第31話 一人ぼっちの彼と孤独の私②

■桐崎サクヤ視点


 それからというもの、毎週土日はいつも彼と“グラハム塔”領域エリアでの攻略にいそしんでいた。


 本当は平日も“グラハム塔”領域エリアに行ったほうがいいのだが、彼がいまだに初心者用の領域エリアでの訓練を優先していることと、私自身も生徒会の業務などがあるため、一緒にいることができない。


 少々もどかしい思いをしつつも、それでも、昼休みはいつも彼と昼食を共にしているし、休日だって逢えるのだ。あまり贅沢も言えない。


 ……ただ、中間テストの彼の成績には少し危機感を覚えてしまった。

 これは、この私が彼の先輩として、しっかりと勉学についても導いてやらねばな。

 そ、それで……彼が頑張ったのなら、相応のご褒美も、その、用意してやらないと、だな、うん。


 そんな彼のテスト結果を見た後、私はお父様からお手伝い・・・・を頼まれ、土曜日は楽しみにしている彼との領域エリア攻略に付き合えなくなってしまったことを伝えた。


 私も断腸の思いではあるが、こればかりは仕方ない。

 すると彼は、とても寂しそうな、悲しそうな表情を浮かべた。くそ……そんな表情、反則だろう。


「あ、あああああ!? そ、その、よ、用事が早く終わり次第……た、多分昼の二時過ぎには私も来るから!」


 結局私は彼に負けてしまい、そんな風に約束してしまった……。

 お、お父様には悪いが、できる限り早く切り上げてもらうとしよう。うん、午前中で終わるように。


 そして土曜日。私はお父様に頼んでいた通り、用事は午前中で終わった。

 あの時はお父様に苦笑されてしまったが、お父様は快く了承してくれた。


 ふふ……お母様もそんな方だった・・・・・・・から、かもしれないな。

 といっても、私はお母様の子どもなのだから仕方ない。


 私は喜び勇んで学園に来ると、真っ直ぐ“グラハム塔”領域エリアの扉へと急いだ。


 ふふ、こんなに早く合流したら、彼は驚くだろうな。だが、その後はいつものように、あの笑顔を私に見せてくれるかな……。

 胸を弾ませ、私は一直線に第五階層を目指す。


 その時。


「あっ!?」


 第五階層へと向かう階段の前で、ちょうど階段から降りてきた女子生徒に出会った。

 この女子生徒……確か望月くんと同じクラスの生徒だったな。

 だが、どういうことだ? 休日は彼と私しかこの領域エリアにはいないはずだし、他の生徒に利用許可を出したとも聞いていない。


「待て」


 私は無言でその場を立ち去ろうとするその女子生徒を呼び止め、話を聞くことにした。


「君は何故こんなところにいる?」

「あ、そ、その……実は! 大変なんです!」


 するとその女子生徒は、一瞬戸惑うような仕草をしたかと思うと、突然私に詰め寄った。

 その行動といい不審に思うが、まずは彼女の話を聞いてみよう。


「む? 大変とは?」

「そ、それが、彼……同じクラスの望月ヨーヘイくんが、第二十一階層で閉じ込められてしまったんです!」

「はあっ!?」


 彼女の言葉を聞き、私は驚きのあまり声を上げた。

 だ、だが、彼には第五階層までしか行かないよう、釘を刺しておいたはず! なのに、どうしてそんな、今まで一度も行ったことがない階層に!?

 しかも、なんで閉じ込められるような事態に陥っているのだ!?


「ど、どういうことなのだ!? 彼は……彼は無事なのかっ!?」

「キャッ!?」


 頭の中が混乱を極め、私は彼女の両肩を思い切りつかみながら何度も揺すった。


「そ、それが! 彼がどうしても上の階層に行きたいと言い出して! 私も止めたんです! ですが私の制止もきかないでどんどん先に進んで、それで、彼が第二十一階層へと階段を昇ると、突然階段が崩れて離ればなれになってしまって!」


 彼女は私に揺すられながらも必死に説明するが、今は理由なんかどうでもいい!

 早く……早く助けに行かないと、彼が……望月くんが死んでしまう……!


「嫌だ! そんなのは嫌だ!」

「アウッ!?」


 私は彼女を突き飛ばし、階段を全速力で駆け上がる。

 そんな私の前に、幽鬼レブナント共が立ちはだかるが。


「邪魔だああああああああああ!」


 [関聖帝君]の青龍偃月刀でまとめて薙ぎ払いながら、私はがむしゃらに突き進む。


 頼む……頼む……! 望月くん、無事でいてくれ!

 お願いだから……この私を、一人にしないで・・・・・・・……!


 私は必死に願いながら、第二十一階層を目指す。

 そして、第十二階層の階段を昇り切った私の目の前に……あろうことか、ストーンウルフが彼の首元に今にも飛びかかろうとしていた。


 やらせるか! 彼を……望月くんを、貴様のような下衆な牙でやらせてなるものかあああああああ!


「オオオオオオオオオオオオッッッ!」


 私は一気にストーンウルフに詰め寄ると、[関聖帝君]の青龍偃月刀を一閃させた。


 ――斬ッッッ!


 ストーンウルフは真っ二つになって幽子とマテリアルへと姿を変える。

 その向こうには……汚れ、傷つき、そして、私を見つめて安堵の表情を浮かべる彼の姿があった。


「望月くん、大丈夫か!」


 私が慌てて駈け寄るが、その前に彼の膝が崩れ落ちる。

 絶対に、受けとめてみせる……!


 私は滑り込むように彼の前でしゃがむと、その身体を慈しむように優しく抱き留めた。


「全く……無茶をして……! 本当に、心配したんだぞ……!」


 良かった……彼は、生きていてくれた……!

 そう思うと、胸の奥からこみ上げてくるものがあった。

 だけど、彼の前で無様な姿を見せることはできない。私は必死でこらえるが……それも束の間、彼は気を失ってしまった。


「ふ、ふふ……本当に、無茶をして……」


 一滴ひとしずくの涙が、私の頬を伝う。

 私は彼の顔を優しく撫でた後、彼を背負って“グラハム塔”領域エリアを後にした。


 早速保健室へと運び、彼の怪我の手当てをすると、ゆっくりとベッドに寝かせる。

 彼はすう、すう、と気持ちよさそうに寝息をたてていた。


「ふふ……私の気持ちも知らないで……」


 彼の髪を撫でながら、その寝顔を見つめる。ふふ……可愛いな……。


 すると。


「んう……」


 彼が、ゆっくりと目を覚ました。

 さあて……彼に説教しないと気が済まないな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る