第195話 クラス代表選考会 決勝トーナメント①

「[シン]! 行くぞ!」

『はうはうはう!? い、一体何の話なのです!?』


 急いで[シン]の元に駆け寄ってそう告げると、[シン]は困惑した表情を浮かべる。

 はは、さっきの舞台のやり取りを見てなかったんだな。


「まあ、来れば分かるって!」

『はうはうはうはうはう!? マスターが強引なのです!? お持ち帰りされちゃうのです!?』


 俺はあわあわする[シン]をかつぐと、そのまま舞台に向かって走った。

 だけど[シン]め……一体どこでそんな言葉覚えやがった。


 すると。


「望月くん! [シン]! 頑張れ!」

「ヨーヘイ! [シン]! ファイトですワ!」

「二人共、頑張ってください」


 先輩、サンドラ、氷室先輩が俺達にエールを贈ってくれた。

 はは! もちろん頑張りますよ!


『はう……こ、これって……?』

「ああ……俺達は、プラーミャの代わりに決勝トーナメントに進むことになった」

『ミャーさんの代わりなのです!?』


 まあ、驚くのも無理はないよな。俺だって、メッチャ驚いたし。

 ということで、俺は手短に事情を説明すると。


『はう……そうだったのですか……』


 すると[シン]は、少しだけ落ち込んだ表情を見せた。

 だけど、[シン]の気持ちも分かる。結局のところ、スッキリはしないよな。


「だから……俺達は絶対に勝って、クラス代表に選ばれよう。そうすれば、予選でのあの戦いも含め、誰にも後ろ指差されないし、何よりも、プラーミャは本当に強かったんだって、俺達に勝ちを譲ったことは間違いじゃないんだって、その証明になるんだから」


 そう言って、俺はニコリ、と微笑んだ。


『はう! マスターの言う通りなのです! 勝って勝って勝ちまくって、ミャーさんが一番手強かったって、そう言うのです!』

「おう! その通りだ!」


 よし……[シン]も、もう大丈夫。後は、対戦相手に集中するだけだ。

 俺は、[シン]と拳をコツン、と合わせ、目の前を見据える。

 そこには、トーナメント一回戦の相手、“都築つづきタイキ”がいた。


 俺達は一睨みした後、チラリ、と葛西先生を見て合図を促す。


 そして。


「決勝トーナメント、一―三の第一試合、始め!」


 先生の合図で、試合開始となった。


「さあて……んじゃ、サクッと倒すぞ、[シン]!」

『ハイなのです!』

「オマエ等、あんまり俺を舐めるなよ! [ザントマン]!」


 そう叫ぶと、怪しげな仮面を被り、革のコートに革のライダースーツという不思議な恰好かっこうをし、さらには麻の袋を背負った精霊ガイストが召喚された。


「食らえ! 【トラウム】!」


 都築の精霊ガイスト、[ザントマン]は舞台全体を覆うように、袋の中から粉をまき散らした。


「ハハハ! この粉には睡眠作用がある! 吸い込んだ瞬間、オマエ等は終わりだ!」


 俺達を指差しながら、続きは嬉しそうにのたまってるけど……そのスキル、さっきの予選で一度見てるからな?


