第177話 クラス代表選考会に向けて

「では、次は二週間後にお会いしましょう」

「ホホ、待っているのじゃ」


 校門前でメイザース学園生徒会を見送ると、俺達は校舎へと戻る。


「ところで……各クラスの代表者の選抜方法はどうしますか?」


 氷室先輩が隣を歩く桐崎先輩に尋ねると。


「ふふ……決まっている。今度の団体戦は精霊ガイストによる一対一の勝負なのだ。なら、ステータスといった目先のデータに囚われない、本当の意味・・・・・でクラスの最も強い者が代表に選ばれるべきではないか?」

「というと?」

「各クラスで精霊ガイストによる対戦を行い、勝利した者を代表とするのだ」


 あー……何となくそんな気はしてました。

 でも、先輩の言う通り精霊ガイストの強さを測る上で、ステータスの数値だけじゃ分からないのも確かだ。

 スキルの量や特性、戦術、地形……それらを総合的に活かして最大限の力を発揮できるメンタル、そんな奴こそが強いんだから。


 そんなことを考えている時、制服の袖を引っ張られた。

 見ると……真剣な表情をしたサンドラだった。


「ヨーヘイ……ワタクシは、全力でアナタを倒しにいきますワ。だからその時は、ヨーヘイモ……」


 そうだ、な……クラスで代表者一名となったら、同じクラスのサンドラとは、当然戦う場面が出てくる。もちろん、立花やプラーミャとも。

 だけど、俺だって負けるつもりはないし、負けるわけにはいかない。

 こんなところでつまずいていたら、先輩を救うなんて到底できないから、な。


 だから。


「……ああ、その時は俺も全力で戦う」

「フフ……約束、ですわヨ?」


 俺とサンドラは頷き合うと、互いの拳をコツン、と合わせた。


 ◇


 ――キーンコーン。


 放課後になり、俺とサンドラは交流戦の準備のために一緒に生徒会室へと向かおうとすると。


「あ! 望月くん!」

「? どうした?」


 笑顔の立花に呼び止められ、俺は足を止めて振り返った。


「えへへー、ボク達も“アルカトラズ”領域エリア、踏破したよ!」

「おお! やったじゃねーか!」


 その報告を聞いて俺は嬉しくなり、立花の肩をバシバシと叩く。

 はは、これでコッチ側・・・・の戦力もかなり強化されることになったな!


「それで、望月くんは今から生徒会?」

「おう、ちょっと急な仕事が入ってな」

「ふうん……」


 そう答えると、立花が意味深な表情を浮かべた。ん? 一体何だ?


