第128話 生徒会副会長、氷室カズラ

 ――キーンコーン。


 放課後になり、みんなが帰り支度を始める。

 もちろん、この俺も。


 すると。


「ねえねえ、今日はどの……「ホラ、アオイ! 行くわヨ!」……って、プラーミャ引っ張らないで!?」


 嬉しそうに俺に声を掛けてきた立花の襟首をつかみ、プラーミャが引きずって教室から出て行った。

 な、何というか……最近プラーミャの奴、やたらとアオイを連れ回してる気が……。


「フフ、プラーミャも仕方ないですわネ」

「お、サンドラ」

「それでヨーヘイ、今日は領域エリア攻略はどうするんですノ?」

「あっと、それなんだけど……」


 俺はサンドラに、先輩が生徒会で学園祭が終わるまでの間、領域エリア攻略に来れないことを伝えた。


「そうなんですノ……でしたら、これからどうするノ?」

「ああ、だから俺……生徒会に入ろうと思うんだ」

「生徒会ニ?」


 俺はサンドラに向けて頷いた。


「フウン……でも、生徒会って簡単に入れるんですノ?」

「一応、生徒会長のポスト以外は、生徒会長さえ指名してくれれば入れるぞ。で、生徒会長は誰だ?」

「あ……フフ、そういうこト」


 そう答えると、サンドラは含み笑いをした。


「でしたラ、ワタクシも一緒に生徒会に入りますワ」

「サンドラも?」


 いや、俺としてはサンドラが一緒に生徒会に入ってくれれば嬉しいけど……。


「だけど……生徒会って結構忙しそうだぞ? それに、今まで見たいに気軽に領域エリア攻略にも行けなくなるかもしれないし」

「構いませんワ。それに、先輩もヨーヘイもいないんじゃ、ワタクシも領域エリアに行きませんもノ」


 サンドラが肩をすくめ、苦笑した。

 はは、確かに……だって。


「そうだな……俺達、チームだもんな」

「フフ、そういうこト」


 俺とサンドラは微笑み合うと、一緒に生徒会室へと向かった。


「ここが、生徒会室だな」


 ドアに掲げられている『生徒会室』のプレートを確認し、俺はドアをノックした。


 すると。


「? 失礼ですが、どのようなご用件ですか?」

「うお!?」


 まさか後ろから声を掛けられるとは思わず、俺は驚いて振り向くと、それは一人の女子生徒だった。

 そして、俺はこの女性ひとを知っている。


 藍色の少し長めのボブカットの髪、同じく藍色の綺麗な瞳に整った目鼻筋、薄い桜色の唇、なにより、あの桐崎先輩すらも凌駕する巨大な胸……。


 そう、『ガイスト×レブナント』のメインヒロインの一人で、生徒会副会長でもあり先輩のライバル……“氷室ひむろカズラ”、その人だ。


「ア、ソ、ソノ……ワタクシ達、生徒会に入りたくテ……」

「生徒会に……ですか?」


 サンドラが答えると、氷室先輩は無表情で俺とサンドラの顔を見た。

 うう……なんか、やりにくいなあ……。


「む……なんだ? って、望月くん!? それにサンドラも!?」

「「あ! 先輩!」」


 生徒会室のドアが開き、中から先輩が出てきた。

 た、助かった……これ以上氷室先輩にジロジロと見られたら、息苦しくて仕方なかったところだ……。


「会長のお知り合いですか?」

「あ、う、うむ! 二人は私の大切な後輩だ!」

「あ、は、初めまして! 俺、“望月ヨーヘイ”っていいます!」

「ワ、ワタクシは、“アレクサンドラ=レイフテンベルクスカヤ”、サンドラとお呼びくださいまシ」


 俺とサンドラは自己紹介した後、丁寧にお辞儀した。


「そ、それで二人は、どうして生徒会室の前にいるんだ?」

「あ、そ、そうです! 実は、俺とサンドラを生徒会に入れて欲しくて、やって来ました!」

「な、なんだと!?」


 俺の申し出に、先輩が驚きの表情を見せた。


「だ、だが、急にどうして? しかも、生徒会の仕事は君達が考えているよりも大変なのだぞ?」

「そ、それは承知しています! だけど……俺達は生徒会に入りたいんです!」

「し、しかし……」


 先輩は顔をしかめながら言葉を濁らせる。

 多分、優しい先輩のことだから、俺達に苦労させたくないんだろう。


「そういうことでしたら、生徒会としては大歓迎です。会長、ここは彼等を絶対に受け入れるべきです」

「むむむ……」

「それに、彼等が入ってくれれば、今の状況は間違いなく好転します」

「むむむむむむ……」


 アレ? なんだかおかしな状況になってるぞ?

 俺はてっきり副会長の氷室先輩が反対して、先輩が喜んで入れてくれるものだと思ってたのに。


「会長」

「う、うう……」


 氷室先輩が無表情のままズイ、と詰め寄り、先輩がプレッシャーに耐えかねて後ずさりした。

 というか、あのいつも凛としている先輩がこんなに追い込まれているのを、初めて見た。


「……わ、分かった。生徒会への入会を認めよう」

「! あ、ありがとうございます!」

「フフ、ありがとうございまス」


 ふう……ようやく先輩が許可してくれたぞ。

 でも、いくら俺達を気遣ってのこととはいえ、なんでここまでかたくなに嫌がったんだろう?


「では、生徒会の業務などについて説明しますので、中へお入りください」

「は、はい!」

「ハイ!」


 氷室先輩に通され、生徒会室の中に入ると……うん、誰もいない。


「ええとー……他の生徒会の方は、どこか行かれてるんですか?」

「いえ、生徒会は会長と私、そしてあなた達二人の、四人です」

「「…………………………へ?」」


 氷室先輩の言葉に、俺とサンドラは思わず気の抜けた返事をした。

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