 オマケに。


『はうはうはう!』

『ッ!?』


 [シン]はそんな粉をものともせず、あっという間に[ザントマン]の背中に回り込んだ。


「どういうことだ!? もう眠りこけていてもおかしくないだろ!?」

「バーカ、[シン]には【状態異常無効】のスキルがあるんだよ」


 そう。だから予選を見ていた時も、コイツと当たったら楽だろうなー、なんて考えてたんだよな。

 とはいえ、予選で都築と対戦した奴等は全員眠っちまったけど。


「まあ、こればっかりは相性の問題だから悪く思うな。[シン]」

『任せるのです!』


 元気に手を挙げて返事をした[シン]は、[ザントマン]の背中にペタリ、と呪符を貼り付けると。


『【縛】』

「なあ!? う、動けねー!?」


 [ザントマン]は行動不能になり、都築がわめき散らす。

 俺がチラリ、と見やって目で合図すると、先生はコクリ、と頷いた。


「勝負あり! 勝者、“望月ヨーヘイ”!」


 先生の勝ち名乗りを受け、[シン]は[ザントマン]から呪符をがした。


「はは、悪いな」

「チクショウ……結局、瞬殺かよ……」


 俺は都築の傍に寄ってス、と右手を差しだすと、都築はガックリと肩を落とした後、苦笑しながら俺の手を握った。


「こうなったら、最後まで勝っちまえ!」

「おう!」


 激励の言葉を貰い、俺と[シン]は意気揚々と舞台から降りると。


「フフ……ヤーがせっかく勝ちを譲ったんだから、これくらい当然よネ」

「はは、まーな」


 プラーミャに出迎えられ、俺はハイタッチを交わした。


「うむ、見事!」

「先輩!」


 腕組みをしながらニコリ、と微笑む先輩の元へ、俺は駆け寄る。


「さあ、次はサンドラの番だ」

「はい」


 先輩の隣に並び、俺と入れ替わりで舞台に上がったサンドラを眺める。

 うん……サンドラの奴、気合の入ったいい表情をしているな。


「では、決勝トーナメント、一―三の第二試合、始め!」

「[ペルーン]!」

「クッ! [ランダ]!」


 先生の合図と同時に、サンドラと対戦相手の“桐山きりやまカナ”は精霊ガイストを召喚した。


「行きなさい! 【レヤック】! 【チュルルック】!」


 すると桐山は、精霊ガイストの[ランダ]だけじゃなく、長い牙を生やした猿のような二体の魔獣をさらに召喚した。

 予選の時は闇属性魔法を駆使して勝ち上がってきたけど、どうやら魔獣を使役して戦うコッチが、本来のスタイルみたいだな。


「フフ……お猿さんアビジヤーナが二匹いたところで、[ペルーン]を止めることはできませんワ!」


 そう叫ぶと、[ペルーン]がメイスを振り回して突っ込んでいく。

 というかその戦い方、相変わらず無防備が過ぎる!?


「おいサンドラ! もうちょっと慎重に……って!?」


 俺がアドバイスしようとした矢先に、[ペルーン]のメイスが魔獣のうちの一体に襲い掛かった。

 だけど、もう一体の魔獣がその隙を突いて、鋭利な爪を[ペルーン]の喉元を狙う。


「甘いですワ!」


 [ペルーン]は左手の盾で魔獣の爪を弾き返すと、返す刀で魔獣の横っつらに思い切り叩きつけ、それと同時にメイスがもう一体の魔獣の頭部をグシャリ、と潰した。


「【チュルルック】!?」

「もう一匹!」


 そして、もんどり打って倒れるもう一体の魔獣にも、メイスによる無慈悲な一撃を食らわせた。


「あとハ……本体だけ、ですワ」


 のそり、のそり、と、[ペルーン]は[ランダ]に向かってゆっくりと歩を進める。


「こ、来ないで!? 【スクリーム】!」


 引きつった表情を浮かべる桐山は、苦し紛れに相手を恐慌状態にする邪属性魔法の【スクリーム】を放つ。

 というか、【状態異常弱点】を持つ[ペルーン]じゃ、分が悪すぎるんじゃないのか!?


「フフ、【ガーディアン】」


 すると[ペルーン]は目の前に盾を展開し、【スクリーム】を寄せ付けない……って、あの盾、通常の物理攻撃や魔法攻撃に加えて、状態異常攻撃さえも弾くのか!?


「サア、終わりですワ」


 [ペルーン]がゆっくりとメイスを振り上げ、稲妻をほとばしらせた、その瞬間。


「こ、降参よ!」


 サンドラの……そして、[ペルーン]のプレッシャーに耐えかねた桐山が、たまらず降参を告げた。


「勝負あり! 勝者、“アレクサンドラ=レイフテンベルクスカヤ”!」


 勝ち名乗りを受けると、サンドラはきびすを返して颯爽と舞台を降りる。


「はは……何だよ、カッコイイじゃねーか……!」


 サンドラの凛としたその姿に、俺は思わず見惚れていた。

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