第382話 地煞星⑤
「クク……【カイロス】」
中条がくつくつと笑いながらそう告げた瞬間、俺の身体にまとわりついていた大蛇の影は、一瞬にして消え去った。
『……どういうこと?』
「クク……貴様、何かしたのか?」
あの[神機軍師]の影でできた大蛇は、中条の[デウス・エクス・マキナ]による【カイロス】によって一瞬で時を戻されてしまったことで消えてしまった。
全く……本当に俺の親友は、どこまでも頼もしい奴だな。
「[シン]! コッチは心配するな! お前は、その[神機軍師]に集中するんだ!」
『! ハイなのです!』
俺は拳を突き出して激励すると、[シン]は安堵の表情を浮かべた後、視線を[神機軍師]へと戻して力強く頷いた。
「……後は、[シン]を見守ろう」
「マ、アナタの
「クク……その間、貴様はこの我が守ろう」
「サクヤさん……プラーミャ……中条……」
優しく見つめる三人に、俺の胸が熱くなる。
「……ああ!」
俺は頷き、[シン]を見つめた。
『……[神行太保]のマスター、本当に目障り』
『はう! 目障りなのはオマエなのです! よくも[シン]のマスターにやってくれたのです!』
『……はう、[神行太保]に嫌われた……』
そう言って、シュン、と落ち込んで俯く[神機軍師]。
だけど。
『……これも全部、あの男のせい。こうなったら……絶対にコロス! コロスコロスコロス! 【鶴翼】、【
またも[神機軍師]は巨大な鶴の影と無数の鳥……あれは、
それらが一斉に俺目がけて襲ってきやがるだと!?
「やらせるかッッッ! [関聖帝君]!」
『(コクリ!)』
[関聖帝君]が俺の前に立ち、その青龍
「ふっ!」
――斬ッッッ!
真っ二つになった巨大の鶴の影に、さらに返す刀で横薙ぎにすると、影はその姿を消した。
『フフ……燃やし尽くしてあげル! 【ブラヴァー】!』
[スヴァローグ]が投てきの体勢を取り、その巨大なハルバードに炎をまとわせる。
「アアアアアアアアアアアアッッッ!」
プラーミャの叫びと共にハルバードが雁の群れへと放たれ、炎が渦となって全ての影を巻き込んだ。
「フン!」
腰に手を当て、鼻を鳴らすプラーミャ。
というかサクヤさんもプラーミャも、
『一度ならず二度までも! [シン]は絶対に許さないのです! 【神行法・瞬】!』
『……っ!?』
[シン]は一瞬にして[神機軍師]の背後に回ると、その背中に大量の呪符を貼り付けた。
『【爆】! 【雷】!』
『……ああああああああああああッッッ!?』
すさまじい電撃に襲われながら、[神機軍師]が吹き飛……っ!?
『い、石の人形なのです!?』
『……悲しい』
よよよ、と袖で涙を拭く真似をして、石の人形の陰から[神機軍師]が姿を現した。
『……少し、お仕置きが必要』
『っ!?』
[神機軍師]の雰囲気が変わり、[シン]は思わず飛び退いた。
『……【石兵八陣】』
『な、何なのです!?』
突然、[シン]を中心にして囲むように巨大な石兵が八方向に舞台の上に出現した。
「こ、これは……!」
その異様な光景に、俺はゴクリ、と息を飲む。
あの『攻略サイト』によれば、これこそが
あの石兵の結界によって起きる五つの属性によるすさまじい攻撃が、今まさに[シン]に襲い掛かろうとしていた。
「[シン]……!」
気づけば俺は拳を思いきり握りしめ、ただ[シン]を見守っていた。
ここを……ここを乗り越えれば、[シン]は強くなれるんだ……だから……だから……っ!
「っ!」
「ヨ、ヨーヘイくん!?」
「ヨーヘイ!?」
なのに……気づけば、俺は飛び出していた。
舞台の上で困惑している、[シン]の元へと。
『……泣いて謝ったら許してあげる。
『っ!? け、【堅】!』
すぐに[シン]は呪符を展開して防御結界を張る。
そこへ、業火、激流、暴風、氷結、
『クッ……! ま、まだまだ……なのです……っ!?』
結界をすり抜けて、[シン]の背中へ炎が迫る。
だけど。
「ぐああああああああああッッッ!?」
『っ!? マ、マスター!?』
は、はは……なんとか、間に合ったみたいだな……。
『ど、どうして!? どうして来たのですか!?』
「はは……お、俺も、最後まで見届けようって思ってたのに、シ、[シン]が酷い目に遭うと思ったら、気がついたら飛び出してたよ……」
この“梁山泊”
だからこそ、俺は[シン]の代わりにダメージを肩代わり、できた……わけ、で……。
『マスター……マスタアア……っ』
「そ、そんな顔するな。それより……この【石兵八陣】にも、弱点がある……」
そう言うと、俺は八体の石兵のうち、ひび割れた一体を指差した。
『あれは……』
「そう……この【石兵八陣】、一体だけが不完全なんだ……」
といっても、それはあくまでもこの試練限定で、[シン]がその力を得れば弱点はなくなるけどな……。というか、これ自体が[神機軍師]が課した試練なんだから当然だ。
『分かったのです……すぐに……すぐに終わらせるのですッッッ! 【神行法・瞬】!』
[シン]は一瞬にしてひび割れた石兵の背後につくと。
『食らえなのです! 【裂】!』
呪符によって、石兵のひび割れた部分がさらに広がり、粉々に砕けたかと思うとついさっきまでの炎や風、その他諸々が一瞬にして消え去った。
そして。
『オマエだけは……オマエだけは、絶対に許さないのですッッッ!』
「ああ……同感だな」
「燃やし尽くしてやルッッッ!」
「クク……消えろ」
いつの間にか、[シン]が呪符を貼り付け、[関聖帝君]と[スヴァローグ]が切っ先を喉笛に突きつけ、そして[デウス・エクス・マキナ]が無数の金属の歯車を[神機軍師]の目と鼻の先で静止していた。
『……ふう、これは[神行太保]だけの戦いではなかったの?』
「最初にそれを破ったのは貴様だ。なら、ここで幽子となっても文句は言えまい」
「幽子にするだけで済ますつもりもないけド」
「クク……同感だ」
『[シン]は……オマエなんかを姉だなんて認めない。オマエなんていらない。マスターを傷つけた、オマエなんて』
『…………………………』
最後の[シン]の言葉がトドメとなったのか、[神機軍師]はその涙を
『……合格』
その言葉を聞いた瞬間、俺の背中の傷が……痛みが消えた!?
「こ、これは一体……」
『……さっきの石兵八陣は、試すために私が作った幻術。[神行太保]と、その主との絆を試すための』
「絆を……試す……?」
俺の呟きに、[神機軍師]がコクリ、と頷いた。
『……私の大切な妹を、託すに足るかどうか。自分のためだけに妹を使役するクズなのか、それとも、妹のために傷つくこともいとわない高潔な主なのかを。そして、あなたになら妹を任せられる』
「…………………………」
はは……全部、コイツの掌の上かよ……。
さすがは百七の
『……[神行太保]、あなたは本当に良い主に巡り合えた。大切にしなさい』
『はう……ね、
『っ! ……ふふ、これからいつも一緒』
[神機軍師]は『魁』と記された宝珠になると、[シン]の身体の中へと入って行った。
「さあ……[シン]これで
『はう
「あとは……残り、三十五人!」
『はう!』
俺は[シン]の手を取ると、次の
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