第353話 クリスマスパーティー④

「皆様、お待たせいたしました」


 クリスマスパーティーも中盤に差し掛かり、お手伝いのカナエさんが今日の主役、クリスマスケーキを持って来てくれた……って!?


 なんと、運ばれてきたケーキは、一メートル四方のサイズの大きさだった。

 い、いや、デカくない!? この人数で食べきれるのか!?


「ふむ……カナエさん、ひょっとしたら、これでは足りないかもしれないな……」

「サクヤさん!?」


 不安そうにケーキを眺めるサクヤさんの言葉に、俺は思わず振り返る。

 足りますよ!? いや、絶対に余りますから!


「お嬢様、ご安心ください。ケーキはもう一つございます」

「まだあるの!?」


 こ、こんなの二つも食べたら、絶対にお腹がパンクするぞ!?


「フフ……その勝負、このヤーが受けてたとうじゃなイ!」

「「わあい! ケーキをたくさん食べられるー!」」


 不敵な笑みを浮かべるプラーミャに、無邪気に喜ぶニコちゃんミコちゃん。

 よく見ると、他のみんなも何故か気合いが入っていた。いや、みんな本気かよ!?


「ふふ……余ればお持ち帰りして、お父さんとお母さんにも食べさせてあげないと」


 おおっと、俺以外にも現実的にケーキを見据えるカズラさんがいた。

 さすがはカズラさん、氷室家を一手支えてるだけのことはある。


『はうー……[シン]はどちらかといえば、アイスのほうが好きなのです……』


 どうやら[シン]にはあのケーキの豪華さは伝わらなかったみたいだ。

 だけど安心しろ。


「んじゃ、ちょっと俺は席を外しますね」


 ということで、俺はあらかじめ用意し、カナエさんに預けておいた例のものを厨房から取り出し、ワゴンに乗せて会場へと運ぶ。


 そして。


「[シン]! お前の分はコッチだ!」

『っ! はうはうはう!』


 はは、ワゴンの上にある、ルフランに特注で作ってもらったブッシュ・ド・ノエルのアイスケーキに釘付けになってるな。


『マ、マスター……これ、ひょっとして全部[シン]のものなのです……?』

「おう! 今日は特別な日だからな! 好きなだけ食べていいぞ!」


 俺は自慢げにそう告げると……あ、あれ? [シン]の奴、肩が震えてない?


「うおっ!?」

『はうはうはう! マスター大好き! 大大大好きなのですううううううう!』


 勢いよく飛び込んできた[シン]が、嬉し泣きをしながら頬ずりをする。


「はは……学園に入学してから、[シン]には本当に助けてもらってるしな。これくらい用意するのは、マスターとして当然だろ?」

『はううううううううううう!』


 [シン]を抱きしめながら優しく頭を撫でてやると、[シン]はますます泣いてしまった。


「ふふ……これは私達も負けていられないな。[関聖帝君]」

「エエ! [ペルーン]!」


 すると、みんなが次々と精霊ガイストを召喚しだした!?


「さあ、[関聖帝君]! それに他のみんなも、一緒にケーキを食べよう!」

「「「「「「「「「「「「おー!」」」」」」」」」」」」


 はは……精霊ガイスト達も嬉しそうな顔してるなあ……。


『えへへー、みんな楽しそうなのです。みんな……絶対に、今日という日を忘れないのです……』

「はは、何言ってるんだよ[シン]。来年も、再来年も、ずっとずっとこうやってクリスマスを過ごすに決まってるだろ」

『はう……そうだったのです……[シン]は、マスターとずっと一緒に過ごすのです……』


 楽しそうにはしゃぐみんなと精霊ガイスト達を眺めながら、[シン]は、ぴと、と俺に寄り添った。


 ◇


「皆様……名残惜しいですが、そろそろお時間のようです……」


 ケーキを食べた後も、俺達は大いにはしゃぎまくったんだけど、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまい、お開きの時間になってしまった……って、大事なことを忘れてた!?


