第85話 加隈の因縁

「オ、オマエ! 転校生のクセに生意気なんだよ!」

「…………………………」


 俺達が教室の扉を開けようとした、その時、何故か『ガイスト×レブナント』における主人公の友人キャラ、“加隈ユーイチ”が、無言で睨む立花に絡んでいた。


「アレ……ヨーヘイが一-二にいた時に、いちいち絡んできてたっていう加隈とかいう奴ですわよネ……?」

「お、おお……」


 サンドラの問い掛けに、俺は気の抜けた返事をした。

 というか……なんでアイツがこの教室に? ……って、こうしちゃいられない!


 俺は慌てて立花の元へと駆け寄る。


「立花! 一体どうしたんだ?」

「あ、望月くん……彼が急にうちのクラスを尋ねてきて、その……望月くんを出せ、って……」

「俺?」


 立花が少し気まずそうに答えると、俺は思わず自分を指差す。

 というか、加隈が俺に用事? 一体何の?


「ええと……俺になんか用?」

「ハッ! しらばっくれるなよ! オマエが一-二からこのクラスに移ってから……いや、オマエが木崎さんに関わってから、ろくなことがねえ! それもこれも、全部オマエのせいだ! オマエが何かしたんだろーが!」


 加隈は、まるでまくし立てるように俺に詰め寄ってきた。

 いや、そもそも木崎が俺をおとしめて“グラハム塔”領域エリアに置き去りにしたことが原因だし、その後の悠木の件だって、俺が誘いを断ったからって勝手に絡んできて、しかも領域エリアボスとの戦闘の時に俺達を襲ってくるなんて馬鹿な真似をしたからなんだけど……。


「オマエのせいで……オマエのせいで、俺がどうなったか言ってやろうか? あの時、オマエのあのゴブリンだった精霊ガイストが卑怯な手で俺の[トリックスター]を動けなくしやがったから、一晩中あのまま俺は置き去りにされたんだ!」

「…………………………あ」


 そういや……俺、[シン]に解除してやるように指示してなかったわ。

 だけど、そうかー……あの呪符の効果、一応丸一日効果があるんだな。これは新しい発見だ。


「それからの俺は、ゴブリンごときに負けたってことで、クラスの連中から見向きもされなくなった! 当然、悠木にもだ!」

「…………………………」

「で、悠木はオマエを襲っただの訳の分からねえ冤罪で学園追い出されて、残ったのはもう俺だけだ! それもこれも、全部オマエのせいなんだよおおおおおおお!」


 加隈は俺の胸倉をつかみ、その顔を鼻が触れ合うほど近づけて睨みつけた。

 いや、というか全部オマエ達の自業自得だろうが。


「ちょっと! 望月くんから離れなよ!」

「ヨーヘイから離れるのですワ!」


 すると、見かねた立花とサンドラが間に割って入り、加隈を押し退ける。


「ハ、ハハ……ナンダヨ……自分はとっととクラス替わって、今じゃそんなカワイイ女子達とヨロシクやってるってか? フザケルナ! フザケルナよおおおおお!」


 血走った目で、加隈は俺を……俺だけを睨みつける。

 まるで、何かに取り憑かれたかのように。


「オマエが……オマエが、全部悪いんだあああああああああ! [トリックスター]!」


 そう叫ぶと、加隈は精霊ガイストを召喚した!?


「バ、バカ野郎! 精霊ガイストなんか呼び出して何するつもりだよ!」

「決まってるだろ! あん時はオマエが卑怯な真似したからたまたま・・・・あんなことになっちまっただけだ! だったら! 俺が今度こそ証明してやる! 俺は強いってことをなあああああ!」


 マ……本気マジかよ……!

 というかコイツ、木崎クソ女と悠木のバカがどうなったか理解してねえのかよ!?


「フザケルナ! オマエが望月くんとどんな関係なのか知らないけど、望月くんを馬鹿にするな! 望月くんは……望月くんは、強くて優しくて、カッコイイんだ!」

「そうですワ! ヨーヘイは決して卑怯な真似なんかしなイ! ヨーヘイは、いつだって前を向いて走ってますノ! オマエ達なんかと一緒にするナ!」

「ウルセエッッッ! だったらオマエ等からボコボコにしてやんよ!」


 加隈は矛先を変え、俺じゃなくて立花に[トリックスター]を仕向けた。


「食らえ! 【ダブルリフト】!」


 すると[トリックスター]は二人に分かれ……サンドラは無視して立花に襲い掛かる。

 恐らく、既に“グラハム塔”領域エリアを踏破しているサンドラには敵わないと踏んだんだろう。だから、転校してきたばかりの立花なら勝てるって考えやがったのか。


 だけど。


「……それで?」

「グハッ!?」


 立花が召喚した[ジークフリート]が、[トリックスター]の鳩尾みぞおちに容赦なく剣の柄を叩きこんだ。

 当然、[トリックスター]と精霊ガイスト使いである加隈はその衝撃でもんどりうって倒れる。


「キミ……弱いね。望月くんとは大違いだよ」

「……な、何だと……ッ!?」


 加隈を見下ろす立花のその冷たい視線に、加隈は思わず息を飲んだ。


「ハア……もういいよ。キミ、消えてくれるかな?」

「ヒ、ヒイッ!?」


 [ジークフリート]がその剣を振り上げ、加隈に叩きこもうと……っ!?


「バカ! 止めろ! [シン]!」

『ハイなのです!』

「っ!? 望月くん!?」


 俺は慌てて[シン]を召喚し、呪符を[ジークフリート]に貼り付けてその動きを止めた。


「落ち着け立花! そんなモン加隈に叩きつけたら、怪我じゃ済まないだろうが!」

「あ……」


 俺の言葉を受けて、立花はようやく冷静さを取り戻す。


「ゴ、ゴメン……」

「ハア……分かればいい。[シン]、[ジークフリート]の呪符をjはがしてやってくれ」

『了解なのです!』


 [シン]が呪符をがしたことで、立花と[ジークフリート]は自由に動けるようになった。


「加隈……もう行けよ」

「っ!?」


 俺がそう告げると、加隈は一目散に教室を出て行った。


「ったく……何だったんだよ……」


 俺は加隈が出て行った教室の扉を眺めながら、ポツリ、と呟いた。

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