第215話 ルフランでのひと時

■アレクサンドラ=レイフテンベルクスカヤ視点


「フエエエエ……」


 クラス代表選考会の全日程が終了した日の夜、ワタクシはクローゼットをひっくり返して明日着ていく服を選んでいル。

 というのも、ヨーヘイがあの頭の悪い教師の不正ジャッジのせいで予選落ちした時。


『悪いな……選考会が終わったら、ルフランでスイーツおごってやるから』


 ハッキリと、このワタクシにそう言ったのですワ!

 それでヨーヘイったら、わざわざメッセージアプリで明日行こうっテ、誘ってくれたんですノ!


 となれば、これはもうデート! デートなんですのヨ!


 デモ。


「ヨーヘイは、どの服でしたら喜んでくれるんでしょウ……」


 せっかくですかラ、ワタクシはヨーヘイに可愛いって、素敵だねって言って欲しイ。


 すると。


「ハア……サンドラ、一体いつまで服選びをしてるのヨ……」

「ダ、ダッテ……」


 呆れるプラーミャに、ワタクシは思わずうつむいてしまっタ。


「モウ! こうなったらチョット待ってなさイ!」

「ア!」


 そう言うと、プラーミャは部屋から出て行ってしまった。

 ですけド、プラーミャはどこに行ってしまったんですノ? それでしたら、ワタクシの服選びのアドバイスをくれてモ……。


 そんなことを考えているト、プラーミャは真剣な表情……イエ、どこか黒い笑みすら浮かべながら戻ってきタ。


「ホラ! 明日はこれで行くのヨ!」

「コ、コレ!?」


 ワタクシはプラーミャが持って来た服に、文字通り・・・・思わず目を白黒させてしまウ。


「ワ、ワタクシにこの服を着ろっていうんですノ!?」

「そうヨ。多分、ヨーヘイはチョット変態だと思うから、この服を見たら絶対に食いつくに決まってル!」


 鼻息荒く、ずい、と服を押し付けてくるプラーミャ。

 と、ところデ。


「……プラーミャは、どうしてこんな服を持っているんですノ? 普段、このような服を着たこと、ありませんでしたわよネ?」

「ヘ? マア……これはチョット、アオイに……(ゴニョゴニョ)」


 今、立花サンの名前が聞こえたような気がしましたけド……き、気のせいですわよネ?


「ト、トニカク! コレをサンドラが着れば、間違いないかラ!」

「フ、フエエエエ……」


 デ、デモ、さすがにこの服は恥ずかしイ……カモ……。


「……桐崎様に、負けてもいいノ?(ボソッ)」

「ッ!」


 プラーミャの呟きに、ワタクシはハッとなル。

 そ、そうですワ……普通にヨーヘイと接してるだけジャ、ヨーヘイは永遠にワタクシを選んでくれることはありませんワ……!


「……分かりましたワ。ワタクシ、明日はこの服を着て行きまス」

「フフ……いい顔。それでこそ、ヤーの愛するサンドラネ」


 不敵に笑うプラーミャと、ワタクシはガッチリと握手しタ。


 ◇


「フフ……やっぱりヨーヘイはもう来ていますわネ……」


 待ち合わせの益田駅の前。

 一時間以上早く、ヨーヘイはやって来ておもむろにスマホを眺めていタ。


 こういうところ、ヨーヘイってマメですわよネ。

 絶対に待ち合わせ時間に遅れないように、いつもこんなに早く来てますシ。


 ……マア、ワタクシも同じ時間に来てる時点で、何も言えませんけド。


 サ、サア! プラーミャがチョイスしたこの服で、絶対に『可愛い』って言わせてみせますわヨ!


 ワタクシはフンス! と意気込むと、ヨーヘイの元へと向かウ。


「お、お待たせですワ!」

「おー、来たな……っ!?」


 スマホから視線をワタクシへと移した瞬間、ヨーヘイが目を見開いタ。

 で、ですけどこの反応、ひょっとして似合ってなかったりするんですノ……?


 デ、デモ! 昨日試着した時は、プラーミャは大絶賛してくれたんですのヨ!?

 ですからきっト、ヨーヘイだっテ……!


 そう自分に必死で言い聞かせるけド、ワタクシの心に不安ばかりが渦巻ク。

 モシ、ヨーヘイが気に入らなかったら、どうしよウ……。


 ワタクシは胸が苦しくなり、キュ、と胸襟を握ル。


 するト。


「あ、あー……さすがにその服は予想してなかった……で、でも、サンドラには超似合ってるぞ!」

「! ホ、本当ですノ!」


 ヨーヘイのそのたった一言で、苦しかったワタクシの胸が、今度は別の苦しみに襲われル。

 ですけド、これは嬉しさと幸せが入り混じった、そんな苦しミ。


「お、おう……というかサンドラも、ゴスロリ・・・・なんて着たりするんだなあ……」


 そう言うと、ヨーヘイがしげしげとワタクシの服を見回しタ。

 ウウ……チョット恥ずかしくなってきタ……。


「それに見てみろよ。駅前の通行人が、全員サンドラに釘付けいなってるぞ」

「ア……」


 ホ、本当ですワ……さ、さすがにこれは恥ずかし過ぎますワ……。


「ヨ、ヨーヘイ! 早くルフランに行きますわヨ!」

「うわっと!? お、おう……!」


 ワタクシは早くこの場から立ち去りたくテ、ヨーヘイの手を引きながら駅前から立ち去っタ。


 ◇


「フフ……美味しいですワ……!」


 ルフランに来たワタクシとヨーヘイは、早速スイーツに舌鼓を打ツ。

 モチロン、約束通りスイーツは目の前に二つ用意されていタ。


「はは……だけど、ここでもサンドラは注目の的だなあ」


 そう言いながら、ヨーヘイは店内を見回す。

 マ、マア、チョットここまで見られてしまうのはどうかと思いますけド、ヨーヘイだって気に入ってくれてますし、あ、甘んじて受け入れますワ。


「それにしても、サンドラのそのアップルパイ、普通のヤツとチョット変わってて美味そうだなあ」

「フフ、これはルーシでは“シャルロートカ”と言うんですのヨ」

「へえー、俺にも一口くれよ」

「エエ」


 ワタクシは皿をヨーヘイの前に差し出すと、フォークで一口サイズに切って口に含んだ。


「おお……! コレ、俺好きかも!」

「本当ですノ! でしたら今度、ワタクシが作って差し上げますワ!」

「ええ!? サンドラって、コレ作れんの!?」


 ワタクシがそう提案した瞬間、ヨーヘイは驚きの声を上げル。

 というカ、ひょっとしてワタクシができないと思ってましたノ?


 少し腑に落ちないワタクシは、ジト目でヨーヘイを睨むト。


「い、いやだって、弁当で肉串出てきた時は、その……なあ……?」

「フエ……」


 い、痛いところを突かれましたワ……。

 で、ですけどアレはプラーミャが、そのほうが喜ぶらっテ、男の子はお肉が大好きだからって言ったかラ……。


「ぜ、絶対に作ってヨーヘイに食べてもらいますワ! エエ! そうですとモ!」

「お、おう……」


 フフ、これであの時の汚名を挽回するのですワ!

 ワタクシはテーブルの下で拳を握りながら小さく意気込んだ。


 それからワタクシは、ヨーヘイと一緒に過ごして一日を思いっ切り楽しんダ。


 ……ア、ソウソウ。


 ヨーヘイがシャルロートカのフォークをつけた部分を、いつもの倍以上も咀嚼そしゃくしたことはナイショですのヨ?

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