第392話 天罡星⑩

 “梁山泊”領域エリア『第四門』を出て、俺達は次の『第三門』へと向かっている。


 けど。


「…………………………」


 俺は、あの[入雲竜]の言葉が頭から離れず、今も船に揺られながら思考を巡らせている。


 何故、彼女はあんなこと・・・・・を俺に言ったのか。

 どうして、そのこと・・・・を知っているのか。


「ヨーヘイくん……」


 サクヤさんが俺の手に自身の手を添え、心配そうに俺を見つめた。


「はは……すいません、ちょっと考え事してました……」

「それはいい……だが、もし悩んでいることがあるなら……困っていることがあるなら、遠慮なく私に言ってくれ。私は……君の力になりたい」

「ありがとう、ございます……」


 いつか真実を、サクヤさんにも明かさなければいけない時が来る

 それは……意外と近いかもしれない、な……。


 すると。


 ――ポン。


「心配するな。貴様には我もいる。[入雲竜]の告げた理不尽な力・・・・・、貴様なら打ち破れるとも。何より、貴様によって我は理不尽な力・・・・・から解放されたのだからな」

「中条……」


 そう、だったな……。

 お前も、本当なら終盤まで争う主人公のライバルだったんだもんな……。


 でも、お前は今じゃ、この世界がゲームである真実を共有する、俺の大切な親友だ。

 それに、サクヤさんも、サンドラも、プラーミャも、カズラさんも、アオイも、土御門さんも、加隈もいる。


 何より、俺には最高の相棒……[シン]がいる。


 俺は……一人じゃない。


「うん……行こう!」

「クク……それでこそ、我が友、望月ヨーヘイだ」


 中条は嬉しそうに、くつくつと笑う。

 全く……本当にこのゲームって、表と裏のキャラ設定違い過ぎるよな。


 ◇


『お待ちしておりました』


 何故か『第三門』の守護者である[知多星ちたせい]が桟橋で待ち構えていて、恭しく一礼した。


「え、ええと……待ってたっていうのは……?」

『ふふ……[神行太保]とそのマスターであるあなたに、お話したいことがあるからです。どうぞこちらへ』


 そう言って、[知多星]は俺達を島の中央へと案内する。

 だけど……話したいことっていうのは一体……。


『ひょっとしたら、[入雲竜]から既に聞かされていると思ったのですが……その様子では、[神行太保]を可愛がり過ぎて、肝心なことを告げなかったようですね……』


 [知多星]はこめかみを押さえ、眉根を寄せながらかぶりを振った。


「……それって、理不尽な力・・・・・のこと、か……?」

『ふふ……どうやら、大事な部分だけはちゃんと告げていたようですね……』


 俺の言葉を聞いて、[知多星]は満足そうに頷く。


『では、私からはこの“梁山泊”領域エリアの真実をお話しておきましょうか』

「ここの真実!?」

『はい。そもそもこの領域エリア、他の領域エリアと比べて不思議に思いませんでしたか?』

「そ、それは……」


 そう……『攻略サイト』では、百七人の精霊ガイストと戦闘を含めた色々なミニゲームで攻略していき、最後に[シン]は最強のスキルを手に入れるイベントのために用意されたもの。


 でも、実際に来てみると、確かに精霊ガイストとバトルをしたりすることもあるけど、全員が俺達人間とも会話による意思疎通ができた。


 何より……ここのボスに幽鬼レブナントは一体もいない。


『ふふ……どうやらこの“梁山泊”領域エリアについては、神……いえ、“管理者”と呼んだほうが正しいのでしょうか? その影響が及ばないのです』

「っ!? か、“管理者”!?」


 [知多星]から告げられたワード……“管理者”という言葉に、俺は思わず聞き返した。


『“管理者”については、この私から詳しくお話をするのは控えておきましょう。この後に控える私達の二人の主・・・・が答えてくれるでしょうから』

「…………………………」

『それで、この“梁山泊”領域エリアは“管理者”の影響を受けないおかげで、このように意思を持って私達は行動しています。あなた達と、共に戦うために』

「……じゃあ、最初から俺達を待っていた、と?」

『はい』


 [知多星]は肯定の意味を込めてニコリ、と微笑む。


『とはいえ、[神行太保]を使役するマスターが悪意を持っているのであれば、共に戦うに値しないですから……色々、試させていただきましたが』


 成程……それが、精霊ガイスト達の試練ってわけだな。


「それで……俺はどうなんだ?」

『もちろん、少なくとも私を含め百五人は合格と判断しました』

「百五人……ってことは、上の二人・・・・は違うってことだよな?」

『さあ……あの二人の考えは私には及ばないところですから』


 そう言って、[知多星]は誤魔化すかのように口元を押さえ、クスクスと笑った。


 すると。


『ん? ……どうやら、上の二人・・・・が待ちくたびれているようですので、私の話はここまでといたしましょう』

「ま、待ってくれ! 俺には聞きたいことがまだまだあるんだ!」

『ふふ……それは、上の二人・・・・が答えてくれますのでご安心を。それと、『第二門』の守護者も『第一門』で待つとのことですので、そちらは素通りしてよいとのことです』


 それだけ告げると、[知多星]は『機』と記された宝玉へと変わり、[シン]の中へと吸い込まれていってしまった。


「ソ、ソノ……ヨーヘイ、今の話っテ……?」


 ずっと俺達の会話を見守っていたプラーミャがおずおずと尋ねる。

 まあ、そうだよな……訳が分からない、よな……。


「プラーミャ、私達はただ見守っていればいいんだ……だって、ヨーヘイくんなのだからな」

「ア……フフ、そうだったわネ」


 サクヤさんがおどけながらそう言うと、プラーミャも微笑みながら肩を竦めた。


 はは……本当に、俺の大切な人達は……。


「クク……ならば、二人が待つという『第一門』へと行こうではないか!」

「ああ!」


 俺達は、『第三門』を後にして、次の目的地、『第一門』へと向かった。


―――――――――

【お知らせ】

お読みいただき、ありがとうございました!


そしてそして! 明日はいよいよ「ガイスト×レブナント」の発売日です!

早い書店ですと、今日にも発売されているところもございます!

ぜひぜひ、お買い求めくださいますようお願いいたします!

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