第四章 “白雪姫”氷室カズラ

第125話 一緒に行けない!?

「くあ……!」


 朝になり、俺は大きく伸びをするとベッドから……って。


「[シン]ー……いい加減、俺の上に乗っかったまま寝るなよなー……」

『すぴー……すぴー……』


 俺は呆れながら[シン]をジト目で睨むが、当の[シン]はお構いなしに気持ちよさそうに寝ている。チクショウ。


「ホラ! 起きろ! もう朝だぞ!」

『ムニャムニャ……今日は日曜日なのです……[シン]はまだ寝るです……』

「何言ってやがる、今日は水曜日だろうが……」


 まあ、精霊ガイストに曜日の感覚があるほうがおかしいんだけど。

 というかいつも思うが、なんで精霊ガイストのくせにこんなに寝るのが大好きなんだよ。


「おっと、いけない。もうこんな時間だ」


 俺は[シン]を無理やり押し退け、制服に着替えてリビングに向かう。


「おはよう」

「あら、おはよう」


 キッチンで朝の支度をしている母さんに声を掛け、既に用意されている朝食の前に座る。

 うむうむ、今日はトーストと目玉焼き、コーンスープか。


「いただきます」


 手を合わせた後、目玉焼きをトーストに乗せてかぶりつく。うん、美味い。

 まあ、子どもの頃にアニメでこんな食べ方をしているのを観てから、ずっと真似してるんだよなあ。


『はうはうはう! マスター、何で先に行っちゃうのですか!』


 などと叫びながら、慌ててリビングに入ってきた[シン]。


「当たり前だろ。早く家を出ないと、先輩を待たせるだろうが」

『はう! 相変わらず、マスターは先輩スキーなのです!』


 当然だろう。

 俺の中で最優先は、常に桐崎先輩なのだ。

 というわけで、俺は急いで朝食を口の中に放り込むと。


「ごちそうさま」

「はい、お粗末さま。あ、そうそう」

「? 何?」

「今度、桐崎先輩を家に連れていらっしゃいな。その時は母さん、腕をふるうわよ」


 そう言って、母さんは腕まくりをする仕草をした。

 でも……うん、家に招待するのもアリかもなあ。


「分かった、今度先輩に話をしてみるよ」

「ええ」


 俺は席を立って洗面所に向かい、歯磨きと洗顔を済ませると。


「よっし!」


 気合いを入れるため、両頬をパシン、と叩いた。これも、俺のルーティーンだ。


「行ってきます!」

「行ってらっしゃい」


 母さんに見送られ、俺と[シン]は家を出た。

 うん、この時間なら先輩との待ち合わせ時間(注:待ち合わせてはいない)にも余裕だな。


「あ! 望月くん!」


 先輩の待つ十字路にたどり着く前に、路地で待ち構えていた立花が、俺を見るなりぱあ、と顔を綻ばせ、パタパタと駆け寄ってきた。


「望月くん、おはよ!」

「おう、おはよう」


 早速立花は俺の隣を一緒に歩く。というか、近い、近すぎる。

 で、いつも通りなら……。


「オッス! 立花! 望月!」

「わ!?」


 とまあお約束として、加隈の奴が俺と立花の間に後ろから割り込んできやがった。


「もう! いつもいつも邪魔して!」

「ええー……そ、そうは言ってもよー……」


 んで、立花に怒られ、加隈はシュン、とする。いや、そんな顔しても需要ないから。


「それよりさ! もうすぐ学園祭じゃね? お前達のクラスの出し物ナニヨ?」


 加隈は急に笑顔になって話題を変え、俺達にそんなことを尋ねてきた。立ち直り早いな。


「えーと……まだ決まってなくて、今日の朝のHRで投票するよ」

「そうかー、ちなみにうちのクラスは“メイド喫茶”になったぞ!」

「ベタだな、おい……」


 今時メイド喫茶なんて、流行らんと思うけどな。

 それにしても……学園祭、かあ……。

 先輩と一緒に回ったら、最高だろうなあ。


 よし、先輩を誘おう。


 立花にバレないようにコッソリとガッツポーズしながらそう意気込みと、俺達三人は先輩の待つ十字路へと向かう。


「む、みんな、おはよう」

「「「おはようございます!」」」


 はは、先輩は案の定、まるでバッタリ出会ったみたいな態度で挨拶をした。

 というか、今日も朝から先輩の尊みがすごい。


「立花! 俺達は先行こうぜ!」

「ちょ!? 加隈くん!?」


 加隈に腕を引っ張られ、二人が俺と先輩から離れて行った。


「ちょっと! 何するのさ!」

「バ、バカ、気を遣えよ!」


 などと少し離れた先で二人が口論してるけど……俺はそんな加隈に、静かにサムズアップした。加隈、ナイス。


「あ、あう……ま、全く加隈くんは何を言っているのか……」

「あはは、そうですね。それより、来月の学園祭のことなんですけど……」


 顔を赤くして恥ずかしそうに俯く先輩に、俺は学園祭の話題を振った。

 もちろん、先輩をお誘いするために。


 すると。


「あ、ああ、うむ……実はそのことで、私からも君に話があったのだ……」

「はえ!? そ、そうなんですか?」


 おおっと、まさか先輩も俺を誘おうと思ってくれてただなんて、ちょっと……いや、メチャクチャ嬉しいぞ!

 いやもう、待ち遠しくて仕方ないんだけど……って、アレ? なんだか先輩の様子がおかしい……。


「……これからしばらくの間……少なくとも、学園祭終了までは、放課後は君と一緒に領域エリアに行ったりすることができない……」

「えええええええええええええッッッ!?」


 唇をキュ、と噛んだ先輩から放たれた無情の言葉に、俺は朝の通学路で絶叫した。

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