第224話 サンドラとのコンビ

「おはよ! 望月くん!」


 先輩との美術館デートの、次の日。

 今日はいよいよ、メイザース学園との交流戦だ。


 で、立花は路地で笑顔で俺を待ち構えていた。


「おう。だけど今日はどうしたんだ? 最近は加隈から逃げるために時間ずらしてたのに」


 そうなのだ。とうとう立花は加隈かたの追随を逃れるために、俺と一緒に登校することすら諦めて少し早めに登校していたのだ。


「あー、うん……それが、とうとう時間とか色々と特定されちゃって……」


 そう言うと、立花は乾いた笑みを浮かべた。当然、その翡翠の瞳の色もくすんでいる……。

 というかここまで来たら、いよいよ加隈の奴、ストーカーで捕まったりするんじゃないか?


「立花……警察に被害届出す時は、俺も一緒について行ってやるからな」

「あはは……その時はお願いするよ……」

「「ハア……」」


 そして俺達は、盛大に溜息を吐いた。


「と、ところで望月くん、準備のほうは?」

「おう! もちろんバッチリだ!」


 立花が話を逸らすかのようにそう尋ねると、俺もそれに乗ってサムズアップしながら満面の笑みで答えた。


「あはは、頼もしいね!」

「はは。といっても、肝心の団体戦は明日だけどな」


 そうなのだ。メイザース学園との交流戦は今日と明日の二日間で開催され、今日は全生徒がいわゆる体育祭の競技で競うのだ。


「えへへ……だけど一日目の今日は、望月くんと一緒に戦えるから嬉しいんだ」

「お、おう……」


 はにかみながら上目遣いで話す立花に、俺は貞操の危機を感じてしまう。

 ただ……それは俺が立花に手を出されてしまうのか、それとも、この俺が手を出してしまうのか……。


 イ、イヤイヤイヤイヤ! お、俺には先輩という素晴らしい女性ひとが……!


 俺は間違いそうになった思考を元に戻そうとしてかぶりを振った、その時。


「た、立花!」

「「っ!?」」


 俺達の目の前に突然現れたのは、加隈だった。


「な、なんだよー! 登校時間を元に戻したんなら、早く言ってくれよー!」

「な、なんでそんなこと、加隈くんに言わないといけないのさ!」

「え、そ、それはその……と、友達、だし……」


 ゴニョゴニョと恥ずかしそうにそう告げる加隈。正直言って、キモチワルイ。


「と、とにかく! 今日のボクは望月くんと一緒に登校するの! だから邪魔しないでよ!」

「そ、そんなあ……って、そ、そうだ! じゃあ三人で登校すればいいじゃん!」


 加隈は妙案が浮かんだとばかりにポン、と手を叩く。いや、俺としては立花も加隈も邪魔でしかないんだけど。


 だって。


「あ……ふふ、おはよう望月くん」

「先輩! おはようございます!」


 俺は立花と加隈を無視し、先輩の元へと駆け寄った。


「そ、その……もう疲れは癒えたかな?」

「はい! むしろ、いつもよりも絶好調です!」

「それは良かった……」


 そう言うと、先輩はにこり、と微笑む。


 だけど、そりゃあそうだろ。昨日は結局、夕方になるまで先輩の膝枕で眠りこけちまったんだから。

 先輩だって俺の頭を膝に置いたままで、しかも身動きもできなくてつらかったはずなのに、それでも俺が目を覚ました時も、その真紅の瞳で優しく見つめてくれていて……。


「ん? 望月くん?」

「あ、ああいえ……何でもないです」

「?」


 はは……駄目だ。

 どうしても、先輩に見とれてしまう。


「そ、それより早く学園に行きましょう!」

「あ、う、うむ……だ、だが、あの二人はいいのか?」


 先輩は後ろを振り返り、今もわちゃわちゃしている立花と加隈を見やった。


「もちろん、置いて行きましょう」

「ま、まあいい……のか?」


 いいんです。

 だって俺は、先輩と二人で登校したいんだから。


 ◇


「フフ! ヨーヘイ、頑張って勝ちますわヨ!」


 体操着に着替え、グラウンドで張り切るサンドラ。

 いや、俺的には初日は体力温存のために、傍観者でいたいんだけどなあ……。


「ところデ、ヨーヘイは何の種目に出るんですノ?」

「俺? えーと……確か、『二人三脚』だったかなあ……」


 うん……俺って足が遅いから、あんまり影響がない種目に回されたんだよなあ……チクショウ。


 すると。


「アラ? ワタクシも『二人三脚』なんですけド……」

「お、本当か?」

「エ、エエ……」


 へえー、サンドラも『二人三脚』かあ……って。


「た、確か、今回の交流戦は人数も多いからって、一人一種目しか出ないんじゃなかったっけ?」

「そ、そうでしたわネ……」


 そして、ここで俺達は気づく。

 この『二人三脚』、必然的に俺とサンドラのバディだということに。


「ヨ、ヨーヘイ! ワタクシとアナタのコンビを、メイザース学園ニ……いえ、全校生徒に見せつけてやるんですのヨ!」

「お、おう……」


 ますます気合の入ったサンドラに、俺は少したじろぐ。


「そ、そうですワ! ワ、ワタクシとヨーヘイの息の合った『二人三脚』を見せて、そしテ……!」


 そう言うと、サンドラはフンス、と小さくガッツポーズをした。

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