第370話 想いを伝えても、いいですか?

「全ク……コソコソしてると思ったラ……」


 声の主は、プラーミャだった。

 あー……後にしよう・・・・・と思ってたのに……まあ、一緒だからいいか。


「はは……このこと、他のみんなには内緒だぞ?」

「ヘエ……ダッタラ、ヨーヘイに何か口止め料でも支払ってもらおうかしラ?」


 プラーミャはグイ、と顔を近づけて微笑んだ。


「そうだな、これはぜひ口止めしておかないと」


 ということで、俺は木箱の蓋を開けると。


「コレは……ネックレスと指輪?」


 そう……この“バベル”領域エリアのクリア報酬である“ハルモニアのネックレス”と“ギュゲスの指輪”。

 前者は、たった一度だけ装着者が瀕死の状態の時、身代わりとなって装着者を全回復させるという代物。

 後者は、精霊ガイスト幽鬼レブナント関係なく相手のどんなスキル攻撃でも、一度だけ封じることができるアイテムだ。

 そして、一度でも使用すると、どちらのアイテムも壊れてなくなってしまう。


 ということで。


「こっちの “ギュゲスの指輪”は……プラーミャ、お前が持っていてくれ」

「っ!?」


 そう告げた瞬間、プラーミャが息を飲んだ。


「チョ、チョット待っテ!? 確かに口止め料って言ったけど、そんな大切なものをもらおうなんて思ってないわヨ!?」


 そう言って、プラーミャが慌てふためく。

 はは……いつも遠慮しないプラーミャにしては、珍しいな。


「いや……この指輪は、ぜひともプラーミャに持っていてほしいんだ」


 元々、“ギュゲスの指輪”についてはプラーミャに渡そうと考えていた。

 だって……俺は確かに、プラーミャにも救われたんだ。


 賀茂に指示されて吉川サヤがサンドラ達の部屋を襲撃した時、俺は……彼女を破滅に追い込んだ。

 あの時の俺は……いや、今でも、俺のあの行動は正しいと思っている。


 でも、だからってあの選択をしたことを……自分自身を許せるかってことに関しては別だ。


 だけど……プラーミャは、許してくれた。

 自分自身を許せそうにない俺を、プラーミャが許してくれたんだ。


 あの時の俺が、どれほど救われたか……どれほど嬉しかったか……。


「……だからプラーミャ、この指輪を受け取ってくれ。俺の……大切なプラーミャへの、絆の証として」


 そう言って、もう一度指輪を差し出す。


 すると。


「……サンドラの言う通り、本当にヨーヘイってズルイ・・・わよネ……」

「な、なんだよそのズルイ・・・ってのは……」

「ウルサイ……ヨーヘイの、バカ……」


 そう言うと、プラーミャは俺の手から指輪を取ると、その左手薬指にはめた。


「フフ……あとで返してって言っても、絶対に返さないかラ」

「当然だ。その指輪は、プラーミャのものなんだから」


 俺はサムズアップしながらそう言うと……っ!?


「ヨーヘイが、悪いんだからネ……」


 プラーミャは、突き出した俺の手を、愛おしそうに頬に寄せた。


「……サテ、早く戻らないと、またサンドラと藤堂先輩がねてしまうワ。帰りまショ?」


 すると、俺の手をパッと放したプラーミャは、クルリ、とひるがえってそんなことを言った。


「はは……そうだな」

「ン……」


 プラーミャは一切俺のほうへと振り返ることなく、俺の前を歩きながらそのまま上の階層へと向かう。


 だけど……そんなプラーミャの足取りは、どこか軽かった。


 ◇


「ふう……さあて」


 “バベル”領域エリアを踏破して家に帰ってきた俺は、スマホを手に取る。

 画面に表示されているのは、サクヤさんの電話番号だ。


「よし」


 俺は発信ボタンをタップした。


 ――プルルルル……プルルルル……ガチャ。


『もしもし』

「あ、サクヤさん。ヨーヘイですけど……」

『ふふ……どうしたんだ?』


 電話に出たサクヤさんが、笑いながら尋ねる。


「実は、これから逢えないかなー……と」

『ん? ああ、それは大丈夫だが……』

「ありがとうございます! じゃあ、今からサクヤさんの家に向かいますね!」

『あ、う、うん……ま、待ってる……』


 俺は通話終了のボタンをタップすると、掛けてあるモッズコートを羽織り、サクヤさんの家へと足早に向かった。


 そして。


「ふふ……だ、だがヨーヘイくん、急にどうしたんだ?」


 家から出てきたサクヤさんが、そう言ってはにかんだ。


「はい……あ、あの、これ……」


 そう言うと、俺はポケットからハンカチで丁寧にくるんだネックレスを取り出す。


「それは……?」

「はい……“バベル”領域エリアで入手した、“ハルモニアのネックレス”といいます。これを着けていると、たった一度だけ、着けている者の命を救ってくれます」

「っ!?」


 俺の説明を聞いた瞬間、サクヤさんが息を飲んだ。


「ま、まさか……っ!?」

「はい……このネックレスを、サクヤさんに受け取ってほしいんです」


 そう……『ガイスト×レブナント』では、主人公と戦ったサクヤさんの身体にあるを、父親である藤堂マサシゲが殺して奪い、ラスボスを覚醒させ、最終決戦を迎える。

 もちろん、俺はそんな未来を全力で阻止するつもりだけど、万が一・・・ということがある。


 だから。


「……サクヤさん、このネックレス、つけてくれますか……?」

「…………………………」


 サクヤさんは、俺の顔とネックレスを交互に見つめると……その真紅の瞳から、涙がこぼれた。


「本当に……本当に、君は……!」


 そして、サクヤさんが俺の身体を抱きしめた。

 強く……ただ、強く……。


「私は……君からもらってばかりだ……」

「あはは……俺だって、サクヤさんからもらってばっかりです。あなたに出逢ってから、ずっと……」


 そう言うと、俺はサクヤさんを抱きしめ返した。

 強く……ただ、強く……。


「ふ、ふふ……私は、世界一幸せだよ……私は……君に出逢えて、本当によかった……」

「俺もです……」


 それからしばらくの間、俺とサクヤさんは抱きしめ合った。

 お互いがお互いに出逢えた、そんな幸せを噛みしめて。


 サクヤさん……俺が、あなたを必ず救ってみせます。


 だから……クリスマスを超えた、その時は……。


 ――俺の想いを、あなたに伝えてもいいですか……?


―――――――――――――――――――――――――――――


いつも「ガイスト×レブナント」をお読みいただき、ありがとうございます!


この話をもって、物語の前半部分となる一年生編が終了となります!

ここから後半となる二年生編へと突入するのですが、この「ガイ×レブ」をさらによい作品にするため、少しだけ充電期間をとらせていただきます。


次回は12月1日から再開予定!どうぞお楽しみに!


また本日、新作ファンタジーを始めました!


辺境最前線の防衛戦術 ~王命により過酷な辺境の地に左遷された幼馴染の女将軍を助けるため、補佐官の俺は恩寵【模擬戦】で最悪の盤面を覆す!~


久々の連載小説!しかも中華ファンタジーです!

ぜひともお読みくださいませ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る