第308話 カズラさん

「……そうですか」


 いつもの十字路でサクヤさんと合流し、“GSMOグスモ”の調査結果を聞いた俺はうつむく。


 薄々分かっていたこととはいえ、やはり賀茂の奴は小森先輩以外のヒロインについても色々とやり取りをしていたみたいで、その数は学園の内外合わせて十四人。

 というか、そんなにヒロインばかりを仲間にしてどうすんだよ。


 しかも、その中にはあの“伊藤アスカ”が含まれていたし……。


「……つまり、それだけの人数が賀茂と何らかの関与があるってことかあ……」

「ああ……その上で、今日は“GSMOグスモ”が賀茂と接触した者全員に聞き取りを行う手筈になっている」

「聞き取り、ねえ……」


 多分、“GSMOグスモ”が聞き取りを行ったところで、ヒロイン達はまともに話してはくれないだろう。

 そんな簡単に話せるのなら、最初からアクションを起こしていたはずだから。


「ですが、“GSMOグスモ”が接触することで、変に賀茂の奴に勘繰られたりすることはないんですか?」

「ああ、その点については抜かりない。というのも、接触するのは該当者の友人達・・・・・・・だからな」

「へ……?」


 サクヤさんの説明に、俺は思わず気の抜けた返事をした。


「ふふ……“GSMOグスモ”の職員も、一流の精霊ガイスト使いなのだぞ? しかも、その中には特殊なスキルを持つ者もいる。例えば……【擬態】、とかな」

「あ……!」


 サクヤさんの言葉に、俺はハッ、となる。

 確かに“GSMOグスモ”は、その組織の特殊性から潜入捜査などもするはず。であれば、変装スキルなどを持っている職員がいてもおかしくない。


「それで……どうする?」


 サクヤさんが俺の顔を覗き込みながら尋ねる。


「……ちょっと別件で調べていることもあるので、そちらの情報と合わせてってことになりますけど、多分、賀茂を潰すことになるかと」


 いや、多分じゃなくて絶対・・、だな。

 氷室先輩の解析結果を聞いてからとはいえ、ヒロインだけを……それも十四人もかかわりがあるなんてあり得ない。

 絶対に、何か弱みを握られ……って。


「あ、そういえばサクヤさん。あの伊藤アスカ先生なんですけど、クラス代表選考会の後、例の施設に入っていたりします?」

「む? ああ……そういえば、彼女は“GSMOグスモ”に連行されて施設に入ったきりだったな」

「そうですか……」


 ……なら、他のヒロインは何も言わないかもだけど、伊藤アスカなら話してくれるかもしれないな。


「サクヤさん、あの施設って、仮に強力な精霊ガイスト使いが襲撃したとして、制圧できたりしますか?」

「何を言い出すかと思えば……あの施設には何人もの“GSMOグスモ”の職員がいるばかりか、対精霊ガイスト使いのセキュリティが何重にも施されている。中条のように特別な精霊ガイスト使いでもない限り、そんなことは不可能だ」


 そう説明すると、サクヤさんが肩を竦めた。

 だけど、これは伊藤アスカと交渉する上で、大きな交渉材料になりそうだ。


「よっし!」


 俺は気合いを入れるため、パシン、と両頬を叩く。


「サクヤさん。今日の放課後、俺達のチームは予定変更です。施設に収容されている伊藤アスカに会いに行きましょう」

「分かった。なら私は、お父……学園長に面会の申請と、カナエさんに連絡して車を手配しておこう」

「ありがとうございます」


 さて……伊藤アスカは、何を語ってくれるかな……。


 ◇


「……ということで、これが[ポリアフ]の解析に引っ掛かった人達です」


 昼休みになり、俺と氷室先輩はみんなを先に食堂に行かせ、廊下の陰で話をしていた。

 もちろん、昨日お願いしたヒロインの解析結果についての報告を受けるために。


「はは……ものの見事に、“GSMOグスモ”の調査結果と一致してやがる……」


 氷室先輩の[ポリアフ]の解析に引っ掛かったヒロインの数は九人。

 “GSMOグスモ”の調査結果で判明した、賀茂と接触のあったヒロイン十四人のうち、伊藤アスカを除くアレイスター学園の関係者も九人だ。


「……これだけの数の生徒を引き入れているなんて、少々厄介ですね……」

「ええ……サ……先輩の話では、今日中に“GSMOグスモ”が賀茂と接触した生徒達全員に聞き取りを行うとのことです」

「ですが、それってまずくないでしょうか……」


 俺の話を聞いた氷室先輩は、口元を押さえながらポツリ、と告げた。


「というと?」

「よく考えてみてください。“GSMOグスモ”から一斉にその生徒達に接触したとなると、例の賀茂カズマが変に行動に移す危険がある、ということです」

「ああ、それについては、変装や擬態ができるスキルを持つ“GSMOグスモ”職員が、生徒の友人などに扮して接触するらしいです」

「なるほど……」


 俺の説明に、氷室先輩が納得するように頷いた。


「その上で、今日の放課後に伊藤アスカ先生と面談しようと思うんですが……氷室先ぱ……「“カズラ”です」……カズラさんも、一緒に行きませんか?」


 くそう、キッチリ名前呼びを強要してくる。


「そうですね……ですが、私もご一緒してもよろしいのですか?」


 ん? 名前呼びは強要するのに、同行に関しては遠慮がちって何か変だな……。


「ええと……どうしてですか?」

「事情を知る者が最低でも一人、賀茂カズマの近くにいたほうがいいかと。何かあった場合、すぐに対処することもできますし、場合によっては……」


 すると、氷室先輩が俺のすぐ傍に寄って耳打ちする……って!?


「カ、カズラさん!?」

「ふふ……大丈夫、ですよ?」


 ス、と離れると、氷室先輩がニタア、と嗤った。


「……絶対に、無茶しないでくださいね? カズラさんだって、俺の大切な人・・・・なんですから……」

「はい……その言葉だけで充分です」


 氷室先輩……カズラさん・・・・・は、キュ、と胸の前で手を握った。

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