第4話 見返してやる!

「ハアッ……ハアッ……!」


 俺は家へ向かって全力で走る。


 あの教室から、逃げるように。

 あの笑い声から、逃げるように。


 家に到着し、勢いよく玄関の扉を開けると。


「あ……お、お帰り……」


 遠慮がちに母さんが声を掛けるが、俺の様子がおかしいのに気付き、途中で言うのを止めていた。

 俺はそんな母さんを無視し、自分の部屋に飛び込んだ。


「ハアッ……ハアー……」


 部屋の扉を閉め、息を整えるために深呼吸をする。


「あー……[ゴブ美]」


 俺は[ゴブ美]を召喚すると、シュン、とあからさまに落ち込んだ様子を見せていた。

 まあ……あれだけディスられたらなあ……。


 だが、じゃあ俺は落ち込んでいるかと問われれば、実はそうでもなかったりする。

 というのも、元々[ゴブ美]のステータス自体は『まとめサイト』で知ってたから、こうなることは少なからず予想していた。


 それに。


「このクソザコモブの俺設定では、今日の出来事があって自身失くして、それで転校してきたばかりでレベルの低い主人公にチョッカイ掛けたんだろうなー……」


 などと分析もしていた。


 ただ、だからといって先生を含めたクラスの連中のあの態度が許せる訳じゃない。

 正直、はらわた煮えくり返ってる。


 だから。


「なあ、[ゴブ美]……強く、なりたいか……?」

「! (コクコク!)」


 俺の問い掛けに、[ゴブ美]は強く頷いた。

 その瞳に、涙をたたえながら。


「そうか……」


 そんな[ゴブ美]を見て、俺は決心する。

 だったら……強くなってやろうじゃねーか!


 幸いなことに、俺には偶然見つけた『まとめサイト』がある。


 そこには、当然最強キャラの育成方法についても詳しく載せられていた。

 まあ、キャラ別育成の中に、俺達の名前はなかったけど。


「よっし!」


 俺は気合いを入れるため、パシン、と両頬を叩く。


「[ゴブ美]……俺達は強くなるぞ! 強くなって、あのクラスの連中を全員見返して、そして……!」


 夏休み明けには、このゲームの主人公が学園に転校してくる。


 その時は。


「この俺が、その主人公を逆に返り討ちにしてやるよ!」


 俺は天井に向かって拳を高々と突き上げた。


 ◇


 ということで。


「まずは、強くなるための計画を立てないと」


 俺はスマホをいじりながらそう呟く。

 ただでさえ主人公が転校してくるまで、五か月もないんだ。

 だったら余程効率的に能力を上げていかないと、結局俺はクソザコモブ認定のままになっちまう。


 なにせ……主人公はまごうことなきチートな精霊ガイストを持ってやがるからな。


「とにかく、まずは己を知るところからだな。えーと……」


 ガイストリーダーを取り出し、また[ゴブ美]のステータスを確認する。


 —————————————————————

 名前 :ゴブ美

 属性 :ゴブリン(♀)

 LV :3

 力  :G

 魔力 :G

 耐久 :G

 敏捷 :E-

 知力 :F

 運  :G

 スキル:【集団行動】【繁殖】

 —————————————————————


 ……うん、何度見ても悲しくなってくる。


 一応、精霊ガイストは一定以上のレベルになると、クラスチェンジすることができる。

 まあ、より上位の種族や階級に進化するんだけど、その時に能力値も大幅に上昇する仕様だ。


 なお、[ゴブ美]については[レッドキャップ]か[ホブゴブリン]にクラスチェンジをすることが可能だ。

 ただし、[レッドキャップ]のクラスチェンジにはレベル五十、[ホブゴブリン]はレベル二十が必要になるけど。


 ……本当はあの・・精霊《ガイスト》にクラスチェンジしたいけど、この世界・・・・では絶対に不可能だから。


「ウーン……手っ取り早く能力を上げるなら[ホブゴブリン]だけど……」


 確かに今の[ゴブ美]と比べれば、少ないレベルでの能力の上昇は魅力ではある。

 だが……主人公やヒロイン、仲間達の精霊ガイストに比べたら、圧倒的に能力差があるからなあ……。


「なあ[ゴブ美]、お前は[レッドキャップ]か[ホブゴブリン]だったら、どっちにクラスチェンジしたい?」


 強くなろうとやる気になり、シャドートレーニングの真似事をしている[ゴブ美]に尋ねてみるが、[ゴブ美]は困った表情を浮かべた……って、俺、よく[ゴブ美]の表情が読めたな。


「じゃあさ、[レッドキャップ]希望だったら俺の右手、[ホブゴブリン]希望だったら反対の左手を指してくれ」


 そう言うと、俺は両手を[ゴブ美]の前に差し出した。


 すると。


「……そっか。[ゴブ美]は[レッドキャップ]がいいんだな」

「……(コクリ)」


 [ゴブ美]が静かに頷く。

 だったら、ちゃんとその希望を尊重しないとな。


「よし! それじゃ、[ゴブ美]は[レッドキャップ]へのクラスチェンジを目指すってことで」

「(コクコク!)」


 さて、そうなると……。


 俺はまとめサイトから[レッドキャップ]のステータスを見る。


 —————————————————————

 名前 :レッドキャップ

 属性 :レッドキャップ(♀)

 LV :50

 力  :F

 魔力 :F

 耐久 :F

 敏捷 :C+

 知力 :E-

 運  :F

 スキル:【集団行動】【繁殖】【斧術】

 —————————————————————


 ウウーン……やっぱりそんなに強くない。

 しかも、レベル五十も上げてこれだからなあ……。


 だけど。


「ま、別にクラスチェンジだけが能力アップの方法じゃないんだ。とにかく、急ピッチで強くならないと」


 まとめサイトのあるページを眺めながら、俺は呟く。


「……死なないようにしないと、だな」


 俺は無謀とも思える[ゴブ美]の強化プランに、思わず戦慄を覚えた。

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