第255話 やんごとない転校生

「……望月くん、みんな、ありがとうございました!」


 ルフランでの打ち上げも終わり、俺達は悠木を駅へと送りに来ていた。


「あー……もう帰っちまうのかよお……寂しくなるなあ……」


 いつも明るいか残念なだけが取り柄の加隈にしては珍しく、しんみりとした表情を浮かべる。

 まあ、寂しいってことに関しては俺も同意するけど。


「……望月くん、また……連絡する、ね……?」

「おう! 俺もしつこいくらいにメッセージ送りつけてやるから!」


 少し泣きそうになっている悠木を励ます意味でも、俺は努めて大袈裟なジェスチャーでそう言い放った。


 それに。


「悠木も冬休みになったらコッチに帰って来るんだろ? だったらさ、その時もまた一緒に遊ぼうぜ!」

「……っ! う、うん!」


 そう言うと、悠木はぱあ、と笑顔を見せた。

 はは……悠木には、やっぱりソッチのほうが断然似合ってるよ。


「「「「…………………………」」」」


 すると、先輩、サンドラ、氷室先輩、立花がジト目で俺を睨んでいた。なんでだよ。


「ハア……ヨーヘイもいい加減にしないト、そのうち血の雨が降るわヨ?」

「オイ!?」


 プラーミャにあきれ顔で物騒なことを言われていまい、思わずツッコミを入れる。

 いや、本気マジで意味が分からん!


「……ふふ! 今日は本当に楽しかった!」


 そう言うと、悠木は駅の改札へを向かっていく。

 そして、こちらへクルリ、と振り返ると。


「……望月くん! また! 冬休み!」

「はは! おう!」


 満面の笑顔で元気に手を振る悠木に、俺も思いっ切り手を振り返した。


「さーて……それじゃ俺達も、これで解散……っ!?」


 そう言おうとした瞬間、俺は思わず息を飲む。


「……ほほう? 冬休み、悠木くんと会うのか」

「ヘエエエエ……冬休みは久しぶりにルーシに帰ろうかと思いましたけド、取りやめにしますワ」

「ふふ……これは冬休みが楽しみです」


 お、おおう……三人の殺気がすごい……。


『プークスクス! マスターの命は風前の灯火なのです! 修羅場確定なので……は、はう、どど、どうしてみんなが勢ぞろいしてるの……です……?』


 俺を馬鹿にするように笑っていた[シン]だったが、いつの間にか召喚されていた[関聖帝君]、[ペルーン]、[ポリアフ]にメッチャ睨まれ、[シン]の顔が真っ青になる。

 フフン、いい気味だ。


 そんな[シン]を尻目に、俺は改めて三人を見やると。


「あ、あう……せ、せっかくの機会だし、正月はうちの家に……」

「サンドラどうするノ? それだと、パパは東方国までやって来るわヨ?」

「フエエ……ヨーヘイとパパを会わせたほうがいいカシラ……」

「ふふ……私のおせち料理で、望月さんを骨抜きにしてみせますよ……!」


 ……なんだかなあ。


 ◇


「望月くん! おはよ!」


 メイザース学園との交流戦から一週間後の朝の通学路。

 俺を待ち構えていた立花が、嬉しそうにパタパタと駆け寄ってきた。


「おう、おはよう」

「えへへー、今日は久しぶりに望月くんと二人っきりで登校でき……「オーイ! 立花ー!」」


 はにかむ立花だったが、後ろから聞こえてきた加隈の声でその表情が一瞬にして曇る。


「よう! 立花! ヨーヘイ!」

「お、おお……」

「…………………………」


 相変わらず能天気な加隈とは打って変わり、立花は露骨に頬を膨らませて不満を露わにしていた。


「……というか加隈くん、今日は早めに学園に行くんじゃないの……?」

「へ? い、いや、それはそのー……」


 ほう? さては加隈の奴、立花をめるためにわざと嘘の情報をつかませたな?

 その挙動不審な態度からも、それは明らかだ。というかそんな真似をしたら、ますます立花に嫌われるだろうに……。


 そんな立花と加隈を眺めながら、俺は肩をすくめていると。


「よう」

「おう」


 曲がり角から賀茂が現れ、軽く手を挙げながら声を掛けてきたので、俺も同じように返す。


「それにしても……この二人は今日も・・・なのか?」

「まあなー……」


 呆れた表情で立花と加隈を指差しながら尋ねる賀茂に、俺は気の抜けた返事をした。

 まあ、賀茂は二人をあまり知らないからアレだけど、こんなの日常茶飯事だからなあ。そのうち賀茂も慣れるだろう。


 というか、賀茂とはあの交流戦以降、こうやって気軽に声をかけ合う仲になっていた。

 まあ、話をしている限りじゃ、悪い奴でもなさそうだしな。


「そういえば、今日うちのクラスに転校生が来るらしいぞ?」

「へえー、一―一になあ……」

「ああ。オレとしては、できれば可愛い女子がいいな」


 どちらかといえばクレバーなイメージの賀茂だったが、鼻息荒くそんなことを言ってくるあたり、意外と俗物的あのかもしれない。


「いや、お前達のクラスはサンドラさんとプラーミャさんという双子姉妹がいるからいいが、一―一は壊滅的なんだぞ?」

「ハイハイ」


 必死で訴える賀茂を、俺は手をヒラヒラさせながら適当にあしらう。


 すると。


「ふふ、おはよう」

「先輩! おはようございます!」


 俺は一緒に歩く賀茂を置き去りにし、先輩の元へと駆け寄った。


「うむ。じゃあ、行こうか」

「はい!」

「オイオイ……オレを置いて行くなよ……」

「はは、悪い」


 などと謝ってみたものの、俺はこれっぽっちも悪いとは思ってないけど。いや、むしろ邪魔だから消えて欲しい。


 俺と先輩は、邪魔な賀茂と、騒がしい立花と加隈を引き連れて学校へと向かう。


 そして。


 はは……賀茂、良かったじゃないか。

 お前の願望が聞き届けられたみたいだぞ?


 だって。


「ホホ、今日からよろしくのう」


 学園の校門前で、扇で口元を隠し、アメジストの瞳を細めながら立つその転校生は、間違いなく可愛い女の子なんだから。

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