第373話 新入生、林ヒョウカ

『……次に、在校生の祝辞を行います。在校生代表、藤堂サクヤ』

「はい」


 司会に呼ばれ、サクヤさんが壇上へと向かう。

 なお、今は入学式の真っ最中で、俺は隣のクラス・・・・・のアオイに絡まれていた。


「ねえ……ヨーヘイくん、聞いてるの?」

「お、おう……と、とりあえずサクヤさんの祝辞があるから、静かにしようぜ?」

「むー……違うクラスになった途端、ヨーヘイくんが冷たいよお……」


 とまあ、終始こんな感じで手に負えない。


「そうですワ……ヨーヘイったら冷たいんですノ……ワタクシがこんなにも落ち込んでいるのニ、ヨーヘイはちっとも寂しそうじゃありませんシ……」


 椅子の上で体育座りをして膝を抱えながらうつむくサンドラ。いや、寂しいもなにも、基本的に授業以外はずっと一緒にいるじゃん。なんなら、放課後は領域エリア攻略から生徒会活動、果てはルフランの寄り道まで一緒じゃん。


「ホ……なかなかままならぬものよのう……」


 扇で口元を隠しながら、憂いを帯びた瞳でそう告げるのは土御門さん。

 本当に、俺も二人に絡まれてるこの状況がままならないんだけど。


「……以上で、お祝いの言葉といたします」


 あああああ!? サクヤさんの祝辞が終わっちまった!?

 チクショウ! コイツ等のせいで聞き逃しちまったじゃねーか!


『続きまして、新入生答辞を行います。新入生代表、“リンヒョウカ”』

「はい」


 名前を呼ばれた銀髪ストレートロングの新入生が、壇上へと向かう。


「お! あの子、何気に可愛くね?」


 急に絡んできた加隈が、そんなことを言ってきやがった。

 というかお前、アオイ一筋じゃないのかよ。いや、そもそも新入生は女子だけど、希望する性別は合ってるか?


「フン。別に、大したことないわネ」


 などと鼻を鳴らしながらそんな憎まれ口を叩くプラーミャ。

 とりあえず俺が一番言いたいのは、なんで入学式だってのに俺の周りにはいつものメンバーが固まってるんだよ。普通こういうの、出席番号順だったりするんじゃないのかよ。


 そんなことを思いながらも、気を取り直して答辞を述べる彼女を見る。

 その銀色の髪を際立たせるようなラピスラズリの瞳、整った鼻筋、健康的な桜色の唇。

 スタイルも良く、胸の大きさもサクヤさんやプラーミャとも遜色そんしょくない。


 ……ああ。もちろん俺は、この新入生のことを知っている・・・・・

 東方国の隣の国、“中原王国”からの留学生で、『ガイスト×レブナント』に登場するメインヒロインの一人、“林ヒョウカ”。


 そして……俺が、チーム四人目・・・のメンバーとして加えようと考えていた精霊ガイスト使いだ。


 ◇


「フン……ヨーヘイ、あんなのが・・・・・好みなノ?」

「へ……?」


 教室へと戻る中、不機嫌そうに鼻を鳴らすプラーミャに突然そんなことを聞かれ、俺は思わず呆けた声を漏らした。


「……さっきの新入生ヨ」

「ああー」


 なるほど……俺が彼女をジッと見ていたから気になったんだな。


「いや、好みかどうかって言われたら、別にそんなことはないかなあ」


 まあ、林ヒョウカの精霊ガイストの実力に関しては、文句なしの評価だけどな。

 なにせ、この『ガイスト×レブナント』における数少ない回復スキル持ちで、その能力はあの木崎セシルの[フレイヤ]にも匹敵する。


 今でこそうちのチームにはカズラさんやアオイ、中条という回復スキル持ちがいるけど、元々のメンバー構成ではスピードタイプの[シン]以外、全員が物理攻撃主体の精霊ガイストだけだったからなあ。

 そういう意味でも、優秀な回復スキル持ちをチームに加えたかったんだ。


「……ヨーヘイ、まさかあの子をメンバーに加える気じゃないでしょうネ……?」


 プラーミャがそう言って鋭い視線で俺を見つめる。

 どうやら、コイツ的には林ヒョウカを加えることには反対みたいだ。


「いや、俺にそんなつもりはないよ。今のメンバーで充分だ」


 そう……今の俺達は回復スキル持ちが充実しているから、あえて彼女を加える必要もない。

 それよりも、今はこのメンバーでレベルや連携の底上げをするほうが重要だ。


「フウン……ならいいけド」


 プラーミャはそう言うと興味なさそうにプイ、と顔を背けた。


「あー……ヨーヘイくんがクラスに戻っちゃう……」

「ホントですワ……」

「ホホ……残念至極じゃのう……」


 ええと……三人共、教室の扉の陰からコッチを見るの、やめてくれないかなあ……。


「ま、まあ、立花の面倒は俺が見るから、ヨーヘイは心配しなくても大丈夫だぞ!」


 少し胸を張りながら加隈はサムズアップするが……イヤイヤ、俺は何一つ心配なんてしてないし、なんならアオイの世話は全部お前に任せたいんだけど。


「ヨーヘイ……」


 俺の傍に来て、制服の袖をつまんで悲しそうに俯くサンドラ。

 いや、メッチャ後ろ髪引かれるんだけど。


「はは、HRが終わったら今日は終わりだろ? だったら、すぐに教室に誘いに来るから一緒にルフランに行こうぜ」


 そう言うと、俺は励ますようにサンドラの髪を撫でた。


「ア……フフ……」


 どうやらサンドラも機嫌が直ったらしく、嬉しそうに目を細める。


「ッ! ホ、ホラ、ヨーヘイ! サッサと教室に入るわヨ!」

「お、おう……じゃ、サンドラ、後でな」

「エエ! 後デ!」


 プラーミャに強引に腕を引っ張られ、少し名残惜しそうなサンドラに見送られながら俺は教室に戻った。

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