第176話 第一回打ち合わせ

「ふふ、アレイスター学園のランチは美味しいですね。これは、メイザース学園でも食堂の改革が必要かもしれませんね」


 メイザース学園の生徒会長、近衛スミが舌鼓を打ちながら、隣に座る副会長の鷲尾イオリに話を振る。


「そうですか? 僕はメイザース学園も負けてはいないと思いますが?」

「ほう……ならば、是非ともメイザース学園のランチも食べてみたいものだな」

「ええ、でしたら次回の打ち合わせはメイザース学園で行いましょう」


 うん、先輩も落ち着いて応対できているようで何よりだ。まあ、なんだかんだ言って生徒会長だから当然なんだけど。


「ホホ、先程からわらわ達の様子ばかり気にして、食べないのかえ?」

「へ? あ、ああ……もちろん食べますよ」


 おっと、土御門さんに指摘されてしまった。

 だけどあのクソ女がいるせいで、この打ち合わせがいつメチャクチャになってもおかしくないからな。目を光らせておかないと。


 現にホラ。


「…………………………」

「…………………………」


 向かい合わせに座るサンドラとクソ女は、お互い目も合わせようとしないし、むしろピリピリした空気が漂っていて気が気じゃない。

 まあ……クソ女が何かアクションを起こしたら、俺が真っ先に矢面やおもてに立つ心構えはできてるけど。


「ところで……どうもわらわと会話をするのに、お主の口調は少々堅いの。同い年なのじゃから、気を遣わずともよいぞ?」

「は、はあ……」


 いや、同い年なのは『まとめサイト』で知ってるんだけど、何というかその……土御門さんの“のじゃ”言葉を聞くと、どうしてもへりくだってしまう。

 まあ、実際に土御門さんの実家は東方国の華族だし、やんごとない・・・・・・わけだけど。


「ホホ、じゃが木崎に聞いていた話とはずいぶんと雰囲気の違う御仁じゃ」


 ……まあ、クソ女のことだからあることないこと言ったんだろう。容易に想像できる。


「……聞きたいかえ?」

「いえ、遠慮しておきます」

「なんじゃ、つれないのう」


 そう言うと、土御門さんは扇子で口元を隠しながら悪戯っぽく微笑んだ。

 だけど、この砕けた感じといい悪戯好きな雰囲気といい、『まとめサイト』通りの性格みたいで良かった。


「では……そろそろ本題に入りましょうか」


 食事を終え、口元を優雅にナプキンで拭いたメイザースの生徒会長が、話を切り出した。


「うむ、そうだな。まず、メイザース学園側として何か提案はあるかな?」

「ええ。うちの生徒の受け入れなどについては、お互いの副会長同士で詳細を詰めればよいと思いますので割愛をさせていただきますが……やはり本題は、精霊ガイスト同士による団体戦です」


 メイザースの生徒会長の言葉に、一同が頷く。

 そもそも交流戦自体が、ラストの団体戦を行うことを前提として組まれたものだからな。


「聞いたところによると、アレイスター学園もメイザース学園と同じく、一学年三クラスの計九クラスあるとのことですが……」

「うむ、その通りだ」

「でしたら、各クラスで一名を代表とし、計九人の選抜としてはいかがでしょうか?」

「ふむ……」


 その提案を受け、先輩が顎に手を当てながら思案する。

 だけど……早速『まとめサイト』とは選抜方法が変わってるんですけど。主人公と先輩を除いた、精霊ガイストのステータス順じゃないの?


「……まあ、そのほうが各クラスの代表ということで、選ばれた者も応援する者も熱が入るというものか……分かった、いいだろう」

「ふふ、ありがとうございます。各クラスの代表者の選抜方法については、投票で決めるのか、ステータスの優劣か、それはお任せします」

「ああ」


 頷く先輩の真紅の瞳に、何か確信めいたものがうかがえた。

 あ、コレ、絶対に面倒なことを企んでる気がする。


「では、次はこちらからの提案だ」

「ええ、どうぞ」

「うむ。団体戦ということだが、やはり各クラスの代表として戦うのだから、各学年のクラス同士の一対一で行うというのはどうか? この場合だと、九試合を行うことになるのかな?」

「それで構いません」


 うん、一応話はまとまったし、対戦方法も『まとめサイト』通りだ。


「では、試合の詳細なルールについては、次回の打ち合わせで決めることにしましょう。それ以外の雑多な件については、最初に話した通り副会長同士で調整するということで」

「ああ」


 などと、上手く収まったような雰囲気を醸し出す先輩とメイザースの生徒会長。

 だけど二人共、仕事の大部分を押し付けられたお互いの副会長が、ジト目で睨んでますよ?


 それにしても、代表は各クラス一名、か……。

 俺はチラリ、とサンドラを見やると……あ、目が合った。そしてサンドラのアクアマリンの瞳は、どこか挑戦的な色をたたえていた。


 まるで……選ばれるのは自分だと言わんばかりに。


 はは、そうじゃないとな。もちろん俺だって、譲る気はねーよ。


「ホ、そうすると団体戦ではお主と戦えるのかの?」

「イイエ! 残念だけど、アナタの対戦相手はヨーヘイじゃなくてワタクシですワ!」

「ホホ! これは面白いことになってきたのじゃ!」


 不敵な笑みを浮かべながら挑発するサンドラを見ながら、土御門さんは愉快そうにカラカラと笑う。


 そんな中……クソ女だけは、表情を崩さずに終始無言のままだった。


 こうして、アレイスター学園とメイザース学園による一回目の打ち合わせを終えた。

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