第307話 二人の相談
「そ、そういえば二人の相談事っていうのは、何なんです!?」
俺はこの修羅場な状況をなんとかしようと、そんなことを尋ねて話題を逸らそうと試みる。
「大体……うん? 相談……」
「ア、そういえバ……」
どうやら二人共そのことを失念していたらしく、思考がそちらのほうへと切り替わったみたいだ。よ、よかった……。
「そ、その……私の相談というのは、ホ、ホラ! もうすぐクリスマスだろう? 今年はせっかくだから、うちの家でパーティーでもしてはどうかと、思ってな……」
そうか! 期末テストも終わったし、もうすぐ冬休みだもんな!
「いいですね! じゃあみんなで、盛大にクリスマスパーティーをしましょう!」
「う、うむ! ヨーヘイくんならそう言ってくれると思ったよ!」
俺が二つ返事でその話に乗ると、サクヤさんが嬉しそうにしながら身を乗り出した。
「フフ……ルーシでは十二月三十一日がクリスマスみたいなものですけド、たまにはポピュラーなクリスマスもいいですわネ」
「へえー、ルーシじゃ十二月二十四日じゃないんだな」
「エエ。元々は一月七日なんですけド、新年のお祝いとクリスマスを一緒にお祝いしてしまいますのヨ」
そう言うと、サンドラがクスリ、と微笑む。
「そっかー……じゃあサンドラは、コッチでクリスマスをしてから実家でもクリスマスするんだなー」
「ア……実は、そのことで相談ガ……」
え? サンドラの相談も、サクヤさんと同じでクリスマスの話なの?
「……ワタクシ、冬休みは東方国で過ごそうと思ってますノ……」
「そうなの?」
いや、意外だな……俺はてっきり、冬休みはルーシに帰省するもんだと思ってたけど……。
「ふむ……となると、サンドラの相談の内容とは?」
「ソ、ソノ……プラーミャは多分、冬休みはルーシで過ごすと思いますシ、そそ、そうなると、ワタクシは新年を一人っきりで過ごすことになっテ……」
ああ……そういうことか……。
「よし! だったら、年末年始も一緒に遊ぼうぜ! というか、うちの家のおせち料理をサンドラに食わせてやるよ!」
「ッ! ほ、本当ですノ!」
「おう!」
そう言うと、ぱああ、と笑顔を見せるサンドラに向けてサムズアップした。
まあ、おせち料理なんて毎年食いきれないほどだし、少食のサンドラが一人増えたところでなんら問題は……「むむむむむ! だ、だったら私も、今年のお正月はヨーヘイくんの家で過ごすぞ!」……って、サクヤさん!?
「い、いや、そりゃ俺としてはサクヤさんとも一緒に正月を過ごせると嬉しいですけど……」
俺はフンス、と鼻息荒く気合いを入れているサクヤさんの顔を覗き込むと。
「だ、大丈夫だ! お正月は毎年、私とカナエさんの二人で過ごしているからな!」
何故か自信満々にそう告げるサクヤさん。
だけど……そんなのって、悲しすぎるじゃないですか……。
俺はすう、と息を吸って二人を見やる。
「……分かりました。というか、サクヤさんもサンドラも、今年の正月は俺の家で過ごす! これは決定事項だからな! 拒否は認めない!」
「っ! わ、分かったとも!」
「エエ! きょ、強制ですものネ!」
俺の言葉に、二人が満面の笑みで応えた。
『はうはうはう! なんだか楽しそうなのです! [シン]も全力で楽しむのです!』
「はは! 当然! [シン]にも特別なアイスを用意しといてやるからな!」
『わあい! なのです!』
はは……こうなりゃ、今度のクリスマスも正月も、全力で楽しまないとな!
俺は、喜ぶ三人の表情を眺めながら、口元をゆるっゆるにしていた。
◇
「くあ……!」
次の日の朝。
俺はベッドから出ると、カーテンを開けてあくびをした。
『すぴー……すぴー……』
「はは……相変わらず、気持ちよさそうに寝やがって」
ベッドの上で幸せそうに寝息を立てる[シン]を見て苦笑する。
とはいえ、起こしてやるつもりはさらさらない。いい加減、ちゃんと自分で起きる習慣を身につけさせないと……って、俺は[シン]のオカンかよ……。
軽く溜息を吐いた俺は、制服に着替えてリビングに降りると。
「あらあら、ヨーヘイおはよう」
「おはよー」
キッチンに立つ母さんと挨拶を交わし、定位置に座る。
「ほほう、今日は昨日のカレーか」
まあ、カレーをした次の日の定番だよな。
それに、カレーに関しては二日目が美味い。これも常識だ。
「いただきます」
俺は手を合わせてからスプーンを取り、勢いよく口の中へかき込む。
うむ! やっぱり二日目のカレーは上手い!
「あらあら、そんなに慌てて食べたら喉を詰めるわよ?」
「モグモグ……大丈夫だって!」
俺は根拠のないサムズアップをすると、一気に平らげた。
「ごちそうさま!」
「うふふ、昨日より美味しそうに食べたわね」
「そりゃあ、二日目のカレーは別格だからな!」
うむうむ、このテンプレだけは絶対に譲れ……『はうはうはうはう! 寝坊なのです! 遅刻なのです!』……ああ、朝のコレもテンプレだよなあ……。
『はうはう! お母様、おはようございますなのです!』
「あらあら、[シン]ちゃんおはよう」
[シン]は敬礼ポーズで挨拶をすると、母さんが微笑みながら挨拶を返した。
『そして……はうはうはうはう! どうして起こしてくれないのですか! そのせいで、[シン]がだらしないみたいなのです! イメージダウン必至なのです!』
「いや、だらしないのは間違いないだろ。というか、スマホのアラームがあんなに鳴ってるのに、よくそのまま寝られるよな」
猛抗議しながらポカポカと叩く[シン]を、俺はジト目で見やる。
『はうううう! ヒドイのです! ヒドイのです!』
「ハイハイ、あんまり時間ないから早く支度しろよ」
それだけ言い残すと、俺は洗面所へと向かう。
歯を磨き、顔を洗って……と。
「よっし!」
気合いを入れるため、俺はパシン、と両頬を叩く。
「おーい[シン]、そろそろ行くぞー」
『はうはう! 今行くのです!』
[シン]はバタバタとリビングから出てくると、今度は洗面所へ向かった。
そして。
『はう! お待たせなのです!』
「おう、んじゃ……」
『「行ってきます!」』
「うふふ……いってらっしゃい」
母さんに見送られ、俺と[シン]は家を出た。
……今日は、サクヤさんからは“
その結果……賀茂を無視するのか、それとも全力で潰すのかが決まる。
「賀茂……!」
俺は、手のひらを拳でパシン、と叩いた。
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