第49話 願い事

「わ、私のお願いを一つだけ……き、聞いて欲しいんですノ……」


 ……うん、やっぱりろくでもなかった。


 というか何だよソレ! 絶対まともな願い事じゃねーだろ!

 しかも! しかもだ! “グラハム塔”領域エリアのボス、“タロース”をどちらが先に倒すかで既に俺は負けてるんだぞ! 万が一何かの間違いがあって俺が期末テストでサンドラに勝っても引き分け止まりだ!


 つまり、俺にメリットは何一つないってことだろ!


「お前なあ! そんなの俺が受けるわけ……っ!?」


 俺は思わずサンドラに向かって抗議の声を上げようと思ったけど……サンドラはどこか思いつめたような表情を浮かべている。

 ハア……何だよ。そこまでして俺にお願いしたいのかよ……。


「……分かったよ」

「ッ! ほ、本当ニ?」

「おう。ま、そもそも勝負を受けちまったんだから、それなりに勝利報酬は用意しとくモンだからな。ただ、後出しはコレっきりにしてくれよな……」

「ウン……」


 おーおー……何だかよく分からんけど、嬉しそうにしやがって。

 ……いや、分からなくはない、か。

 それに俺も、『いつだって俺を頼ってくれ。俺は、必ずお前の力になるから』なんて言ってしまったからなあ。


 だけど……そうか。

 サンドラは、向き合うことに決めたんだな。


「よっし!」

「「っ!?」」


 俺は気合いを入れるため、両頬をパシン、と叩いた。

 すると、サンドラだけじゃなく採点に集中していた先輩も驚いた表情を見せた。というか、そんなつもりないのに失敗したなあ……。


「あ、あはは、ちょっと気合い入れただけなんで」

「そ、そうか……それならいいんだが……」


 俺は頭をきながら苦笑すると、不思議そうな表情を浮かべながらも、先輩はまた採点を再開した。


 まあ、だからといって負けてやる義理はない。

 やるなら、ガチでやらないと、だな。


 俺は口元を緩めると、テスト勉強に集中した。


 ◇


「フフ! ワタクシの完全勝利なのですワ!

「…………………………」


 期末テストが終わり、お互いのテスト結果を見せ合ったんだけど……はい、予想通り全教科サンドラが勝ちました。

 いや、一つ言わせてもらうと、今回のテストは先輩が教えてくれたこともあって、俺も全教科平均以上だったんだぞ?

 でも、サンドラの奴は全教科百点に近い得点をたたき出しやがったんだ。そんなの勝てるわけがない。


「ふふ……だが、望月くんも頑張ったじゃないか。中間テストの時と比べると、雲泥の差だぞ?」

「と、当然ですよ! 俺を教えてくれたの、誰だと思ってるんですか!」

「あう!? そそ、そうだな……」


 俺の言葉で、桐崎先輩が顔を真っ赤になってしまった。

 というか先輩も、当然のことなんだから毎回そんなに照れなくてもいいのに。


「そ、それで……ヨーヘイ、分かってますわよネ……?」

「お、おう。お前のお願いを一つ聞く、だろ?」

「ムム!? ま、待て!? なんだその『お願いを聞く』というのは!?」


 ん? 何故かここで先輩が驚いてるぞ?


「アレ? 先輩、覚えてませんか? ほら、先輩の家で期末テストの勉強をしてた時、サンドラの提案で敗者は勝者のお願いを一つ聞くって話なんですけど」

「ししし、知らない! 私は聞いてないぞ!」


 先輩は焦った表情でブンブン、と勢いよく首を左右に振った。


「イ、イエ! ワタクシのお願いはその……ちょっとヨーヘイでないとできないことデ……そ、それニ」


 するとサンドラは、先輩のそばに寄って何かを耳打ちした。

 で、先輩はというと両手をバタバタさせながら顔を真っ赤にしたかと思うと、サンドラと向き合って不敵な笑みを浮かべた。

 そしてそれは、サンドラも同じだった。


 ウーン……一体この二人、何の話をしたんだ?

 まあ、サンドラの奴は、ひょっとしたら俺への頼み事について話したのかもしれないけど。


 まあいいや。


「それで、サンドラの願い事っていうのは何なんだ?」


 俺はサンドラにそう声を掛けると、彼女は真剣な表情を浮かべながら俺へと向き直った。

 といっても、多分サンドラが闇堕ちする原因となったアレ・・関連だとは思うけど。


「ハイ……実は……」

「…………………………」

「そ、その! 会って欲しい人がいるのですワ!」


 …………………………ん?


「え、ええとー……どういうこと?」

「そ、その……か、家族に会って欲しいのでス!」


 …………………………はい?


「ダダ、ダメだ! ダメだぞそんなの! ダメだからな!」


 すると、先輩が俺とサンドラの間に割り込んで、全力でサンドラの願い事を拒否した。

 といっても、受けるかどうかを決めるのは俺なんですけどね。


「ヨーヘイお願い! アナタに“プラーミャ”に会って欲しいノ!」


 サンドラは俺の胸に飛び込むと、必死の形相で俺の制服をえりを握りしめた。

 だけど……サンドラが告げた家族の名前。


 それは、ルーシ帝国が誇る【火属性魔法】を極めた精霊ガイスト使いで、サンドラが『ガイスト×レブナント』において闇堕ちする遠因となった人物。


 “プラーミャ=レイフテンベルクスカヤ”……つまり、サンドラの双子の妹だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る