第369話 バベル領域、踏破 後編

「ここで最後……だな」


 俺達が“バベル”領域エリアの第三百階層へと足を踏み入れると、今までの迷宮のように入り組んだものではなく、ただ一つのフロアが眼前に広がっていた。


「あ! あれ!」


 アオイが指差した先……そこに、二つの石棺せきかんが鎮座されていた。

 あの中に……ここの領域エリアボスが……。


 俺達はその石棺へおそるおそる近づいていくと。


 ――ズズ……。


「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」


 石棺の蓋がゆっくりと開き、中からむくり、と起き上がる幽鬼レブナント


「みんな! 来るぞ!」


 俺はそう号令をかけると、みんなが精霊ガイストを召喚する。


 そして……石棺から姿を現わした領域エリアボス、ユリウス・カエサルとクレオパトラは、ギロリ、とこちらを睨むと。


 ――タッ!


 ユリウス・カエサルがショートソードとバックラーを構え、一気に俺達へと突撃してくる。


「みなさん、後ろヘ! 【ガーディアン】!」


 サンドラの[ペルーン]がいくつも盾を展開し、ユリウス・カエサルの接近を拒む。


「ホホ! 今のうちに拘束してしまおうかの!」


 そう言うと、土御門さんの[吉備真備きびのまきび]が紙片をばらまき、【式神使】を大量に生み出した。

 そして、盾を避けてこちらへと来ようとするユリウス・カエサルに、【式神使】達がまとわりついていく。


『ッ!』


 ユリウス・カエサルは、ショートソードで【式神使】を切り刻んでいくが、ここは多勢に無勢。あっという間に取りつかれてしまい、その身体を床に押し付けられてしまった。


 その時。


「あれは!?」


 クレオパトラが放つ上級邪属性魔法、【スクリーム・オブ・ゴースト】が、【式神使】の中に入り込んだ瞬間、【式神使】は次々とただの紙片・・・・・に戻っていく。

 ……なるほど、スキルでしかない【式神使】には、即死系の魔法も通用しちまうってことか……。


「ならば! [関聖帝君]!」

「クク……! [デウス・エクス・マキナ]!」

「[シン]! お前も行け!」

『ハイなのです!』


 それを見て、【状態異常無効】のスキルを持つ三体の精霊ガイストが、一斉に領域エリアボスに襲い掛かる。


「おおおおおおおおおおおおおおッッッ!」


 [関聖帝君]がユリウス・カエサルに青龍偃月刀を振り下ろす。

 だが、ユリウス・カエサルはバックラーでその巨大な刃を受け流してしまった。


「ふっ!」


 それでも、[関聖帝君]は息を吐くと同時に刀を返し、ユリウス・カエサルの左腕を斬り飛ばした。


 その直後。


「アアアアアアアッッッ! 【ブラヴァー】ッッッ!」

「ファイア」


 俺達の後ろから、[スヴァローグ]の炎をまとったハルバートと、[ポリアフ]の弾丸がクレオパトラへと射出された。


「クク……【クロノス】」

『ッ!?』


 中条がそう告げた瞬間、ハルバードと弾丸がいつの間にかクレオパトラの目と鼻の先に現れると。


『アアアアアアアアアアアッッッ!?』


 かわす間もなくその攻撃全てが命中し、クレオパトラはもんどり打って倒れた。


『はう! トドメなのです! 【爆】! 【裂】!』


 [シン]の貼り付けた大量の呪符により、クレオパトラは身体中が爆発し、ズタズタに引き裂かれ、その姿を幽子とマテリアルへと変えた。


「これで! 終わりだよ! 【竜の息吹】ッッッ!」


 [関聖帝君]が身を引いた瞬間、その後ろで大きく口を開けた[伏犠ふっき]が、ユリウス・カエサル目がけて【竜の息吹】を放つと、その姿は消滅し、残ったのは幽子とマテリアルだけだった。


「よし! やったぞ!」

「うむ!」

「エエ!」


 俺は拳を高々と突き上げ、勝利宣言をした。

 だけど……はは、終わってみれば一切危なげもなく、余裕で完勝したな。


「ふふ……私達は強くなった、な」


 サクヤさんはニコリ、と微笑みながら、俺の肩をポン、と叩いた。


「サクヤさん……はい!」

「フフ、ヨーヘイは分かってますノ? ワタクシ達の強さは、全部アナタがくれたんですのヨ?」


 そう言って、クスクスと笑うサンドラ。


「はは……違うよ。みんなは最初からこれくらいの力は持ち合わせていたんだ。俺はただ、そのきっかけを与えたに過ぎない。それよりも」


 俺は[シン]を見やると、何かを悟った[シン]はこちらへとやって来た。


「俺と[シン]……[ゴブ美]の強さは、サクヤさんが、サンドラが、プラーミャが、カズラさんが、アオイが、土御門さんが、中条が、加隈が……みんながくれたものなんだ。俺達は、本当に感謝しかないよ」

『はう! マスターの言葉ももっともですけど、マスター自身がいつも一生懸命だからなのです! いつも誰かのために戦ってきたからなのです! 本当に、マスターの謙遜にも困りものなのです!』

「[シン]!?」


 何だよ!? せっかくいい感じに締めようと思ったのに!?


「ハハハハハ! [シン]の言う通りだな!」

「フフフ! エエ!」

「二人まで……」


 豪快に笑うサクヤさんとサンドラを、俺は思わずジト目で睨んでしまった……って。


「おっと、それよりも早くスキルを取得しましょう!」

「うむ! そうだな!」

「フフ、今度はどんなスキルかしらネ」


 みんなで二つの石棺の元へと向かうと、中には水晶の玉がそれぞれ入っていた。


 そして、精霊ガイストがそれに触れると……。


「フフ……【聖属性反射】を手に入れましたワ!」

「こちらは【邪属性反射】、ですね」


 みんなが二つの属性反射スキルを手に入れて、顔を綻ばせる。


 さて……その間に。


 そんな中、俺は[シン]と共に静かに下の階層へと下り、第二百九十九階層の一番奥の行き止まりへと向かうと……案の定、木箱が二つ置かれていた。


「さあ……いよいよ蓋を開け……「何をしてるノ?」……ああ、クリア報酬のアイテムを……っ!?」


 俺は慌てて後ろを振り返ると。


「全ク……コソコソしてると思ったラ……」


 声の主は、プラーミャだった。

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