「……生徒会が大変なのも分かるけど、このままだとボク達と差がついちゃうかも」

「へえー……何だよ、自信満々じゃねーか」

「あはは、まあね。さて、邪魔しちゃ悪いからボクはこれで。望月くん、頑張ってね!」

「おう!」


 立花は笑顔で手を振ると、腕組みしながら待つプラーミャに合流し、教室を出て行った。


「……立花クン、自信タップリでしたわネ」

「ああ……」


 “アルカトラズ”領域エリアで【水属性反射】を手に入れたことに加え、おそらく立花の奴はクラスチェンジしたんだろう。

 [オーディン]なのか[ベオウルフ]なのか、それとも[伏犠ふっき]なのかは分からないけど、な……。


「フフ、ワタクシ達も負けてられませんわネ」

「当然。それに、俺達だって成長していないわけじゃない。だろ?」


 俺の言葉に、サンドラが嬉しそうに頷く。

 実際、俺達は“ぱらいそ”領域エリアで順調にレベル上げをこなしている。

 その甲斐もあって、俺の[シン]はレベル六十に到達し、サンドラの[ペルーン]もレベル五十八、先輩に至っては、とうとうレベル七十となった。


 それに、[シン]は疾走丸を今も毎日飲み続けている。

『敏捷』ステータスが“SSS”の[シン]に効果があるのかどうかは分からないけど、それでも俺は、この努力がいつか実を結ぶと信じている。


「サンドラ……今日も生徒会が終わったら、あの・・領域エリアに行くぞ」

「当然ですワ!」


 そして俺達は、決意を新たに生徒会室に足早に向かった。


 ◇


「うむ……ルールなどについては、これでいいだろう。氷室くん、どう思う?」

「そうですね。これなら大丈夫じゃないでしょうか」


 先輩と氷室先輩の了承を得、俺とサンドラは胸を撫で下ろす。

 というのも、今回のクラス代表の選考会のルールについて、俺とサンドラに一任されたのだ。

 なので、俺達はできる限り安全で、かつ、公平に評価できるようにシンプルなルールにした。


 一つ目は、クラスの先生による審判を置き、生徒が大怪我をしないように、優劣がハッキリした時点で審判の判定によって試合を終了させること。


 二つ目は、予選方式を設けて五人一組によるバトルロイヤル方式とし、あらかじめ用意する舞台から出た時点で負けとなること。


 三つ目は、バトルロイヤルを勝ち抜いた生徒は、一対一のトーナメント方式で対戦し、バトルロイヤルと同じく相手を場外に出すか、審判の判定による決定により勝敗を決めること。


 格闘技の試合のように、十カウントによるノックダウン制やヒットポイント制にしてもよかったんだけど、それだと生徒が怪我を負う可能性が高くなるからな。


 もちろん、選考会では回復スキルを持つ精霊ガイスト使いを多数配置して、万全を期すようにはしている。


 何より、最近は領域エリア外に幽鬼ガイストが現れたってことで、“GSMOグスモ”の精霊ガイスト使いが学園内に多く配置されているというのも大きい。


「……ということで、選考会に当たっては、学年ごとに同日に行ったほうがいいと思います。なにより、回復系の精霊ガイスト使いは多くないですから」

「うむ、そうだな。では、選考会は準備の兼ね合いから二週間後に行うこととして、必要な準備などについては、お父……学園長と教頭先生に私から話をしておこう」

「よろしくお願いします」


 よし、これで後は選考会当日を迎えるだけだな。

 学園祭と違い、内容さえ決めてしまったら、先生達に全部丸投げできるのが大きい。


「さて……では、今日しなければならない生徒会の業務は、これで終わりだな」

「はい。では、私はこれで失礼します」

「ああ、お疲れ様」

「「お疲れ様でした」」


 氷室先輩は素早く帰り支度をすると、生徒会室を出て行った。


「ふう……だが、氷室くんの家庭の事情を考えると、なかなかあの・・領域エリアに行くのは難しいな……」

「ええ……ですので、休日に一気に攻略するしかないですね。幸い、氷室先輩の[ポリアフ]は、俺達の中でレベルが一番高いですから」

「エエト……ひょっとして、氷室先輩をワタクシ達のチームに加えるんですノ?」


 俺と先輩の会話を聞いていたサンドラがおずおずと尋ねる。

 そういや、サンドラには言ってなかったっけ。


「ああ。氷室先輩の精霊ガイストはレベルも高いし、何より回復スキルと解析スキルを持っている。チームに加えない手はないだろう」

「ソウ……ですのネ……」

「えーと、サンドラは反対なのか?」

「べ、別にそういうわけでハ……」


 ウーン……サンドラの奴、歯切れが悪いなあ……。


「サンドラ、まあ望月くんだから仕方ない……それに、これは私達のためを想ってのことでもあるから、な」

「ア……そういうこト……」


 先輩の言葉を受けてサンドラは俺を見ると、フ、とその表情を緩ませた。

 ……まあ、二人の安全を考えてってことは否定しないけど。


 少し気恥ずかしくなった俺は、ごまかすように頭をガシガシときながら、いつものように三人で“ぱらいそ”領域エリアへと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る