第6話 始まりと終わりの遺跡

「よし、次! ……って、お前は一人なのか?」


 順番になり扉の前へと出ると、他のクラスの先生が俺を見て心配そうに尋ねる。


「……はい」

「な、なんだったらうちのクラスに四人の班があるから、そこに入るか?」


 うう、俺を本気で心配してくれている。

 うちのあのクソみたいな担任とは大違いだ。泣きそう。


「だ、大丈夫です! 行ってきます!」

「あ、オ、オイ!」


 俺は勢いよく扉を開け、中へと飛び込んだ。


「おお……! ここが初心者用の領域エリアか……!」


 俺は初めて入る領域エリアに感嘆の声を漏らす。


 この初心者用の領域エリアのタイプは“遺跡”。

 三つの階層で構成されており、一階層当たりの広さも大したことはない。

 出てくる幽鬼レブナントも雑魚(といっても、俺には強敵だが)しかおらず、手に入るアイテムなんかもクズなものばかり。


 ハッキリ言ってこの見学が終われば、一年生の全員が次の領域エリア……一年生にとって必須要件となる、“グラハム塔”領域エリアの攻略に集中して、誰もこの初心者用の領域エリアに来る奴なんていなくなるだろうけど。


 だが、俺達が強くなるためには、初心者用の領域エリアこそが重要なんだ。


 ……この、“始まりと終わりの遺跡”領域エリアが。


「さて……それじゃ、行きますか。[ゴブ美]」


 俺は軽く伸びをした後、[ゴブ美]を召喚して目的の場所……第一階層にある、とある部屋へと向かう。


 この領域エリアのマップは、昨日の夜に全て叩き込んである。

 もちろん、その先・・・も。


 なにせ、領域エリアでは普通のスマホは電波が届かないからなあ。覚えるしかない。

 ガイストリーダーなら領域エリア内であっても使用可能だけど、そこから『まとめサイト』のことが学園にバレても困るしな。


 で、俺と[ゴブ美]は目的の部屋にたどり着いたんだけど……うん、何もないな。


「ここにアレ・・がないと困るんだけど……」


 俺の心に不安がよぎる。

 だけど……なんとしても見つけないと、俺達は前に進めないんだ。


「[ゴブ美]、怪しい場所がないか調べてみてくれ。俺も調べるから」

「……(コクリ)」


 俺と[ゴブ美]は手分けして部屋を調べる。

 あの『まとめサイト』には、アレ・・はこの部屋に出現するとだけしか書いていなかった。


 とにかく、探すしかない。


「アレアレ~? アイツ、こんな部屋で何やってんだ?」

「アレじゃない? あのゴブリンじゃこんなところの幽鬼レブナントも倒せないから、隠れてるんじゃない?」

「「「アハハハハハハハハ!」」」


 クラスメイトの班が俺達を見るなり嘲笑あざわらうが、俺は聞こえないフリをして無視を決め込んだ。

 すると興味を失くしたのか、連中はその場から去って行った。


「ふう……」


 俺は深く息を吐く。

 そうだった。“扉”を見つけても、他の連中にバレないようにしないと……。


「[ゴブ美]、とりあえずはアレ・・を探すのは止めて、部屋の入口で誰か来ないか見張っておいてくれ」

「(コクコク!)」


 [ゴブ美]は部屋の調査を止め、入口に張り付いてキョロキョロと辺りを確認する。


 よし、俺も部屋の調査を再開……って、早速誰かが通りかかるのか、[ゴブ美]が身振り手振りでジェスチャーする。


 部屋の入口からのぞいてみると、加隈、悠木、そして木崎のメインキャラ三人を含めた班だった。


「お! アイツ、こんなところで何やってんだ?」

「……フン、興味ない」


 加隈はまるで遠くを眺めるように額に手をかざし、悠木は相変わらず鼻を鳴らしながら侮蔑するような視線を送ってきた。


 そして、木崎は。


「望月さんは、その……お一人、なんですか?」

「っ!?」


 木崎は俺の元へ駆け寄ってくると、おずおずと上目遣いで尋ねた。

 まさか声を掛けられるとは思わなかった俺は、息を飲む。


「あー、アスカ先生に昨日の罰として、一人で見学させられてんだっけ?」


 加隈も俺の傍に来ると、さして興味もなさそうにしながら問い掛けてきた。


「……時間の無駄だし、二人共早く行くわよ」

「ちょ、冷たくね?」


 悠木の心無い言葉にツッコミを入れるも、同じく興味がないであろう加隈は、悠木の後を追ってこの場を離れていく。

 まあ、そうだろうな。


 なのに。


「その……もしあなたが良ければ、私達の班に入りませんか?」

「「「「はあ!?」」」」


 木崎……さんの言葉に、他の四人が驚きの声を上げた。

 もちろん、拒否する意志を込めて。


「ちょ、何考えてんの!? 同じ班に入れる意味ねーじゃん!」

「……そうね。お荷物が一緒にいたら迷惑なだけよ」

「ですが、さすがに領域エリアを新入生一人でいるなんて、危険ですし……。


 四人は説得するが、納得のいかない木崎さんはそう訴える。


 何だよコレ……木崎セシルって、本当に“聖女”みたいじゃないか……。


「木崎さん、その……俺なら大丈夫だから」

「で、ですが……」


 なおも食い下がろうとする木崎さんに、俺はゆっくりとかぶりを振った。


「ほ、本当だよ。それよりも、その……誘ってくれて、ありがとう……」

「あ……わ、分かりました……ですが、本当に気をつけてくださいね?」


 そう言うと、木崎さんは何度もこちらを振り返りながら離れて行った。


「木崎さん……」


 俺はそんな彼女の背中を、見えなくなるまでずっと眺め続けていた……って。


「そうだった、そんなことよりもアレ・・を見つけないと!」


 俺はかあ、と熱くなる感情をごまかすかのように、慌てて部屋の中へと振り返るが。


「…………………………」


 ……何故か[ゴブ美]の奴が俺をジト目で睨んでいた。


「……何だよ」


 そう言うと、[ゴブ美]はプイ、と顔を背け、見張りもしないで部屋の隅で座りこんでしまった。

 アレ……ひょっとしてヤキモチ焼いてんのか?


「ま、まあまあ、今のは単に、彼女が俺のことを同情しただけだろう?」


 俺は[ゴブ美]によく分からない言葉をかけながら近寄……っ!?


 ――ガコン。


 足を踏み込んだ瞬間、突然床の一部が沈み込んだ。


 そして。


「これが……!」


 俺達の眼の前……つまり、部屋の中央に扉だけ・・・が現れた。

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