第50話 サンドラの覚悟
「で、その“プラーミャ”っていうのは誰なんだ?」
「ソ、ソノ……ワ、ワタクシの双子の妹……ですワ……」
俺はあえて知らないフリをしてサンドラに尋ねると、想定通りの答えが返ってきた。
それにしても、その“プラーミャ”は確かにサンドラの闇堕ちの原因ではあるけれど、『まとめサイト』では“プラーミャ”ってのはあくまでサンドラとの過去エピなんかが書かれているだけ……つまり、その存在が示されてるだけで、実際にはゲームには登場しないキャラだ。
なので当然、主人公達がその“プラーミャ”と直接会ったりするなんてイベントは存在しない。
とはいえ。
「じゃあ次の質問。どうして俺にそのサンドラの双子の妹と会わないといけないんだ? 正直、俺には話が全く見えないんだけど」
「そそ、そうだぞ! 私にも詳しく話してもらおう!」
俺はサンドラの意図を探るため、そう尋ねた。
ところで桐崎先輩、なんで俺より食いついてるんですか。
「ソ、ソレは……」
ここで何故か、サンドラは顔を赤くして言い淀む。
ウーン……俺の勘では、嫌な予感しかしない。
「ハ、ハッキリ言ったらどうなんだ?」
「せ、先輩、落ち着いてください!」
コッチはコッチで、少し暴走気味の先輩がサンドラに詰め寄る。
というか、なんで先輩がそこまで気にするんですか……。
「それで……サンドラ?」
「ウ、ウン……こ、こんなお願い失礼なのは承知で言うワ……ソノ……ワ、ワタクシと恋人のフリをして欲しいんですノ!」
「「はあああああああああああ!?」」
サンドラの答えに、俺と先輩は驚きの声を上げた。
いや、というか何で俺が!? サンドラの恋人のフリをするんだ!?
「わ、悪い……全然話が見えないんだけど……」
「ア、ゴ、ゴメンナサイ……実は、あの“グラハム塔”
するとサンドラは、
元々サンドラの実家である『レイフテンベルクスカヤ家』は、皇族の血も引くルーシ帝国でも屈指の名門貴族であること。
『レイフテンベルクスカヤ家』にはサンドラと双子の妹である“プラーミャ”の二人しか跡継ぎがおらず、当然、長女であるサンドラには家から過度な期待がかけられていること。
だけど、
「……ですからワタクシは、その妹を超えようと、これまで必死で努力してきましたワ。勉学も、貴族としての作法も、そして、
うん……ここまでは、『まとめサイト』に書いてあった通りだ。
だからこそ、主人公との勝負に負けてよりプレッシャーに
だけど。
「……で、肝心の俺がそのサンドラの妹に会う理由は何なんだ? しかも、お前の恋人のフリをして」
「それは……」
俺の問い掛けに、サンドラはキュ、と唇を噛むと、意を決したかのように顔を上げ、そのアクアマリンの瞳で俺を見据えた。
「……ワタクシは、『レイフテンベルクスカヤ家』の後継者候補から降りようと思っておりますノ……」
「はあ!?」
ど、どういうことだ!?
あの『まとめサイト』によれば、『レイフテンベルクスカヤ家』の後継者候補であることが何よりも誇りで、主人公に救われた後もひたすらその高みを目指していたサンドラが!?
「フフ……ワタクシ、今回の“グラハム塔”
ああー、まあ俺の目的はサンドラとの勝負じゃなくて、あの
「ワタクシが勝負に勝っても、ヨーヘイはワタクシを祝福するばかりで……何より、ワタクシのためにその身体を傷つけて……」
「オイオイ、怪我のことは気にすんなって言っただろ……」
「わ、分かってますワ。それで……ワタクシは考えましたノ。ワタクシにとって、本当に『レイフテンベルクスカヤ家』を継ぐことがそれほど大事なのかと。イエ……少し違いますわネ。私がしたいことは、本当に『レイフテンベルクスカヤ家』を継ぐことなのかと」
意外だった。
サンドラにとって、『レイフテンベルクスカヤ家』こそが
どんな心境の変化があったのかは分からない。でも、サンドラの瞳には、憂いや迷い、諦めといった色は見受けられなかった。
あるのは、ただ覚悟だけ。
「後悔……しないのか……?」
俺の問い掛けに、サンドラは無言で、だけど、力強く頷いた。
ハア……
「分かったよ……」
「ッ! ほ、本当ですノ?」
「ああ……そこまで真剣に考えて、悩んで、それで答えを出したんだろ? だったら、せめて背中押すくらいはしてやるよ」
「ア、アリガトウ!」
「うお!?」
するとサンドラは、その水色に輝く瞳に涙を|湛えながら俺に抱きついてきた!?
「ままま、待て!? あ、あくまで恋人のフリなのだぞ!? そんな真似する必要はないだろう!」
「フエエエエ!?」
それを見た先輩は慌ててサンドラを羽交い絞めにし、俺から無理やり引き
と、というか、サンドラってあんなにいい匂いするのかよ……ヤベ、ちょっとドキドキした。
「そ、それで、その妹といつ会うんだ? さすがに俺にルーシ帝国まで来いって言われても無理だぞ?」
「ア、そ、そうでしたわネ……」
サンドラも今の抱きつき行為が恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にしながら髪を耳に掛ける仕草をした。
「そ、それで……“プラーミャ”は夏休みを利用して八月にこの“東方国”に遊びに来ますノ……その時ニ……」
「マジかー……」
夏休み……“アルカトラズ”
サンドラの言葉に、俺は思わず手で顔を押さえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます