第372話 新しいクラス

「おはようございます!」


 家を出ていつもの十字路、サクヤさんが今日も俺達を待っていてくれた。

 うんうん、今日も最高の一日になりそうだ。


「ふふ、おはよう。今日から君も二年生だな」

「はは……ですね」


 挨拶を交わした後、俺はサクヤさんの隣に並んで一緒に学園を目指す。


「ところで、今日の入学式もサクヤさんが祝辞を述べるんですか?」

「ああ、これは生徒会長の役目だからな」


 はは……そういや、去年の入学式の時は綺麗な人だなー、くらいの感覚でサクヤさんを眺めてたけど、まさかこんなに仲良くなるだなんて誰が予想してただろうか。


「じゃあ、去年は聞き流していた分、今日はシッカリ聞かないと」

「む……それは酷いな……これでも祝辞の内容は悩みながら考えているのだぞ?」


 おっと、サクヤさんにジト目で睨まれてしまった。

 でも、よっぽど仲が良かったり尊敬する人だったりじゃないと、普通は俺みたいに聞き流すだけだと思います。


「ハア……まあいい。私も新入生達がつまらなくならないよう、祝辞は工夫せねばな……」

「あはは……今の俺なら絶対に聞き漏らさないんですけどね……」


 肩を落とすサクヤさんを見つめながら、俺は苦笑した。


「あ! ヨーヘイくんおはよう!」

「ん? おー」


 後ろから駆け寄って来て挨拶をするアオイに、俺は軽く手を挙げた。


「えへへ、また同じクラスだったらいいのにね!」

「そうだなー、何だかんだで、一-三は楽しかったからなあ」


 うん、サンドラやプラーミャ、それにアオイがいて、担任の葛西先生もいい人だったし、クラスの他の連中だって気さくに話しかけたりしてくれたもんなあ。一-二の連中とは大違いだ。


「お、俺も! 今度こそ立花と同じクラスになるからな!」

「お、おー……」


 いつの間にかアオイの背後にピッタリとマークしていた加隈が、決意を込めてそう宣言する。

 だけど加隈よ……俺はお前の未来が心配だよ。このままじゃ、いつかストーカーとして捕まる日が来るぞ?


「ふふ……では、早く学園へと行こう。君達も自分のクラスがきになるだろうしな」


 そんな俺達の様子を眺めながら、クスリ、と笑うサクヤさん。

 うん……やっぱり最高に可愛い。


「そ、そうだぜ! 早く行こうぜ!」

「あ! ヤ、ヤメテよ!」


 調子に乗った加隈に腕を引っ張られ、嫌そうな顔をしながら引きずられていくアオイ。可哀想な奴……。


 それよりも。


「サクヤさん」

「ふふ……ん? ヨーヘイくんどうした?」


 俺が少し真剣な表情で名前を呼ぶと、微笑ましそうにアオイと加隈を見ていたサクヤさんが不思議そうな表情を浮かべて尋ねる。


「サクヤさんが学園を卒業するまでの残り一年間、絶対に最高なものにしましょうね」

「あう……う、うん……」


 顔を赤くしてうつむくサクヤさんと手を繋ぎながら、俺達は学園へと向かった。


 ◇


「えーと……俺のクラスは、と……」


 学園に着いた俺は、下駄箱のところに掲げられているクラス名簿を確認すると。


「お、あったあった」


 俺のクラスは“二―二”だった。

 ふむふむ……確か『攻略サイト』によれば、主人公達は全員二―一で、一度も主人公のチームで一緒に領域エリア攻略をしたことがない仲間キャラは他のクラスになるって仕様だったよなあ。


 ん? 俺、そういやアオイと一緒のチームで領域エリア攻略したことあったっけ?

 首をひねりながら思い返してみるけど……うん、ないな。


 一応、メイザース学園との交流戦イベで中条と土御門さんを迎え撃った時に一緒に戦ったり、チームではなく全員で領域エリア攻略をしたことはあったけど、ちゃんとチームとしてとなると一度もないや。


「だから、こんなクラス分けになったのか……」


 そう……アオイとサンドラ、加隈、土御門さんは同じチームで領域エリア攻略したことがあるから二―一、そして、俺と仲間キャラではないプラーミャが二―二になった。


 すると。


「ヨーヘイ……」


 今にも泣きそうな表情のサンドラが隣に来て、かすれた声で俺の名を呼んだ。


「お、おう……そ、そんなに落ち込んで、その、どうしたんだ……?」

「一緒のクラスに、なれませんでしたワ……」


 ああー……俺やプラーミャとクラスが分かれちまったことがショックなのか……。

 そういえば一年の時は、クラスではこの三人にアオイを含めた四人でいることが多かったし、それ以外のクラスメイトの中にはとりわけ仲が良いってほどの奴もいなかったしなあ……。


「ハア……全ク、休み時間や放課後になればいつもヨーヘイと一緒じゃなイ。いい加減、元気出しなさいヨ」

「プラーミャ…………………………ッ!」


 サンドラが、励ますプラーミャをしばらくジーッと見ていたかと思うと、急にそのアクアマリンの瞳を見開いた。


「ネ、ネエ……ワタクシとプラーミャって、双子……ですわよネ?」

「? そうだけド?」

「だったラ! 今日からアナタが“サンドラ”になるんですのヨ! ワタクシは“プラーミャ”として、二―二で励みますワ!」

「ナナ、ナニ言ってるノ!?」


 プラーミャにしがみつきながら、必死の形相でそう提案するサンドラ。当然プラーミャは困惑しきりだ。


「サンドラ……プラーミャの言う通りだ。なんなら、俺は休み時間のたびに二―一に顔を出すから……」

「ッ! 本当ですわヨ! 絶対! 約束ですワ!」

「うお!?」


 思い切り胸倉をつかみ、サンドラがガックンガックン俺を揺らす。

 うぐう、頭が揺れてキモチワルイ……。


「マ、マア、ヤーもヨーヘイと一緒に教室に顔を出すかラ……」

「ッ! プラーミャ、それで勝ったと思わないことですワ!」

「エ、エエー……」


 あー……プラーミャも大変そうだなー……って、あ。


 呆けた表情のプラーミャの向こう側に、サンドラと同じく顔を真っ青にするアオイの姿が……う、うん……見なかったことにしよう……。

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