第45話 起死回生
「アハ……アハハア……ッ! いいザマねッッ!」
俺は顔を上げて後ろへと振り返ると、苦痛で顔を歪ませながらも、無理やり口の端を吊り上げて
というか……なんでコイツ、動けるんだよ。[シン]の呪符で身動きが取れないはずなのに……って!?
見ると、悠木の背中からシュウシュウ、と湯気のようなものが立ち昇っている。
まさかっ!?
「オ、オマエ……自分の背中に【アシッドレイン】を……っ!?」
「ア……ハハ……そうよ! アンタ達をズタボロに痛めつけるためにねえっ!」
「ヨーヘイ!? 大丈夫なノ……ッ!?」
サンドラは立ち上がると俺の元へ慌てて駆け寄ってきた。
そして、俺の背中を見た途端、目を見開いて思わず口元を押さえた。
はは……こりゃ、相当ヒドイみたいだな……。
「オマエエエエエエッッッ!」
「待て! サンドラ!」
悠木に飛び掛かろうとしたサンドラを、俺はその腕をつかんで制止した。
「ッ! ヨーヘイ離しなさイ!」
「……言いたくないけど、アイツの
「ナニヨ! それって、ワタクシが負けるって言いたいんですノ!」
納得のできないサンドラは、俺の襟首をつかんで詰め寄る。
だけど。
「ああ……お前じゃ、勝てない」
「ッ!」
俺はサンドラにハッキリと告げた。
実際、[イヴァン]の最大の必殺技である【裁きの鉄槌】を[クヴァシル]にブチ当てるには、その
一方の[クヴァシル]は【水属性魔法】を駆使する術者タイプだ。それに、アイツには最大のスキルである【暴食の
そんなモン食らっちまったら……サンドラは、あっという間に骨になっちまう……。
「なあ……オマエは、何でこんな真似、したんだ……? 俺は、ここまでオマエに恨まれるほど、何か、したのか……?」
なおも納得がいかず飛び掛かりそうな勢いのサンドラはとりあえず無視し、痛みに耐えながら俺は悠木に問いかける。
その自分の身体を犠牲にしてまでこんな真似をするアイツが、どうしても理解できなかったから。
「アハハ……ハハ……! 決まってるっ! オマエが憎いからよ! オマエの存在そのものが、目障りなのッ! そして……そして、全て
「「っ!?」」
狂気に満ちた瞳で俺を見ながら
だけど……このままこうしていてもジリ貧だ……。
「……おい」
「ンナッ!?」
俺はサンドラの身体を無理やり胸元に引き寄せ、耳打ちする。
「……今から俺は、お前を思いっきり突き飛ばす」
「ッ!? ど、どういうこト!?」
「シッ! ……いいから聞け。アソコに、[シン]が倒れているな?」
「エ、エエ……」
「あいつは……[シン]は、防御と俊敏さに関しては最強の
「そ、それがどうしたノ……?」
「ああ……つまり……」
俺は詳細についてサンドラに告げると。
「ッ! ……仕方、ないですわネ……」
彼女は、少し寂しそうな、悔しそうな表情を浮かべた。
だが……今の俺には、これしか思いつかなかった。
チラリ、と俺は[シン]を見やる。
[シン]は、その痛みに必死で耐え、冷や汗を流しながら唇を噛んでいた。
[シン]……悪い、ちょっと無理させちまうぞ……。
「サンドラ! だからお前じゃ無理だ! 大人しくしてろ!」
「何ですっテ! そういうヨーヘイこそ、怪我してるんだから大人しくしてるのですワ!」
「アハハハハ……! アンタ達、こんな状況で仲間割れだなんて、バカ?」
大声で
はは……というか、ここまで執念深いのに、なんでこんなに
まあ……好都合、だけどな……っ!
――ドンッ!
「キャッ!?」
俺に突き飛ばされ、サンドラが倒れた。
「フン! やっぱりお前、最悪だよ!」
「それはコッチの
「シッシッ!」
俺は手をヒラヒラさせ、追い払うような仕草をする。
そんな俺を一瞥してサンドラはプイ、と顔を背けて立ち上がり、そのままこの階層から立ち去ろうとすると。
「アハアアア……! 私がアンタをこのまま帰すと思っているの?」
ニタア、と三日月のように口の端を吊り上げると、[クヴァシル]が右手に持つ杯をサンドラに向けてかざした。
マズイッ!? あれは【暴食の
「アハハハハハハ! ……死になさい。【暴食の……「アナタがネ」……何ですって!?」
サンドラはニヤリ、と口の端を持ち上げたかと思うと。
「[イヴァン]!」
『(ブンブン!)』
サンドラの声と共に、[イヴァン]が
「くっ!? この……っ!」
俺と同様、【アシッドレイン】によってその背中がただれてしまっている悠木は、その
で、当然それをサンドラが見逃すはずがない。というか、キッチリ狙ってやってるんだけどな。
「ヨーヘイ! 行きますわヨ!」
『はうはうはうはうはうはうううううう!?』
[イヴァン]に高々と放り投げられ、[シン]は背中の痛みも忘れてわたわたしながら飛んできた。
さっき俺がサンドラを引き寄せた時、耳打ちした言葉。
『ああ……つまり、言い争いをするフリをして[シン]のいる方向にお前を突き飛ばすから、[イヴァン]のパワーで俺のところまで[シン]を投げ飛ばして欲しいんだ。その後は……お前は通路の陰に隠れていてくれ。さすがにお前まで、一緒には守り切れそうにない……』
とはいえ、まさかその前に
そして。
「[シン]!」
『はう! マスター!』
俺は[シン]を受け止める。
「大丈夫か?」
『マスター……大丈夫なのです!』
[シン]がにぱー、と嬉しそうに笑顔を見せる。
嘘吐け……無理やり笑顔作って、汗出てんぞ……。
『あ……マスター……』
俺は[シン]の頭を優しく撫でてやると。
「[シン]……アイツ、倒すぞ!」
『っ! ハイなのです!』
俺達は、忌々し気にこちらを睨む悠木を見据えた。
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