幕間
第30話 一人ぼっちの彼と孤独の私①
■桐崎サクヤ視点
最初は、ただの興味本位だった。
新入生が入学してきた次の日の放課後、あの初心者用の
「君、そこで何をしている?」
興味が湧いた私は、その男子生徒に声を掛けた。
普通、この
何故なら、己を鍛えるには出現する
つまり……我々生徒にとっても、何の価値もないのだ。
なので、今はせいぜい新入生に
そんな場所に、この男子生徒が入ろうとしているのだから、不思議に思うのは自然なことだった。
「初心者用の
「そ、その、今日の授業でせっかく見学できたので、もっと中をよく見ようと思いまして……」
私の問い掛けに、緊張しながら答える男子生徒。
着ている制服の真新しさやその言葉から、どうやら新入生のようだ。
さらに尋ねると、やはり彼は新入生だった。
名前は、“望月ヨーヘイ”。
彼の答えに得心した私は、初心者用の
危険はないとは思うが、それでも新入生が一人で
それに……何故か分からないが、そんな彼がどうしても気になってしまったのだ。
彼は遠慮するが、私は少々強引に彼の手を引いて初心者用の
中に入ると懐かしさを覚えた私は、つい調子に乗って[関聖帝君]で現れる
せっかく彼が初心者用の
一方で、そんな彼はと言えば、[関聖帝君]に見惚れているようだった。
確かに私の
それは、この学園の者なら誰しもが知っていることだが……ふふ、それでも、こんな眼差しを向けられたら悪い気はしないな。
気を良くした私はガイストリーダーを取り出し、彼に[関聖帝君]のステータスを見せてあげた。
すると彼は、驚きながら感嘆の声を漏らすと共に、[関聖帝君]の弱点である【水属性弱点】について遠慮がちに尋ねてきた。どうやら、それを見てしまったことを気にしているようだ。
ふふ……
そんな彼に好感を持った私は、帰りは彼に
行きでやり過ぎてしまった罪滅ぼし的なものもあるが、それよりも彼の
だけど、彼は少し悲しそうな表情を浮かべて戸惑っていた。
何かあるのだろうか……。
そして、私達の前に
そんな彼の
彼の
そんな彼等の戦闘を見て私が最も注目したのは、彼と
確かにその姿が現す通り、彼の
だが、自分達の能力を補うかのように、その立ち位置や戦法など、その動き全体が洗練されているように感じた。
そして、それ以上に彼は
「……終わりました」
でも、私の元へ戻って来た彼の表情は、どこか覚悟しているような、諦めているような、そんな表情だった。
胸が痛かった。
彼がそんな表情をしているのは、恐らく私が彼と
だから、私はただ素直な気持ちを彼に伝えた。
彼と、彼の
すると……彼の瞳からぽろぽろと涙があふれ、ただ、感情のままに声を漏らした。
そんな彼の姿に私は驚き、必死でなだめた。私は彼を傷つけるようなことをしてしまったのだろうか、それとも、彼には
だが、泣き止んだ後の彼は、どこか憑き物が落ちたかのように表情が明るくなり、帰りの道中は見事な連携で現れる
ただ……彼の戦い方が
なので彼にその理由を尋ねると、返ってきた答えは驚くべきものだった。
まさか、生まれて初めて入るであろう
腹が立った。許せなかった。
そんな理不尽で危険な真似をさせた教師が、そんな彼を助けようともせず、ただ傍観していただけの、彼の仲間であるはずの新入生達が。
だから私は、彼に今後の
すると彼は一瞬驚いた後、嬉しそうに笑みを
ただ、彼からは、初心者用の
まあ、今日見させてもらった彼の危なげない戦いぶりから、一人でも危険はほぼ無いだろうと判断した私はそれを了承した。
そして、私は彼と別れると早速お父様……学園長にかけ合った。もちろん、彼の担任教師に対する処罰について。
話を聞いた学園長は激怒した。当然だ、万が一のことがあったらどうするつもりなのだ。
学園長はすぐに教頭と学年主任を呼び出し、今後の対応について調整した結果、まずは本人達から話を聞き、その上で担任教師の処分を決めることとなった。
次の日の朝、学園長以下で担任教師……“伊藤アスカ”に話を聞くが、あいまいなことばかりで要領を得ない。
ここで私が言っても良かったが、やはり彼本人の口から聞いてもらうのが一番だと思い、あえて黙っていた。
そして、担任教師にはHRのため一旦退席した後、今度は望月くんも交えて話を聞くことになったのだが、担任教師が教頭先生の隣に座り、彼がやって来た。
学園長が問い掛けると、彼は私を見て頷いた後。
「……はい」
と、ただ一言だけ答えた。
それを引き継ぐように私が説明すると、担任教師は観念したのか、やっと頭を下げた。
むしろここまではぐらかそうとする姿勢に、同情の余地はない。それよりも、学園として彼のご両親に謝罪することこそが先だ。彼女の処分については、その後だ。
その日の放課後、私は初心者用の
中に入ってすぐに連れ出してもいいのだが、せっかく彼が一生懸命訓練しているのを邪魔できない。
それから待つこと二時間。夕方六時を迎えようとした時、ようやく彼は扉を開けて出てきた。
ふふ……その時の彼のキョトンとした表情はなかなか可愛かったな……。
その後、私は彼と一緒に彼の家へと向かうと、学園長達がまさに謝罪をしている最中だった。
だけど、学園長達を叱りつける望月くんのお母様は、もう彼を学園に行かせないと宣言した。それは、大切な息子の安全を心から願う、母親の姿そのものだった。
……せっかく望月くんと知り合えたのに、このままお別れになってしまうのはつらい、な。
そう考えた私だったが、それでも、お母様のおっしゃることももっともだ。私は彼の背を押し、その行方を見守った。
するとどうだろう……彼は、こう言ったのだ。
「……俺、これからも学園に通いたい。じゃないと俺は、もう強くなれなくなってしまうから。桐崎先輩が、信じてくれたように」
その言葉を聞いた瞬間、私の胸がかあ、と熱くなった。
彼は、自分自身が強くなる理由として、この私を求めてくれたのだ。
こんなに嬉しいことがあるだろうか。
学園の生徒達は、私のことを学園長の縁故で生徒会長になったと
そんな私が、彼から求められている……。
私は
――必ず、彼が望むように強くしてあげよう、彼を精一杯支えてあげよう、と。
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