第64話 アルフヘイムの守護者
サンドラと離れ、俺はヴェルンドと対峙している桐崎先輩の元に駆け寄り、その隣に立った。
「さて……先輩、お待たせしました」
「ふふ、構わんよ。それにしても……君はつくづく……」
「つくづく……何ですか?」
「さて、何だろうな?」
クスクスと笑う先輩に、俺は思わずキョトンとしてしまう。
俺、何か変なこと言ったっけ?
「まあいい。それよりも……そろそろあの
「はい! ……といっても、アッサリ終わりそうですけどね」
そう返事すると、先輩は少し怪訝な表情を浮かべた。
「む、望月くん。相手は未知の
「はは、確かに……ですが、先輩と一緒に戦うんです。むしろ、どんな相手でも負ける気はしませんが」
「あう!? そそ、そうか……うん、そうだな……!」
まあ、本当は相手のレベル的に役不足なだけなんだけど、ね。
「では……参る!」
「はいっ! [シン]!」
『ハイなのです!』
先輩の合図を皮切りに、[シン]と[関聖帝君]がヴェルンドへと突っ込む。
当然[シン]のほうが圧倒的に速いので、[関聖帝君]がヴェルンドとの距離を半分も縮めないうちにヴェルンドの懐に飛び込んだ。
『食らうのです! 【縛】! 【爆】!』
『ッ!?』
[シン]はすかさず二枚の呪符をヴェルンドの胸の辺りに貼り付けると、ヴェルンドはその動きを封じられると共に、もう一枚の呪符が爆発した。
「ふッッッ!」
そして、呪符による[シン]の攻撃によってその動きが硬直したままのヴェルンドを見逃すはずもなく、[関聖帝君]は青龍
――ガキン!
「弾かれた!?」
『ククッ……!』
ヴェルンドはニヤリ、と
「むうっ!」
――ガイン!
もちろん先輩もそんな大振りの攻撃を受けるはずもなく、[関聖帝君]は青龍偃月刀の柄で鉄槌を受け止める。
「ふふ……どうやら力比べはこの私のほうが上のようだな……!」
『…………………………!』
[関聖帝君]はジリジリとヴェルンドを押し込んでいき、ついに相手を弾き飛ばした。
だけど。
「ふう……まさか、[シン]の【縛】が効かないとはな……」
「それだけじゃない。[関聖帝君]の一太刀が、突然現れた盾のようなもので弾かれてしまった……」
俺と先輩は距離を開けてヴェルンドを睨みつけながら分析する。
それに、あの盾。
あれは、ヴェルンドの持つスキル、【クラフト】と【高速作業】によるものだな。それで瞬時に盾を作っちまったか。
「ふむ……こうなると、少々時間が掛かってしまうか……?」
「いえ、サッサと終わらせてしまいましょう。この程度の
『任せるのです!』
俺がヴェルンドを指差しながら叫ぶと、[シン]は限界まで引き絞られた弓から放たれた矢のように飛び出すと、ヴェルンドの背後に回り込む。
『ッ!』
『遅いのです!』
ヴェルンドは近づけまいと鉄槌を振り回すが、[シン]からすればそんな大振りの攻撃なんかよけてくださいと言っているようなものだ。
当然、[シン]は隙だらけのヴェルンドの身体に呪符を何枚も貼り付けていく。
『一気に行くのですよ! 【爆】! 【烈】!』
『グ!? ゲ!? ゲゲッ!?』
呪符によって何度も爆発音が巻き起こると共に、ヴェルンドの身体が次々を切り刻まれていく。
というか、さすがに密着した状態じゃ【クラフト】で防具を作ることもできねーだろ!
『トドメなので……ッ!?』
さらに呪符を貼り付けようと[シン]が迫ったその時、ヴェルンドは【クラフト】で作った無数の剣をハリネズミのように全身に張り巡らせた。
「チッ! これじゃ呪符が貼れないか……」
「なら……その剣ごと叩き切るまで! [関聖帝君]!」
『!』
いつの間にかヴェルンドの死角に位置している[関聖帝君]が、青龍偃月刀を高々と振り上げると。
――斬ッッッ!
【一刀両断】スキルによって剣が叩き切られた。
『関姉さま! さすがなのです!』
そして[シン]も、[関聖帝君]の斬撃によって露わになったヴェルンドの身体に呪符を幾重にも貼り付ける。
『食らえなのです! 【爆】!』
『ッ!? ガガガガガガガガ!?』
ヴェルンドは呪符によって立て続けに起こる爆発により吹き飛ばされ、そのまま壁に叩きつけられた……って、オイオイ!? [シン]の奴、一体何枚の呪符を同じ場所に貼り付けたんだ!? ヴェルンドの奴、まだ爆発が終わらないモンだから、壁にめり込み始めてるぞ!?
「ふふ……相変わらず、望月くんも[シン]も見事!」
そこへ、先輩の[関聖帝君]が突撃すると。
「オオオオオオオオオオオオオオッッッ!」
すさまじい青龍偃月刀による連撃をヴェルンドに叩き込むと、ヴェルンドの身体が削がれ、刻まれ、切り落とされていく。
そして。
「終わりだあああああああああ!」
――斬ッッッ!
[関聖帝君]の最後の一振りにより、とうとうヴェルンドは上半身と下半身が分かれ、幽子へと変化した。
「やりましたね! 先輩!」
「うむ……!?」
俺は先輩の元へと駆け寄ると、その時、先輩が額を押さえてよろめいた。
「先輩!?」
「い、いや、大丈夫だ……」
少し顔を歪める先輩が心配ないとでもいうように俺を制止すると、何かを振り払うようにかぶりを振った。
「それより……早くサンドラとプラーミャの元へ行ってやれ……」
「は、はい……」
俺はチラリ、と先輩を見やった後、すぐにサンドラ達の元へと向き直る。
でも。
「……これでは、
背中越しに聞こえる先輩の呟きで、俺は確信した。
やっぱり……先輩の身体は
先輩……大丈夫、ですよ……。
俺が、絶対に救ってみせますから……!
俺は拳をギュ、と握りしめ、今はサンドラとプラーミャの姉妹ゲンカに集中した。
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