめて俺が躊躇ちゅうちょしている間に、クラスのみんなは精霊ガイストを召喚して画面に触れさせていた。


「おお! 俺の[トリックスター]、結構強いじゃん!」

「わー! 木崎さんの精霊ガイスト、すごいステータス!」

「うふふ、ありがとうございます」


 みんなガヤガヤと自分の精霊ガイストのステータスを見せ合っている。

 今なら、そんなに注目されずにすむかも。


 俺はコソコソと教室の隅に移動すると、[ゴブ美]を召喚すると。


「おい見ろよ! ゴブリンのステータス判定するみたいだぞ!」


 目聡く見つけた友人キャラ……加隈が、俺を指差しながら叫んだ。


「本当だ! 超気になる!」

「いや、でもゴブリンなんだから、多分ステータス低いと思うよ? むしろ最弱?」

「バッカ、だから面白いんじゃん!」


 ……好き勝手言いやがって。


「せ、先生、俺の精霊ガイストのステータス判定は、家に帰ってからでもいいですか……?」


 俺はおずおずと先生に尋ねる。

 だけど。


「いいえ、ここでステータス判定を行ってください」


 先生は有無を言わせないといった様子で、俺の申し出を拒否した。


「……[ゴブ美]、ここに触れてくれ」


 俺の指示通り、[ゴブ美]が端末の画面に触れる。


 すると。


 —————————————————————

 名前 :ゴブ美

 属性 :ゴブリン(♀)

 LV :3

 力  :G

 魔力 :G

 耐久 :G

 敏捷 :E-

 知力 :F

 運  :G

 スキル:【集団行動】【繁殖】

 —————————————————————


 ……目も当てられないような能力値が表示された。

 いや、『まとめサイト』であらかじめ見てるから知ってるけど、それでも、こうやって表示されると悲しいものがある。

 というか、スキル【集団行動】と【繁殖】ってなんだよ! 精霊ガイストは単体だろうが!


「なーなー、俺達にもゴブリンのステータス見せてくれよ」

「い、嫌だ!」


 調子に乗った加隈が、執拗に絡んでくる。


 その時。


「あっ!」


 何故か学級委員長……悠木が俺のガイストリーダーを奪った。


「か、返せ!」

「……ふうん、本当にゴブリンって弱いんだ」


 ポツリ、とそう呟いた後、興味を失くしたように俺に端末を返した。


「なあなあ、ステータスどうだったんだよ!」

「……属性はゴブリン、レベル3、力G、魔力G、耐久G……「や、やめろ!」」


 俺は悠木の言葉を大声で遮る。

 コイツ、何のつもりだよ!


「ワハハハハハハハハハハハハ! 本当にクッソ弱いじゃんかよ!」

「お、お腹が……!」

「ウ、ウケル……!」


 [ゴブ美]のステータスを悠木にさらされ、クラス全員が笑い転げる。


「コ、コラコラ、そんなこと言っちゃダメでしょ! ……ププ」


 形だけ窘めているが、先生は必死で笑いを堪えていた。


「っ!」


 俺は机に掛けてあるカバンを手に取ると、笑いの渦の中、教室を飛び出して行った。

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