第313話 追い込んでみる

「えへへ……まさかこんな形で、ヨーヘイくんとチームを組むことになるなんてね」


 放課後、“バベル”領域エリアに来た俺達は第十二階層を攻略していた。

 まあ、確かにアオイの言う通り、この六人・・で攻略することになるなんてなあ……。


「ふむ……賀茂カズマに取り込まれた加隈くんや土御門くんはともかく、氷室くんも領域エリア攻略に同行しないとはな……」

「あはは……まあ、家庭の事情・・・・・ということなら仕方ないですよ……」


 六時間目の授業中、カズラさんからスマホにメッセージが届いた。『家庭の事情で、これからしばらくの間は領域エリア攻略に同行できない』、と。


「マア、あの男の毒牙にかかったわけではないようですのデ、良かったですワ」

「はは、そうだな……」


 サンドラの言葉に、俺は乾いた笑み・・・・・を浮かべる。


「クク……しかし、ここの領域エリア幽鬼レブナントはその醜悪な姿もさることながら、それなりに歯ごたえはあるな」


 そう言うと、中条はくつくつと笑った。

 まあ、“バベル”領域エリアは二周目特典の五つの領域エリアの中でも、難易度が高いからな。


「そういえば中条の精霊ガイストって、レベルとかステータスはどうなってるんだ?」

「む、[デウス・エクス・マキナ]か?」


 中条はおもむろにガイストリーダーを取り出し、画面を俺に向ける。


 ―――――――――――――――――

 名前 :デウス・エクス・マキナ

 属性 :機械仕掛けの神(♀)

 LV :75

 力  :A+

 魔力 :SS

 耐久 :S

 敏捷 :S+

 知力 :S-

 運  :SS

 スキル: 【ツァーンラート】【カイロス】

【クロノス】【カステン】【火属性無効】

【水属性無効】【氷属性無効】【風属性無効】

【光属性無効】【闇属性無効】【聖属性無効】

【邪属性無効】【状態異常無効】【物理弱点】

【雷属性弱点】

 ―――――――――――――――――


 あー……能力自体はやっぱり規格外だけど、それでも、『攻略サイト』のステータスと同じだなあ。レベルだって主人公とのラストバトルの時と同じ、七十五だし。


「……確かにすごい強さだね……ヨーヘイくんがサンドラさんと二人掛かりで戦ったのも頷けるよ……」

「……悔しいけどネ」


 アオイとプラーミャも、[デウス・エクス・マキナ]のステータスを見てうなる。


「そういう二人は、今はレベルいくつなんだ?」

「あ、あはは……実は、クラスチェンジをしてから全然上がらなくて、[伏犠ふっき]もレベル七十二だよ……」

「フン……七十、ヨ……」


 そうかー……やっぱり二人も、クラスチェンジ後のレベル上げの壁に悩まされてたかあ……。


「ま、まあ、コツコツ幽鬼レブナントを倒して幽子を稼ぐしかないよね……」


 そう言うと、アオイはガックリと肩を落とす。

 このレベル問題に関しては、何かしら手を打たないと、だな。


「クク……どうやら次が来たようだぞ」


 そう言いながら中条が向ける視線の先から、またヘリオガバルスがやってきた。それも四体・・も。


「はは……第十二階層まで来ると、わらわらと現れるのな……」

『むふー! [シン]がまとめて消し去ってやるのです!』


 やはり心の底から嫌いなんだろう。[シン]は一気に飛び出し、ヘリオガバルスに肉薄すると。


『はう! 【爆】! 【裂】! 【凍】! 【雷】!』

『『『『ッッッ!?』』』』


 四体まとめて呪符を大量に貼り付け、一気に畳みかけた。


「トドメだよ! 【朱雀】!」


 アオイの[伏犠ふっき]が最強スキルを放ち、ヘリオガバルスを焦げ跡だけ残して消滅させると、マテリアルが床に転がり、幽子は精霊ガイスト達に吸収されていった。


「さあ、次の階層に進も……っ!?」


 サクヤさんが第十三階層へと繋がる階段に一歩踏み入れたところで、その動きがピタリ、と止まる。


 すると。


「はは……望月達は、まだこんなところでモタモタしてたのか」


 階段の上から現れたのは、賀茂だった。


「別にいいんだよ。俺達は慎重に攻略する主義なんでな」


 賀茂の皮肉に、俺は肩をすくめながら返した。


「そうか。そんなやり方をしているから、二人に見限られたんじゃないか? なあ? 加隈、土御門」


 口の端を吊り上げ、賀茂は後ろへ振り返りながら声を掛ける。

 そこには、うつむいた様子の二人が、大谷カスミ達に囲まれていた。


 まるで、逃がさないとばかりに。


「ふうん……ソレ、加隈と土御門さんがそう言ったワケ?」

「何なら本人に聞いてみるといい」


 そう言うと、賀茂が二人を顎で指し示す。


「加隈……土御門さん……」

「「…………………………」」


 名前を呼ぶが、二人はうつむくばかりで無言のままだ。


「……加隈くん、見損なったよ」

「フン……シキにとっての貴族の矜持・・・・・は、所詮この程度のものだったのネ」

「「っ! …………………………」」


 アオイとプラーミャに冷たい視線と言葉を浴びせかけられ、一瞬だけ顔を上げるが、また元のようにうつむいた。


 ……んじゃ、チョットだけ追い込んでみるか。


「……そういや土御門さん。いつも持ってる、『揚羽蝶紋入り扇』はどうしたの?」

「っ!?」


 俺の問い掛けに、土御門さんが息を飲んだ。

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