第63話 闇堕ちプラーミャ

ヤーワタシガ……ヤーワタシダケガ、サンドラヲオオオオオオオッッッ!』


 プラーミャの絶叫と共に幽子の渦が少しずつ晴れていき、その姿を現す。


 それは、闇に堕ちたプラーミャと、巨大な鉄槌を持った美しいエルフの女性の姿をした幽鬼レブナント…… “ヴェルンド”だった。


「な、なんでプラーミャが……闇堕ち、を……?」


 俺は白目を黒く反転させ、その白い素肌に紋様を浮かび上がらせたプラーミャを凝視したまま、ポツリ、と呟く。


 そもそも、闇堕ちするのはサンドラで、『ガイスト×レブナント』におけるプラーミャは名前だけの存在のはず! なのに、なんで闇堕ちなんかしてんだよ!?

 しかも、“ヴェルンド”……アレイスター学園の地下に眠るアイツ・・・を守護する九つの柱の一柱、 “アルフヘイム”の守護者だろ!? そんなモンが、なんで二周目にしか出現しないこの“アルカトラズ”領域エリアに!?


「一体何がどうなってんだよ!?」

「も、望月くん!?」


 思わず叫んだ俺に向かって、桐崎先輩が驚きながら呼び掛ける。

 でも、俺はそんな先輩に返事をする余裕すらなかった。


 その時。


『アハハハハ! 邪魔者ハ消エチャイナサイ!』


 プラーミャの[イリヤー]が、俺目がけて炎をまとった短槍をぶん投げてきた。


「っ!? 望月くんっ!」


 先輩が俺の服をつかみ、思い切り引っ張ると、俺が元居た場所に短槍が突き刺さった。


「望月くん! しっかりしろっ!」

「あ、せ、先輩……」


 そうだった、今は呆けている場合じゃない。

 今すべきは、あのプラーミャを闇堕ちから救い、目の前のヴェルンドを倒さないと!


「すいません、先輩! もう大丈夫です!」

「う、うむ! なら……プラーミャを救うぞ!」

「はい!」


 だけど、プラーミャを救うべきなのは俺や先輩じゃない。

 俺は隣にいるサンドラを見やると。


「プ……プラーミャ……ナンデ……?」


 彼女は、変わり果てたプラーミャの姿に、ただショックを受けていた。


「サンドラ!」

「ア……ヨ、ヨーヘイ……プラーミャが……プラーミャがア……!」


 俺は膝から崩れ落ちそうになるサンドラの元へ駆け寄り、その身体を支えてやると、サンドラは困惑しきった表情で、縋るように俺を見つめた。


「ああ……分かってる……」


 とはいえ、どうやってプラーミャを救う? 『まとめサイト』では、基本的にイベント進行のみで勝手に戦闘に突入するだけだし……って。


 いや、まてよ?


 確か、その時に戦うのは“柱”の幽鬼レブナントだけだったよな?

 んで、幽鬼レブナントを倒した後のイベントパートで主人公が選択肢を選んでキャラを諭し、正解することで闇堕ちから抜け出たはず。


 なら……!


「プラーミャ! なんでこんな真似をするんだ! オマエに一体何があるっていうんだよ! というか、俺に何の恨みがあるんだよ!」


 俺はわざと・・・訴えかけるようにプラーミャに問いかける。

 プラーミャの闇堕ち解除の条件を見出すために。


『アハハハハ! 決マッテル! オマエガヤーワタシノサンドラヲ奪ウカラヨ! サンドラハコノヤーワタシノモノナノ! サンドラハ、ヤーワタシガイナイト何モデキナイノヨ!』

「プラーミャ!?」

『“出来損ナイ”ノサンドラハ! コノヤーワタシガ守ッテアゲルノ! ズット! 永遠ニ!』


 何だよ……結局のところ、プラーミャの過保護が原因ってことかよ。

 オマケに、実の姉のこと見下し過ぎじゃないか? ……って、認めたくないんだろうな。今まで自分より下だったサンドラが、ここまで成長してしまったことを。


 よし……だったら。


「サンドラ……いいか、よく聞け。これから俺達は、プラーミャを闇堕ちさせやがったあの幽鬼レブナントを倒す。お前は……プラーミャを倒せ」

「ッ!? プラーミャをですノ!? プラーミャを……このワタクシの手で傷つけろって言うんですノ!?」


 俺はサンドラを抱き寄せてそう耳打ちすると、サンドラは目を見開き、俺の胸倉につかみかかった。


「ナンデ……ナンデそんなヒドイことを言うんですノ! プラーミャはあの幽鬼レブナントに操られてるだけなんですのヨ! ナラ!」

「それじゃ解決にならねえんだよ! 確かにプラーミャはあの幽鬼レブナントに操られてる! だけど、それはアイツが心の中に闇を抱えているからだ!」

「ッ!?」


 俺はサンドラの両肩を持ち、アクアマリンの瞳を見つめて訴える。

 そうだ。『まとめサイト』にもある通り、闇堕ちした奴は全員その闇を晴らして初めてイベントクリアなんだ。

 この場合……闇堕ちの原因であるサンドラが、あのプラーミャを納得させなきゃいけないんだ。


「……今のプラーミャの話を聞いただろう。アイツは、強くなったお前を認められないんだ、認めたくないんだよ。だったら……お前は、強くなった自分をアイツに直接見せつけてやらなきゃいけないんだよ! もう、プラーミャの助けがいらないくらい、強くなったってことを!」

「ッ!」


 俺の言葉に、サンドラがハッとなる。


「なあに、プラーミャを倒すっていっても、結局のところはただの姉妹ゲンカだろ? だったら、何も遠慮する必要はないんじゃないのか?」

「…………………………プッ」


 俺はおどけながらそう言うと、しばらくの沈黙の後、思わず吹き出した。


「フフ……精霊ガイスト同士の本気の戦いを姉妹ゲンカ・・・・・って、バカなんじゃないですノ?」

「うるせー」


 クスクスと笑うサンドラに、俺は悪態をく。


「デスガ……エエ、分かりましたワ! だったら、このワタクシがプラーミャに分からせてさしあげますワ! もう、以前のワタクシじゃないってことヲ!」

「だな! んで、アッチは俺と先輩に任せろ!」


 そう言って俺は先輩を見ると、先輩は口の端を持ち上げて頷いた。


「それじゃ……行ってこい! んで、あのバカ妹を分からせてこい!」

「エエ!」


 俺とサンドラはコツン、と拳を合わせると、サンドラはプラーミャへ、俺はヴェルンドへと向かって行った。

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