第194話 クラス代表選考会 予選終了、そして

「食らいなさイ! 【裁きの鉄槌】!」


 ――ドオオオオオオオンッッ!


 [ペルーン]がメイスを叩きつけると、舞台全体に稲妻が走り、その上にいる四人が電撃を浴びてスタン状態になる。

 こうなったら、あとは[ペルーン]がクラスメイトをご丁寧に一人ずつ舞台から退場させて終わりだ。


「それまで! 勝者、“アレクサンドラ=レイフテンベルクスカヤ”!」


 それを見て、審判の葛西先生が高らかに勝ち名乗りを上げた。


 ちなみに、あのクズ教師……伊藤アスカは第四組の試合終了後、早速学園長に呼び出されて今もテントでお説教? を食らっている。

 なので急きょ、葛西先生が審判を務めることになったんだけど……いやもう、その的確かつ公平な審判っぷりで生徒、教師達から喝さいを浴びていた。というか、審判なのに選手である生徒より注目浴びるってどうよ?


「はは、サンドラお疲れ!」


 舞台から降りてきたサンドラにねぎらいの言葉をかけ、手を挙げると。


「…………………………(プイ)」

「あら……」


 サンドラは何故かムッとした表情を浮かべ、ハイタッチをせずに顔を背けてしまった。

 お、俺、何か悪いことでもしたっけ……?


「あー……サンドラ、望月くんは何も悪くないのだから、その、ねるのはどうかと思うぞ……?」


 苦笑しながら先輩がたしなめるが、それでもサンドラはご機嫌斜めなようで、口をへの字に曲げたままだ。

 でも、今の先輩の言葉で分かった。サンドラは多分、あの試合の判定についてアッサリと引き下がったモンだから、納得できないんだな……。


「ッ!?」

「はは……まあ、俺だってあの結果を納得してるわけじゃないけど、それでも、審判がプラーミャの勝ちを告げた以上、結果は変わらないよ。それに、そんな態度してたらプラーミャだっていたたまれないだろ」


 俺はサンドラの頭を少し乱暴に撫で、できる限り優しい声でそう言った。


「……ヨーヘイ、ズルいですわヨ」


 口を尖らせながら、サンドラがポツリ、と呟いた。

 納得はしないものの、飲み込んではくれるみたいだ。


「悪いな……選考会が終わったら、ルフランでスイーツおごってやるから」

「二つ……ですワ」

「はは、了解。それより、決勝トーナメントは頑張れよ!」

「ッ! エエ!」


 さて……サンドラはこれで良し、と。

 あとは、決勝トーナメントでみんなを全力で応援……って、あー……お前もかー……。


『グス……[シン]は……[シン]は、勝ってたのです……! 負けじゃないのです……!』


 見ると、[シン]は一人ポツン、と体育座りをしながら半ベソをかいていた。

 まあ、あの試合で一番頑張ってたのは[シン]だし、あんな理不尽な結果じゃ悔しいのも当然か。


 俺は軽く息を吐き、そんな[シン]の元へと駆け寄った。


「[シン]」

『あ……マスター……』


 声を掛けると、[シン]はそのオニキスの瞳に涙をたたえながら俺を見上げた。


「さっきの試合……間違いなく、[シン]の勝ちだったよ。ただ、俺がちゃんとルールを確認しなかったからこうなっちまった……悪い」

『っ! 違うのです! マスターは何にも悪くないのです! マスターは……マスターは、[シン]のために全力だったのです!』


 俺が深々と頭を下げると、[シン]は慌てて俺の身体を起こそうとした。


「いや……アイツのジャッジの可能性も含めて、俺はもっとちゃんと考えるべきだった。だからこれは、あくまでも俺のミスだ」

『そんな……! 悪いのはアイツなのです! マスターが[シン]に頭を下げる必要なんて、これっぽっちもないのですうううううっ! うわあああああああああん!』


 とうとう感極まった[シン]は、俺の首に飛びつき、大声で泣いてしまった。

 ハア……本当に俺、[シン]のマスター失格、だな……。


「……今回はこんな結果になっちまったけど、来年こそは絶対に勝とうな……?」

『ハイなのです! [シン]はもっともっと強くなって、今度こそルール無用で勝ってみせるのです!』


 俺は泣きじゃくる[シン]の頭を優しく撫でながら、その小さな身体を抱きしめ……『一―三の望月ヨーヘイは、至急、舞台の上まで来るように!』……って、アレ? 俺、今呼び出された?


『はう……マスター、呼ばれたのです』


 まだ涙で濡れたままの[シン]が、俺の顔を覗き込む。


「だ、だよなあ……」

『早く、マスターは行ってくるのです……[シン]は、もう大丈夫なのです!』


 そう言うと[シン]は、にぱー、といつもの笑顔を見せた。

 ……ったく、無理やりそんな顔しやがって。


『はう!?』

「何の用か知らねーけど、ちょっと行ってくる」


 俺は[シン]の頭をガシガシと乱暴に撫でた後、舞台へと上がると。


「望月、遅いぞ!」

「へ? い、いや先生、遅いって言われても……」


 俺は頭を掻きながら思わず顔をしかめる。

 というか……アレ? 立花にサンドラに……これって、全員バトルロイヤルの勝者だよな?


「ホラ、お前が四番目のくじを引く番だからサッサと引け。後がつかえてるんだ」

「……へ?」


 そう言うと、葛西先生がニヤッと笑った。

 え? え? どういうこと?


「……プラーミャがネ? 『ヤーは笑いものになるために東方国に来たんじゃなイ』って言って、決勝トーナメントへの出場を辞退するって申し出たノ」

「はあ!?」


 サンドラのその言葉に、俺は驚きの声を上げて回りをキョロキョロと見回すと……舞台の|傍で先輩達と一緒にいるプラーミャの姿があった。

 しかも、不敵な笑みを浮かべながら。


 ……ハア、なんだよそれ。


「コホン……それと、伊藤先生の判定結果については、学園本部でも疑義が出てな。改めて審議の結果、レイフテンベルクスカヤの申し出は正当だということで、受理されたんだ。だから、結局はそういった結果になる可能性のほうが高かった」

「……ですけど」


 先生の説明を聞いても納得がいかない俺は、顔を背けて言い淀む。

 すると。


「望月……レイフテンベルクスカヤに対して負い目を感じているのなら、お前がこの決勝トーナメントに勝つことで証明してやれ。お前に勝ちを譲ったことは、決して間違いじゃなかったと」


 先生は俺の肩をつかみ、真剣な表情でそう告げた。

 チクショウ、うちの担任とあのクズ教師とのギャップがすごすぎて、本気マジで泣きそうなんだけど。


「……はい」

「よし! じゃあ望月、くじを引け」

「はい!」


 俺は先生からズイ、と差し出された箱に手を入れ、くじを引いた。


「……三番です」

「望月は三番だな」


 その後、サンドラを含めた二人がくじを引き、決勝トーナメントの抽選は終わった。


「プラーミャ……」

「……本当だったらヤーがクラス代表になる予定だったんだから、代わりにヨーヘイが決勝まで行ってサンドラに負けるのヨ!」

「オイ、なんでだよ」

「アアアアアアアアア!? そ、そういうのはサンドラだけにしなさいよネ!」


 俺はツッコミ代わりにプラーミャの頭を乱暴に撫でると、顔を真っ赤にしたプラーミャに怒られてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る