第130話 生徒会のお仕事

「マ、マア、桐崎先輩の事情は分かりましたけド……でしたら、元生徒会メンバー以外を勧誘してもよろしかったのでハ……?」


 サンドラはおずおずとそう尋ねると……あ、今度は氷室先輩が顔を背けた。


「ええと……氷室先輩?」

「いえ……別に大したことでは……」

「望月くん、サンドラ……氷室くんは、実は人付き合いが苦手でな……何故かほかの生徒達は、氷室くんが声を掛けると逃げて行ってしまうのだ……」

「ああー……」


 そういえば、『まとめサイト』にもそう書いてあったなあ……。

 その冷たい視線と誰に対しても無言のプレッシャーをかけ続けるその姿は、“アレイスターの氷結姫”と陰で呼ばれていると。

 だけど、本当は主人公が普通に接する(会話する)だけで好感度が爆上がりする、『ガイスト×レブナント』きってのチョロインだと。


「……そもそも、会長が他の生徒を勧誘すればよいのでは?」

「むむ……私も氷室くんほどではないにしろ、他の生徒からは避けられているからな……」


 そう言うと、二人の先輩は肩を落とした。

 いや、まあ……桐崎先輩はそもそも準ラスボスで、学園の生徒全員から嫌われているって設定だもんなあ……コミュ障の氷室先輩を含め、上手く人間関係を構築できる姿が思い浮かばない。


「ネ、ネエ、ヨーヘイ……」

「ん? どうした?」

「ワタクシ達、本当に生徒会に入ってよかったのかしラ……」

「まあ……桐崎先輩は言うまでもなくだけど、氷室先輩だって決して悪い人じゃなさそうだし……い、いいんじゃないか?」


 とはいえ、これから大変そうではあるけど……。

 俺は耳打ちするサンドラと顔を見合わせながら、これからのことを考え、一抹の不安を覚えた。


 ◇


「望月くん、二―一と三―三が出し物についてエントリーがない。至急確認をしてくれ」

「望月さん、学園祭における各部活への割り当ての関係で、サッカー部と男子バレー部が揉めているようですので、調整をお願いします」

「は、はいい!」


 早速生徒会の仕事に取りかかっている俺は、二人から次々と仕事を振られ、目を回している。

 というか二人共、各クラスや部活との折衝関係ばかり俺に押しつけてないか!?


「サ、サンドラ……ちょっとコレ……「…………………………キュウ」……あ、やっぱいいです」


 駄目だ、サンドラは変な声を出しながら机に突っ伏してる。

 いや、サンドラはよく頑張ったと思うぞ? あの二人の超人的な事務処理捌きにここまでついて行ったんだから。


「じゃ、じゃあ俺、ちょっと交渉しに行ってきます!」

「うむ、頼む」

「よろしくお願いします」


 先輩二人に見送られ、俺は生徒会室を出た。

 さて……それじゃ、まずは二―一と三―三から行くかー。


 ということで。


「すいませーん。生徒会ですけど、出し物の申請がまだ……って」

「ゲ!?」


 二―一に行くと、学園祭の出し物に向けた作業の真っ最中で、そこにはあの夏目先輩もいた。

 そして俺の顔を見るなり、露骨に顔をしかめる。いや、態度悪いな。


「なな、何の用よ!」

「いや、出し物の申請まだなんで、もらいに来たんですよ」


 というか、そんなに警戒しなくてもいいのに。

 あの賭けだって、むしろ夏目先輩の自爆なんだけどなあ……。

 

「チョ、チョット待ってなさい!」


 すると夏目先輩は、学園祭に向けて作業をしている一人の女子生徒のところに行って何やら話をし始めた。でも、なんだかもめてるみたいだなあ……。


「ホ、ホラ! 早く出しなよ!」

「チョ、チョット!? ……もう、うちのクラスはまだ出し物が決まってないから、申請できないんだけど?」


 夏目先輩が連れてきたその女子生徒は、夏目先輩以上に態度が悪かった。

 というかなんで俺、この人に敵意剥き出しで睨まれてんの!?


「で、ですが、出し物申請を提出していただかないと、せっかくここまで準備されているのに、このままじゃ二―一だけ学園祭に参加できなくなってしまいますよ?」

「ええ!? それは困る!」


 何故か夏目先輩が割り込んで俺に詰め寄る。だけど、文句を言うならこの人に言って欲しい。


「えー! 学園祭に参加できないの!?」

「何でだよ! 俺達、もうこんなに準備を進めてんだぞ!」


 おっと、二―一の生徒達がわらわらと集まってきたぞ?

 まあでも、これはちょっと好都合かも。


「いえ、出し物の申請をしていただければ、もちろん参加いただけますよ? ただ、こちらの先輩が、出し物が決まっていないからと言って、なかなか申請を出していただけないです」

「はあ!? どういうことだよ!」

「うちのクラスの出し物、とっくに決まってるじゃない!」


 俺の説明を聞き、二—一の人達がこの女子生徒を糾弾し始めた。その中には、もちろん夏目先輩も。


「あーもう! 出せばいいんでしょ、出せば!」


 そう言うと、その女子生徒はスタスタと席に向かい、何やら書類を取り出した。

 そして何かを書き込み、またこちらへと戻ってきた。


「ホラ! これで文句ないでしょ!」


 俺はずい、と手渡された申請書類を、内容に漏れ等がないか一通り確認する。


「はい、確かに受理しました。内容などについて分からないことがあれば、またお尋ねしますね」

「二度と来るな!」


 吐き捨てるようにそう言うと、女子生徒は作業に戻った。

 ええー……というか、なんでここまで言われないといけないんだよ……。


「え、ええと……君、生徒会だよね?」

「はい、そうですけど……」


 別の男子生徒に尋ねられ、俺は返事をした。


「……実は彼女、一年生の時は生徒会に所属してたんだよ。それが、今の生徒会長と、その……揉めちゃって……」

「ああー……」


 それなら、生徒会の俺が露骨に嫌われるのも頷けるかも。

 多分、俺が先輩の手先かなんかだと思ったんだろうなー。その通りだけど。


「すいません。教えていただき、ありがとうございます」

「いやいや、コッチこそゴメンね」


 そう言って、その男子生徒も持ち場へと戻る。

 だけど。


「うあー……ひょっとして次に行く三―三も、元生徒会のメンバーが邪魔するんじゃないだろうな……」


 そんな嫌な予感をひしひしと感じ、俺は思わずうなだれた。

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