第140話 リコール

 俺とサンドラが生徒会に入ってから一週間。

 今日も忙しく生徒会活動に勤しんでいる。


「ふう……なんとかこれで、学園祭について目途が立って来ましたね……」


 生徒会室で深く息を吐きながら、俺は誰に向けるともなくそう話した。


「ふふ……ああ、それもこれも、君達のおかげだ」

「そうですね。会長と私の二人だけでしたら、間違いなくこの生徒会は破綻していましたね」


 桐崎先輩がニコリ、と微笑み、氷室先輩は無表情でそう言い放つ。

 というか氷室先輩、サラッと怖いこと言わないでくださいよ……。


「ところで、君達のクラスの出し物の準備は、その……手伝ってこなくてもいいのか……?」


 桐崎先輩が心配そうな表情を浮かべながら、おずおずと尋ねる。


「はい。クラスのみんなに事情を話したら、快く送り出してくれました」

「ソウソウ、特にアオイなんか、『望月くんのためにも頑張る!』って言って、張り切ってましたわネ」


 そう言うと、サンドラがクスリ、と笑った。

 まあ……そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、アオイの奴、そのことを盾に、まるでおねだりするかのように遊びに行く約束をしてきやがった。

 というか、そんなことしなくても一緒に遊びにくらい行くのにな。


「ふふ、相変わらず君と立花くんは仲良しだな」

「あはは、そうですね。まあ、アイツも俺にとって大事な友達ですから」

「そうか」


 そして、俺達はまた作業に戻る。


 その時……突然、生徒会室の扉が開いた。


「失礼する!」

「オマエは……!」


 なんと、やってきたのは牧村クニオ……先代の生徒会長だった。

 しかも、ぞろぞろと女子達を引き連れており、その中には二―一の女子生徒もいた。

 ということは……コイツ等全員、旧生徒会メンバーか?


「……この生徒会に何の用だ。部外者は出て行ってもらおうか」

「クフフ……桐崎くん、僕達は今日、生徒達の代表としてやって来たんだよ」

「どういうことだ?」


 キッと睨みつけ、威圧する先輩だが、下品な笑みを浮かべる牧村クニオの言葉に、先輩は訝しげな表情を浮かべながら尋ねた。


「クフ、我々はアレイスター学園有志代表として、ここに現生徒会へのリコールを宣言する!」

「「「「はあ!?」」」」


 リコール!? リコールっていったら、今の生徒会を全員クビにしたいってことかよ!?

 だけど……あの時に言っていた『生徒会長の座から引きずり下ろす』っていうのは、このことかよ……。


「……生徒会のリコールとなると、学園の生徒、三十人以上の署名が必要になりますが?」


 氷室先輩は表情を崩さず、凍えるほど冷たい声で問い質す。

 というか、氷室先輩……これって相当怒ってるんじゃ……?


「クハハ! 当然だよ! “佐久間”くん!」

「はい」


 牧村クニオに声を掛けられると、二―一の女子生徒がス、と前に出てきて、数枚の紙を氷室先輩に差し出した。

 どうやらリコールに署名した生徒達の名簿のようだ。


「……確かに、既定の数の署名は集まっているようですね。といっても、ここにいる皆さんの署名が三分の二以上を占めてますが」

「クッ……う、うるさいわね! ちゃんと既定に達してるんだからいいでしょ!」


 はは、ちょっとスカッとした。氷室先輩ナイス。


「と、とにかく! このリコールに伴い、生徒による信任投票を要求する! 投票日は一週間後の火曜日だ!」

「「「「はあ!?」」」」


 牧村クニオの言葉に、俺達は思わず声を上げる。

 一週間後の火曜日っていったら、学園祭の前日じゃねーかよ!?


「チョ、チョット待てよ! そのすぐあとに学園祭が控えてるんだぞ!? そんな時に投票とかやってる場合じゃねーだろ!」

「クフフ、そんなの僕達には関係ないね。そもそも、生徒達から信頼されてない生徒会が悪いんじゃないのか?」

「っ! テメエッ!」


 俺は思わず突っかかりそうになるが、桐崎先輩に無言で止められた。


「分かった……いいだろう。来週火曜日、信任投票を行い、是非を問おう」

「クフフ、カッコイイじゃないか。火曜日が待ち遠しいよ。みんな、行くぞ」


 そう言って、牧村クニオと旧生徒会メンバー達は、俺達を一瞥した後、生徒会室を出て行った。


「つーか、あの連中はなんなんだよ! アイツ等こそ、この学園のこと何も考えてねーじゃねーか!」

「本当ですワ! こんな真似をして、タダじゃ済ませませんわヨ!」


 怒りの収まらない俺とサンドラは、扉に向かって大声で叫んだ。


「落ち着け、望月くん」

「っ! だけど!」

「ふふ……面白いじゃないか。この私・・・に喧嘩を売ったこと、後悔させてやる」


 先輩はそう言うと、不敵な笑みを浮かべた。


「会長、現実的な話をしてもいいですか?」

「……なんだ?」

「今のスケジュールでも、ようやく学園祭開催に向けて目途がたったというレベルです。ここにリコールのための信任投票の準備もしなければならないとなると、さすがに時間が足りません」


 氷室先輩は無表情でそう告げる。

 アイツ等も、その辺を見越してこのタイミングでリコールなんてしやがったんだろう。

 本当に汚い連中だ。


「そうだな……それに関しては、本当にすまないが、君達に頑張ってもらうしかない……」

「そうですか……」


 いや、もうこうなったら、なりふり構ってられない、な……。


「フフ……まあ、みんなに協力を仰ぐしかないですわネ」

「サンドラ、お前もそう思うか?」

「エエ、一―三のみんなには申し訳ありませんけド」

「だな」


 俺とサンドラは口の端を持ち上げ、頷き合った。

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