第216話 成り上がってやる!

※ 人物特定を避けるため、あえて一人称を『  』で、精霊の名前を[  ]で表しておりますが、ご了承ください。


■???視点


「さて、と……」


 『  』は部屋に変えるなり、ベッドに寝転がってスマホの画面を眺める。


「ウーン……だけど、今日はチョット失敗しちまったなあ……なあ、お前もそう思うだろ?」


 そんなことを呟きながら、隣にいる『  』の精霊ガイストに問い掛けると、精霊ガイストは首をコクコクと盾に振った。


「ハア……だけどさあ、いくら何でもアイツ、ヤバくない? というか、ヒロイン・・・・なのにあのツラはないだろ」

『[  ]もそう思うのです!』

「ハハ、だよなあ。『  』」


 精霊ガイストの同意も得て満足した『  』は、またスマホ画面に視線を戻す。

 そこには、あの醜い顔の伊藤アスカではなく、あくまでも『ガイスト×レブナント』におけるメインヒロインとしての、綺麗なイラストのアイツが表示されていた。


『マスターは、またその『まとめサイト』を見ているのです?』

「ん? おお、そうだなー」


 『  』は[  ]に対して生返事をすると、画面をフリックして登場人物の情報を読み漁る。


「ええと……次のメイザース学園との交流戦イベでは、確かアイツが出るんだよなあ……」


 そう呟いて画面をタップし、表示されたのは。


「“土御門シキ”……」


『ガイスト×レブナント』における最強の【闇属性魔法】の使い手であり、交流戦イベ終了後にアレイスター学園に転校してくるメインヒロインの一人。


「うん……やっぱりコイツを引き入れる・・・・・のがベストだよなあ……」


 何より、【闇属性魔法】は【邪属性魔法】と並んでデバフ系の魔法も充実しているし、【邪属性魔法】にはない強力な攻撃魔法も持ち合わせている。


 それに。


「土御門シキの精霊ガイスト、[道摩法師どうまほうし]には【式神】がある」


 そう。[道摩法師]の【式神】は、紙片を用いて様々な役割を持った人形ひとがたを使役する土御門シキだけが持つ唯一のスキルだ。

 それは、攻撃、防御、支援、その三つを全て【式神】が行うことで、レベルが最大になればたった一人で一個中隊規模の戦力を有することも可能だ。


「となると……土御門シキをこちらに引き入れたとして、クラスチェンジはさせないほうが無難か?」


 顎をさすりながら、『  』は思案する。

 クラスチェンジさせれば、[道摩法師]はより強力な精霊ガイストである[ヘル]になるが、そうなると【式神】のスキルは使えなくなってしまう。

 というか、主人公や他のヒロイン、仲間キャラなら主要スキルが引き継げる仕様なのに、よりによって土御門シキは引き継げないんだよ……。


「ハア……なんて嘆いてもしょうがないかー……」


 天井を仰ぎ、『  』は溜息を吐いた。

 そうだ……『  』が目的・・を果たすためには、贅沢ばかりは言ってられないな。


「まあ、そんなこと言ってても、はいくらでもある。その都度、状況に応じて替えていけば、それで事足りるか」


 そうだとも。

 『  』は主人公特化のフラグなんざ全部ぶっ潰して、無事にハピエンを迎えてやるって誓ったんだ。

 『  』の、最高の未来・・・・・のために。


「おっと。そういえばコレは、もういらないなあ」


 『  』はムクリ、とベッドから起き上がると、スマホをベッドの上に放り投げ、カバンの中から“恋愛上手になれる百の法則”というタイトルの、『古ぼけた本』を取り出す。


「……こんなクソみたいな本、なんだってそこまで大事なのかねえ。そもそも、『ガイスト×レブナント』の世界とは違うってのに」


 『古ぼけた本』を軽く振ると、『  』はゴミ箱の中へと放り込んだ。


「ハハ……アイツ、『古ぼけた本』が益田市のはずれでゴミとして埋め立てられたって知ったら、どんな顔するかな?」


 まあ、アイツのことだからとんでもなく醜悪なツラで鼻水たらして号泣するんだろうな。キモチワルイ。

 というか、まさかあのツラがメイクで固めた作り物だなんて、普通分からねーよ。


「そういう意味じゃ、この『  』が脅威を取り除いてやったようなモンなんだから、主人公クンは感謝して欲しいよな」


 といっても、実際の・・・主人公は女みたいになっちまってるし、ある意味違うけど。


「さあて……んじゃ、土御門シキを交流会イベの後に引き入れることは確定として、あと二人くらい増強したいから、そうだな……」


 ベッドに放り投げていたスマホを手に取り、『まとめサイト』のページをスライドさせる。


「……うん。せっかくだし、今度は『形見のライター』と『屋上の鍵』にしようかな?」


 そう呟いた瞬間、『  』の中から笑いがこみ上げてきた。


「ハハハハハ! アイツ・・・、コレを知ったらどんな顔するかな!」


 いやあ! コレってメッチャ驚くどころか、ひょっとしたら絶望して心が折れちまうんじゃねーか?

 なにせ、これまでの苦労が全部台無し・・・・・になるってことなんだからな!


「ハハハ! [  ]!」

『ハイなのです!』


 『  』は[  ]を手招きすると、ギュ、と抱き寄せた。


「[  ]、『  』は絶対の今の状況を変えてやる。こんなこのクソゲーなんかメチャクチャにして、この『  』が最強に成り上がって全て・・を手に入れてやる!」

『ハイ! マスターなら絶対にできるのです! [  ]は……[  ]は、マスターと一緒にずっとずっとどこまでも行くのです!』

「ああ!」


 『  』は[  ]を強く抱きしめ、そう宣言した。

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