第283話 賀茂のチーム

「ん? 望月じゃないか」


 ルフランで“カタコンベ”領域エリア踏破の打ち上げの最中、声を掛けられたので振り返れば、そこにいたのは賀茂だった。


「アレ? 賀茂がルフランにいるなんて珍しいな」


 俺は思わずキョトン、としながら話しかける。

 いや、俺は[シン]のおねだりや先輩、サンドラと一緒に来る機会が多いんだけど、一度も賀茂を見たことなんかなかったし。


「はは……まあ、たまには俺も仲間と一緒に来たりすることもあるさ」


 そう言って賀茂がクイ、と顎で指し示した先を見てみると……あ、見覚えのあるうちの学園の生徒が三人と……アレは大学生? でいいんだよな……。


「へえー、じゃあ賀茂はあのメンバーで領域エリアの攻略なんかしてるのか?」

「ああ。といっても、“大谷大谷”さん……あの一人だけ制服じゃない女性ひとな。それ以外の三人とのチームが基本で、領域エリアに応じてメンバーを入れ替えることはあるけど」

「ふうん……」


 俺は気の抜けた返事をしながら改めて賀茂の仲間を見やる。

 うん、賀茂のくせにメンパーは全員女子かよ。ハーレム気取りか……って、よく考えたら今の俺も俺以外女子しかいないわ。


「それで……おっと、オレはそろそろみんなのところに戻るよ。んじゃ、またな」

「お、おお……」


 賀茂は軽く手を挙げると、そのまま仲間の待つテーブルへと戻って行った。


「……フン。まるでハーレムに囲まれる裸の王様気取りネ」


 俺の隣に座るプラーミャが、眉根を寄せながら鼻を鳴らす。

 というか、サンドラや仲間以外は空気扱いをするプラーミャが、珍しく嫌悪感を見せたな。


「……ひょっとして、プラーミャってハーレム系の主人公は嫌いなタイプ?」

「当たり前でショ。それニ……」

「それに?」

「アイツ、ヤー達を値踏みするみたいに見てたわヨ」

「え……?」


 プラーミャの言葉に、俺は慌てて賀茂がいるテーブルに目を向ける。

 アイツ……。


「ホホ……ひょっとしたら、わらわ達に見惚れておったのかの」

「どうでしょうか」


 カラカラと笑う土御門さんとは対照的に、氷室先輩は短くとそう呟いた。


「ま、まあ、賀茂の奴をいちいち気にしてないで、俺達は俺達で打ち上げを楽しもうぜ。な、何なら今日は俺の奢りどころか、好きなだけスイーツを頼んでくれて構わないから」

「フフ……ヨーヘイったら何を言ってるノ? 初めからそのつもりヨ」


 せっかく俺が気を遣ってそう言ったのに、プラーミャときたら当たり前だとばかりにクスクスと笑いやがる……。


『はうはうはう! やったのです! やったのです! 今日はアイス祭りなのです!』


 はは……[シン]は幸せそうでいいなあ……。


 俺はそんな[シン]を眺めながら乾いた笑みを浮かべた。


 だけど。


仲間・・、ねえ……」


 もう一度賀茂のほうをチラリ、と見やると、俺は独りごちた。


 ◇


「ふう……」


 プラーミャ達との打ち上げも終わって家に帰ってきた俺は、晩メシもそこそこにして部屋のベッドに寝転がる。

 というか、あんなにスイーツ食べた後だと、さすがに晩メシはあまり食べられなかったなあ……。


「それにしても……」


 俺はルフランで見た、賀茂とその仲間を思い浮かべる。

 賀茂が連れていた四人の仲間……あれは、間違いなく『ガイスト×レブナント』のヒロインだ。


 それも、四人全員・・・・


「ええと……」


 俺はスマホを取り出し、『攻略サイト』のキャラ紹介のページを開いた。


 まず一人目が、“大谷おおたにカスミ”。

 彼女は賀茂と同じ一―一にいる物静かな性格がと特徴のヒロインで、あのエセ聖女な木崎セシルほどじゃないけど、【光属性魔法】を得意とする精霊ガイスト、[アラ・ゲゲツィク]を使役する。


 二人目は、“佐々木ささきキョウカ”。

 こちらも一―一にいるヒロインの一人で、三年の和気先輩よりもさらにギャルだ。使役する精霊ガイストは[ウォルトゥムナ]で、こちらも土御門さんの[導摩法師]ほどじゃないけど【闇属性魔法】の使い手だ。


 三人目は、“吉川きっかわサヤ”。

 二―二にいる俺達の一つ上の先輩で、図書委員をしていていつも図書室に引きこもってる影の薄いヒロインだな。彼女の使役する精霊ガイストである[ウォルシンガム]も、まるでマスターの性格を反映してるかのように隠密行動スキルを所持しているスピードタイプだ。


 最後に、“大谷おおたにアイ”。

 その名字からも分かる通り、大谷カスミの姉で大学二年生だ。もちろんアレイスター学園のOGでヒロインの一人なんだけど、ゲームの世界で主人公と出会うのは教育実習にやってくる来年の九月のはず。

 一応、彼女の精霊ガイスト、[エーギル]は既にクラスチェンジ済みでもあるしステータスも高いんだけど、いかんせんゲーム終盤で仲間になるキャラなので、『攻略サイト』ではそこまでオススメされていない。


「……とまあ、これが賀茂の仲間なんだけど、見事にヒロイン縛りだよなあ」


 でも、これならメイザース学園との交流戦で、賀茂が選ばれて他のヒロイン二人の姿が見えなかった理由も分かる。

 要は、最初から賀茂の奴を代表にするために、あの二人が辞退したってことだ。


「そうなると、賀茂はあの二人と恋愛イベもこなしてるってことか?」


 ウーン……色々と頭がこんがらがってきたぞ?

 いや、確かに俺だって『ガイスト×レブナント』の世界を無視するかのように、先輩に影響を与えるイベントは色々とブチ壊したりしてるけれど、それ以外に関してはそれほど干渉していない。

 つまり、もし『ガイスト×レブナント』のシナリオ通りに事が運ぶのなら、ヒロインは主人公以外のキャラと恋愛イベなどに発展することはあり得ない……はず。


「ひょ、ひょっとして俺が色々と変えちまったから、他のキャラにも影響がでてるってこと、なのか……?」


 それなら、賀茂がヒロインを仲間にしていたり恋愛したりしていてもおかしくない……って。


「ああ……俺の思考もヤバイなあ……」


 というか、俺も俺で『攻略サイト』ばっかり頼りにしてるモンだから、考え方がゲームのプレイヤーみたいになっちまってる……。


 ……ここは、俺の現実・・なのに。


「いずれにしても、賀茂についてはちょっと気に留めるようにしておこう」


 普段会話する分には悪い奴とも思えないし、同じクラスならヒロインとだってチーム組んだりすることもあるだろうし。


 そう考えた俺は、もうこの話題を振り払おうとかぶりを振る。


 だけど、結局はこのことが頭から離れることはなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る