 俺は慌てて更衣室に置いていたボックス型のリュックと紙袋を取ってくると。


「あー……こんなタイミングで悪いんだけど……」


 うう、いざとなると照れくさいモンだな……。


「クク……いつもの威勢はどうした、望月ヨーヘイ」

「う、うるせー! そ、その、大したものじゃないんだけど、俺からの感謝の気持ちっていうか、ホ、ホラ、クリスマスだしプレゼントは付き物かなってことで……」


 リュックの中から、あらかじめ買っておいたプレゼントを取り出す。


「と、ということで、順番に渡していくから、名前を呼ばれたら取りに来てほしいんだけど……まずは、少年! ニコちゃん! ミコちゃん!」

「へへ、やったぜ!」

「「わあーい!」」


 三人が嬉しそうに目の前にやって来ると。


「少年には『ナイツ=シュヴァルツヴァルト』のブースターパック二十個と限定カードケースな」

「おー! やったー!」

「で、ニコちゃんとミコちゃんには“ふんわりケーキ工場”と、“毛糸ミシン”だ。なんと、本当に作れるんだぞ!」

「「わあい! お兄ちゃんありがとー!」」


 よかった、三人共喜んでくれたみたいだ……って。


「ああ、そうそう。コッチはミャー太に渡してくれるかな? ネコ用の最高級缶詰め」

「「「うん!」」」


 よしよし……うん。カズラさん、そんなジト目で睨まないでください。決してこれは、ミャー太に対するポイント稼ぎとかじゃないですから。


「じゃ、じゃあ次にカナエさん」

「私にもいただけるのですか?」


 自分を指差しながら、キョトンとするカナエさん。

 だけど、こんなに準備してもらったこともあるけど、何よりいつもサクヤさんを支えてくださっているんですから、ちゃんと労わないと。


 ということで。


「カナエさんには香水です。ほら、いつも車で送っていただく時、カナエさんから良い香りがしていましたから……」

「うふふ、ありがとうございます。大切に使わせていただきます」


 カナエさんは恭しく一礼すると、俺のプレゼントを嬉しそうに受け取ってくれた。


「んで、次はアオイ、中条、加隈だな」

「わあい! ボク、ヨーヘイくんのプレゼントをすっごく楽しみにしてたんだー!」

「クク……まさか、初めてのプレゼントが貴様からとはな……」

「あー……俺としちゃ、可愛い女の子からもらいたかったんだけどなー……」


 三者三様の反応を見せるけど、俺的には加隈の意見に完全同意だな。

 むしろ、俺からもらって喜ぶアオイと中条がおかしいと思う。


 だけど。


「……加隈、だったら辞退したら? 別に望月くんも、好きでプレゼントを用意したんじゃないだろうし」

「うえ!? ゆ、悠木!?」


 絶対零度の視線を向けられ、加隈は思わず身体を震わせた。というか、見ているコッチも怖いんだけど!?


「と、とにかく、サッサと渡すぞ。アオイはホレ、最新のゲーミングマウスとキーボードな」

「わああああ……!」


 はは、アオイの奴、瞳をキラキラさせてやがる。

 そのミニスカサンタの姿と相まって、完全に女子だな。


「で、中条はよく分かんなかったからゲームな。冬休み、それで一緒に遊ぼうぜ」

「! う、うむ!」


 どうやらことほか喜んでくれてるみたいだ。

 でも、プレゼントもさることながら冬休みに遊ぶことも嬉しいのかな。


「加隈は……お前もよく分かんないしヘッドホンにした」

「おお! コレ、最新のヤツじゃん!」


 お、意外とこれで正解だったみたいだ。

 なら良かった。


「じゃあ後は、サクヤさん始め、残っているみんな来てくれるかな」

「う、うむ!」


 ということで、サクヤさん、サンドラ、プラーミャ、カズラさん、土御門さん、悠木が並ぶ。


「はは……色々考えたり悩んだりしたんだけど、結局こんな形に落ち着きまして……」


 そう言うと、一人ずつ綺麗にラッピングされた細長い箱を手渡す。


「ヨ、ヨーヘイ、開けてもいいんですノ?」

「ああ」


 みんなは丁寧にラッピングを外し、箱の蓋を開けると。


「「「「「「あ……」」」」」」

「はは……い、一応、みんなの瞳の色と同じ水晶をあしらったシルバーネックレスなんだけど……」


 そう言って、俺は頭をきながら苦笑する。


「ふふ……また一つ、大切なもの・・・・・ができてしまったな……」

「エエ……」


 みんなが。口元を緩めながらプレゼントを眺める。


「と、ということで! みんな、その……これからもよろしく!」


 俺は照れくさいのをごまかすように、大声でそう言って頭を下げた。

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